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【読書メモ】半年で読んだ108冊をまとめて紹介!

 2024年も半分が終わっちゃう!
 というわけで、上半期に読んだ本のザックリした感想をまとめました。「なにか本を読みたいけれど、なにから読んだらいいか分からない」という人は、とりあえずこの記事を流し読みしてみましょう。
 なにから読んだらいいか分からないなら、なんでもいいから読むがよし。


『書を捨てよ、町へ出よう』寺山 修司


・60年代サブカルチャーの空気を肌で感じられる一冊。
・著者が競馬エッセイストなので、中盤はこれでもかと競馬の話が続く。タイトルを『書を捨てよ、競馬行こう』にしたほうがいいんじゃない? と思うくらいに。
・「若い青年の恋人であるべき若い女性が、体力的に劣っているはずの老人に寝取られている」という、嘘かホントか分からない世代間対立論が繰り広げる章がある。当時はウケたのかもしれないけれど、いまは世代間対立は良くないという風潮が主流であり、私もそう思う。

『華氏451度〔新訳版〕』レイ・ブラッドベリ (著) 伊藤 典夫 (訳)


・ディストピアSF。本の所持が禁止された未来において、人々の娯楽は自室の壁にひっきりなしに投影される刺激に溢れた映像となった。能動的な知識の取得が禁じられ、一方的に見させられる映像からの受動的な刺激のみを注ぎ込まれる。
・昔の作品を「現代を予言していた!」と持ち上げるのはこじつけ感が否めないことが多くて好きではないのだけれど、本作だけは言わせてほしい。本をじっくり読む時間が無くてスマホでSNSばかり見てインスタントな刺激ばかりを求める現代を予言してるわ、これ。

『可燃物』米澤 穂信


・『氷菓』の作者のミステリ連作短編集。カジュアルな学園モノのそれと違って、こちらは刑事が主人公でわりと硬派な雰囲気。
・最初の事件は比較的推理難易度が低めなのでぜひチャレンジしてみよう。「被害者を殺害した凶器は何か?」という命題がハッキリしているので。2話以降はまず「何を推理すべきか」を考えなければならないので難易度が高め。

『アーセナルにおいでよ』あさの あつこ


・Audibleファースト作品。オーディオブックのために書き下ろされた小説であり、文字の本は今のところありません。
・「若者たちが現実と戦うための武器庫を作る」という目的のベンチャー企業が舞台。「スクエア」というサイトを運営しており、そこに利用者の若者がいま直面している問題を書きこむ。それへの解決法が他の利用者から提示される仕組みであり、「しっかりしろ」「がんばれ」などの精神論は削除される。言うなればクソ回答の無いYahoo!知恵袋みたいな感じ。なにそれ有能。
・「欲しいのは武器だ。『しっかりしろ』も『がんばれ』もいらない。目の前の現実と対等に切り結ぶための武器が必要だ」という言葉が印象に強く残っている。もっと具体的な、いますぐ使えるものがみんな欲しいんだよ。

『知的生産の技術』梅棹 忠夫


・1969年当時の効率的なメモのまとめ方、ノートの整理の効率化のノウハウが詰まった一冊。
・だけど残念ながら、パソコンやスマホが普及した現代では「デジタルでやればよくない?」と思ってしまうものが多数ある。たとえば「メモ書きはノートではなく小さなカードに書けば、後から順番を自由に組み替えることができる。カードはいいぞ」というけれど、今ならスマホのメモアプリにコピー&ペーストで事足りてしまう。
・アナログ派の人や、理由があってデジタルではなくアナログ媒体を使わなければならない人なら今でも参考になると思う。仕事中にスマホを使えない雰囲気もしくは規則がある職場もまだ多いだろうし。

『私が殺した少女』原 りょう


・とある少女誘拐事件の身代金受け渡し役になってしまった主人公。犯人の指示で車を四方八方に走らせて、身代金を渡そうとするが―—―
・誘拐事件を描いたサスペンス。主人公はいわゆる巻き込まれ系。巻き込まれるのがラブコメならまだ良いのだが、本作は誘拐事件なのであった。身代金受け渡しの緊張感と、その後の展開で徐々に明らかになっていく真実が、実に手に汗を握らせてくれる。
・1989年の作品なので、外での通信手段が携帯電話ではなく公衆電話なのが逆に新鮮に感じる。指定されたファミレスで犯人に電話をしなくてはいけないのに、公衆電話からいつまでもどかない客がいるせいで連絡が遅れる、という展開もこの時代なら可能なのである。

