ジンジン(仁々)家族

目が覚めた。良く分からない。周りが白い。病院にいるようだ。

拡大化された夫の顔が、笑顔で迎えた。「おめでとう、仁子(としこ)」(・・・あっ)赤ん坊の声が、横からする。「ああ、、、ありがとう」「コイツさ、そっくりだぜ、俺に」深い笑窪でご機嫌だ。未だ半分疲れてえいるが、段々記憶が戻って来る。遂にママ。母親にわたしもなったのだ。

結婚して五年半。とて、我々は若い。共に25歳である。20歳(はたち)一寸の結婚は、一般に言えば若かろう。「ヤンパパ」「ヤンママ」類いである。ヤン=ヤング、若いではなく、ヤンキー。族と解釈し、この場合は使われる。実はわたし達も夜な夜な、ナナハンで夜の街をぶっ飛ばし、奇声を挙げまくり、、、なんて出会いではない。

小学三年生の秋、夫がわたしのクラスに転入して来た。

「雅(みやび)くん。雅直人(みやびなおひと)くんです」大人しそうな少年だった。「橘(たちばな)さんの隣の席が空いていますから、そこにしましょう」近づいて来た時、恥ずかしそうにわたしに頭を下げて来た。「今日ねぇ、転入生が来たの。<雅>って言うんだって。<ガ>とも読むよねぇ。わたしの隣になったの」夕食の時、母に喋ったのを憶えている。

五年生になったと同時に、今度はわたしが引っ越した。六年生の時、中学時代。お互い転々とする家であったが、何故か近くに住むんである。

「雅さんちが、近いんだって」「橘さんちも」何度となく、家族を通じて耳にしていた。「ふぅ~ん」「そうなの」程度が長い間の認識であったが、高校が一緒になった。「腐れ縁だな」大人しそうだった少年は、普通に喋る少年に。「そうだわね」なぁ~んて言ってる内に、自然、一緒になったのだ。

そっくりな赤ん坊を眺めに眺め、いじくり廻しては、一人で夫は喜んでいる。レモン色の開襟シャツは、卸し立てのようだ。ぼぉ~っと昔を思いながら見ていると、瞬間、目が合った夫が我に返って提案する。「名前。コイツの名前なんだけどね」ポケットから折り畳んだ紙を広げる。小さな欠伸を繰り返した赤ん坊は、すやすやと寝入った。

「うん」広げられる紙に書かれた名前に興奮しながら、返事を返す。<継仁(つぐひと)>ハッキリと記される。太い筆ペンの文字だ。

「継仁。つぐひと、なんてどうかな?」「いいんじゃない」「そうか」大きく夫は頷いた。紅顔している。思いやりを継ぐ。継承する。いい名だ。

「俺も<人>だろ、正式に言えば<ひと>だけど、<じん>とも読むしね、お前も<仁>。本当は<とし>だけど。だからコイツもそのように。皇族に肖(あやか)って。雅な人々達のように」「いやぁね、ウチ<雅>じゃない」「そうだったな。ジンジン家族、その内近所で噂されるぞ。早速、コイツの名前も標札に入れよう。なぁ、坊や。ジュニア」

お返事でもするかのように、継仁は又、小さな欠伸をした。<了>








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