夫の自己研鑽には敵わない【新婚日記】
夫が今話題のポケカアプリをはじめた。
昔ポケモンカードを集めたことはあるが、集める専門だったので、実際のカードゲームのルールはよく知らない私である。
夫はポケモン愛はまあ並か、若干平均より高いくらいの熱量なのだが、収集癖と好きなものに対して見せる爆発的な『自己研鑽』に不安になる。
『鬼滅の刃』にハマった時は、品薄だったそれを本屋を何軒もはしごしてコンプリートしたり、大学時代も野球ゲームアプリをやり込みすぎて無課金で課金アカウントさながらに育成し、最後はアカウントを高額で売却。
最近はとっくにクリアした『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の熱が再燃し、未攻略要素をやり込み。
このゲームは私も大好きだが、なにせ要素が多くて、好きでもやり込むには限度があると思ってしまう。普通にストーリーをクリアした段階ではクリア率は(よっぽど丁寧にプレイしていれば別かもしれないが)50%以下だと思う。
私は本筋だけできれば満足なので、例に漏れず40%ほどのクリア率だったが、夫がやりこんで60%近くまで押し上げている。
そんな夫が、ポケカアプリを始めて、胸騒ぎがする。しかも高校時代の友達数人とフレンドになっており、そのうちオンラインで繋いでバトルするのだと。
これはいけない。経験上、夫は一緒にやり込む仲間がいるとさらに『自己研鑽』に拍車がかかる。負けず嫌いなので、バトル要素があると尚更で
『スプラトゥーン』や『マリオカート』に費やした時間は普通の人なら軽く引くと思う。
もちろん、ごちゃごちゃ言う資格はないし、好きなことをしてほしい気持ちもある。だけど、ざわざわしている気持ちもわかってほしい...!
『度を越えなければいいけれど』。
ご飯の支度の側、ソファーで自己研鑽に取り組む彼を見てそう思っているつもりだったのだが、夫は私の顔に
『何やってるの?ご飯作るの手伝ってよ!』
と書いてあると思ったようであった。(実際自分が認識を捻じ曲げているだけでこちらが正しいかもしれない)
その後の食卓は静かで、なんとなく険悪でポケモンカードの『ポ』も出てこなかった。飛び出してきたのはポケモンではなくて、先月の結婚式の写真の話で
「そういえば、結婚式の集合写真がメールで来てたんだけど、見た?」
と夫はジャブを打ってきたが
「まだ」
でスッと避けてまたしばしの沈黙が訪れる。
ポケモンが飛び出してきたのは食後。
夫がポケモンカードを引かせてくれると言ってきた。それで私の機嫌が取れると思っているあたりが可愛いのだが、わたしもまんまとつられてしまうので簡単かもしれない。
自分の好きなものを仕方なく差し出す子供のような顔をしていたが、私もポケモンカードを集めていた身。正直いうと、アプリでどんな仕様になっているかは気になっていた。
一定時間が経つとパックが一つ(場合によっては10パック)、つまり5枚入ったカードの包みが開封できる仕組み。一パックの開封のみだと15パックほど円形にパックが出てきて、それを自分で選び、スワイプで開封。
昔の体験が凝集されており、感動してしまった。
強いていうなら子供の頃は同じ絵柄のパックの厚みや重みを確かめて、渾身の一パックを選ぶという手触りがあったことだけれど、シュバっとスワイプで開封した瞬間、指先の感覚を頼りに選んだパックのツルツル感がいたく蘇ってきたのですごいなあと独りごちてしまった。
クルクル回る10パック余の中で一つを選ぶのは、選んでいるようにみせて『仕様』に踊らされているのではないかという、パリオリンピック柔道団体のルーレットがよぎった。けれど、そんなことは些細な問題で美しい思い出のかなた、どこかにいってしまった。
一枚ずつどきどきしながらカードをめくっていく。きらきらのレアカードがばばんと出てきた時、昔ポケモンカードでスイクンを引き当てた時の純粋な喜びを思い出した。
スイクンが今のポケモン界でどのくらいの知名度があるポケモンなのか分からないのだが、私にとってスイクンは、自分が引き当てたはじめての伝説のポケモンであった。
当時、年上の男の子に言いくるめられて、なぜか他のカードと交換してしまったことも含め今でも悔しくなる懐かしい思い出。あの経験で、私の慎重さが形成されたまである。
その後、きらきらのピカチュウ(exとついた、ピカチュウの中でもレア物!)を引き当てて、ウキウキしながら順調に収集していく。
次は、キラキラのディグダが出てきた。ディグダはもぐらのポケモンで、ゲームでも序盤に出てくるキャラクターである。案の定このゲームでも強いキャラではなく、NINTENDOのポケモンファンへの計らい、もしくは遊び心的にきらきらのカードを用意しているようだった。
夫はバトルのために強いポケモンが欲しいといい、『自分はこういうのに興味はないんだよね、強いのがいい』といった。実利をとる夫らしい言いようだが、私はキラキラのカードが一枚増えたのが単純にうれしく、そのカードがアプリのカードフォルダに吸い込まれていくのをみて、静かに満ちていた。
二人でカード開封し、一喜一憂する夜がしばらく続きそうである。
旦那から『ゲンガー引いた』という平和な、けれども拳を握る報告がきた時にもらったので、最後にゲンガーをお目見えしておく。