『八日目の蝉』角田 光代


・「母」になれなかった女性が、愛した男の子供を誘拐して母になろうとする話。
・本作の舞台となる80年代は「女は結婚して子供を産んで一人前」という意識が今よりずっと根強かった。カッコ付きの「普通」になれない女性の劣等感が、誘拐という選択をさせたのかな~と。
・この作品から受け取るメッセージは、本当に人それぞれだと思う。中には「何を言いたいのか分からなかった」という人も一定数いるだろうし。私は「たとえ『普通』になれなくても、周りと同じじゃなくても、だからこそ誰にも見れない景色を見ることができる」だと解釈した。「わかりやすい物語」を求めていない人にオススメ。

『白い闇の獣』伊岡 瞬


・「少年法に守られた凶悪少年を許すな!」みたいな感じの話。小学生の少女が殺害されて、犯人の少年たちは逮捕されるも当時の少年法の規定により数ヶ月で社会復帰。それから4年後、少年たちは相次いで謎の死を遂げる。さて、このセンセーショナルな事件の真相やいかに。
・あとがきで「本作は少年法の是非を問うものではない」と書いてあるけれど、いかにも少年法バッシングな設定なのにそれはいささか無責任じゃないかなーと。
・女性への暴力、および性暴力の描写がガッツリあるので注意。

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』デヴィッド グレーバー (著) 酒井 隆史 (翻訳) 芳賀 達彦 (翻訳) 森田 和樹 (翻訳)


・書店の入り口に平積みされているのをよく目にする本。
・なぜ、無くても構わないような仕事が増えるのか。どうでもいい業務をやらされる人が減らないのか。働き方がこれだけ変わったのだから、1日3時間勤務の世の中になってもいいはずなのに、なぜ未だにフルタイムがスタンダードなのか。市場原理を追求する資本主義社会ならば、意味のない仕事は「見えざる手」によって淘汰されるはず。なのに、なぜ?
・その理由の一つとして、本書は「仕事が減ることで時間的・心理的余裕を持てる人が増える。そうすると政治的アクティビズムを始める人が増えてくるので、それを防止するための社会的な要求として、無理やりにでも無駄な仕事を作って人々に押し付けている」と論じる。
・私としては、本書で例として挙げられる「鳴らない電話の前に1日中座ってるだけで給料が出る仕事」にはぜひとも就職したいところだけど、本書が提唱することによると、そんなノンキなことを言ってもいられなさそうだなあ。

『夜は短し歩けよ乙女』森見 登美彦


・京都を舞台にした現実的和風ファンタジー。
・いきなり妖怪などが出てくるわけではなく、現実的な世界から非現実の世界へと誘う過程を描くのが上手い。夜の先斗町(京都のオシャレな町)を彷徨っていたら、豪華絢爛な三階建ての屋台電車が目の前に滑り込んできて乗車することになる。もちろん先斗町にそんな電車は走っていない。別の話では、真夏にこたつで激辛鍋を食わされることになってヒイヒイ言っていたら、鍋の中からカエルが這い出てきて火を噴き、そいつを唐辛子まみれになったニシキヘビが食らう。「そんなことが起こってもおかしくないか・・・」と読者を納得させるだけの説得力がある描写と、現実から徐々に非現実へと段階を踏んで読者をいざなう構成は見事だと思う。
・1話からセクハラシーンがあり、しかもセクハラを働いた男がほとんど罰せられず「なんだかんだで良い人でした」で終わるのがやだな~と思った。

『いなくなれ、群青』河野 裕


・湿度高めの男女物。
・不思議な島「階段島」。ここの住人はみんな「捨てられた人」であり、島から出る方法はひとつ。失くしたものを見つけること。
・人は子どものうちに自分の「欠点」を見つけて、切り落とすことを成長と呼び、やがて大人になる。だけど「欠点」だとされたものも、自分を構成する要素の一つであることに間違いはなかった。その切り落とされた「自分」はどこへいくのか。本作を読めばその行き先が分かる、かもね。

『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』石川 博品


・信じられる? このタイトルで異能バトルが始まるんだぜ・・・
・良くも悪くもB級で、ぶっ飛んだ設定と急展開の連続。ジェットコースターみたいな展開に振り回されたい人には向いている。だけどお色気やラッキースケベ要素はちょっとクドかった。
・将来の夢を持たない少年が物語の中で夢を見つける、というのはよくある話。だけど、その夢が「化け物と戦う」というのはいささか唯一無二がすぎるぜ。

『体育館の殺人』青崎 有吾


・タイトルから分かる通り、ミステリ。探偵はアニオタ高校生。他のキャラと会話してる最中にも普通にとらドラとかFateのことを言い出すので、好き嫌いはハッキリ分かれそう。
・密室殺人の舞台は体育館。高校生までの学生にとってはイメージしやすい現場だと思うので、本作に興味のある学生の皆さんは今のうちに読んでおくといいかも。
・本格ミステリでたまにある「読者への挑戦状」がある。解決編の前に差し込まれる「手がかりは全て示された。読者諸君、推理してみたまえ」みたいなやつ。作中でもセルフツッコミされているけど、実際に推理してみる人ってどれくらいいるんだろう。なお、本作の推理難易度は高め。鋭い着眼点が必要なうえに、最後に犯人を絞り込む過程は消去法となる。犯人が分かったらスゴい。自信がある人は挑戦してみてはどうでしょう。

『リアデイルの大地にて』1巻 Ceez


・いわゆるMMOもの。あとがきによると世のWEB小説サイトでMMOものが流行る前に書かれたらしい。いわゆる先駆者というわけです。
・物語の構成は起承承承承承承承承承承承承承承承承転結と言えばいいのか、ひたすら「承」が続いて、話が盛り上がるのはいつですか? 状態になる。こういう、ずっと同じような展開が続くやつはWEB小説発の作品でよくある印象。

『線は、僕を描く』砥上 裕將


・「必ずしも、 拙さが巧みさにに劣るわけではないんだよ」という一文が沁みる。小説書き志望やっていると、先達が書かれる「どうやったらこんな上手い表現思いつくの!?」に打ちのめされることが多いけれど、ひるんではいけないと思う。
・両親を失くしてカラッポになった少年が水墨画と出会う話。フィクションとはいえ、ド素人の主人公が1年かそこらでプロ並みの腕前になる展開は「ねぇなあ・・・」と思っちゃう。
・登場人物がみんな良い人で、嫌な奴がいないのは心が温まる。

『ヒイラギエイク』海津 ゆたか


・爽やかな夏の田舎ライフ満喫ハーレムラノベかと思いきや、途中から不穏な雰囲気が漂いはじめるクセ強めな作品。ちなみに男女物。
・4章からが本番で、3章までは助走。思い切った構成だよ、なかなか出来ないよこういうの。

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹


・CODA(コーダ)の主人公が法廷での手話通訳士として、ハンデを持つ人たちの力になる話。
・CODAという言葉を聞いたことが無い人も多いかもしれないので、この場を借りて解説する。Children of Deaf Adultsの略で、聴覚障害者の親を持つ健聴者の子どもを指す。コミュニケーションにハンデがある親に代わって周囲と意思疎通をするなど、親の手話通訳のような役割を担っているケースが多いので、ヤングケアラーの割合が高いと言われる。
・本書は、主人公が自分の置かれた立ち位置に迷いながらもCODAという概念に出会い、自分のアイデンティティとして確立する話でもある。「聴覚障害者の親を持つ、耳が聴こえる自分」という立場に名前が付いているとは、なかなか思わないよね。しかも、それが物心ついた頃からの当たり前の環境だったのだから、なおさら。
・司法の場ってマジで健聴者しか想定していないのだな、と本書を読んで思った。警察での取り調べからして、手話通訳をする上での書類上のアレコレなどが非常に面倒で非合理的。世の中は耳が聞こえる人ばかりじゃないんだから、そこんところ適応しなよ・・・。

『孤狼の血』柚月 裕子


・マジメな新人の男性刑事と昭和の暴君男性刑事のバディ刑事もの。
・「人権派弁護士」なる謎ワードが出てくるんですけど(人権派じゃない弁護士がいるのだろうか)、「被疑者を後ろ手に縛って椅子の上で長時間正座させる取り調べを48時間やった」というエピソードがぬるっと出てくる作品では、人権を「声高に主張」するキャラが一人ぐらい必要だと思いますよ。
・堅物だった新人くんが暴君刑事に影響されてワイルドになるのは好き。バディに影響されるやつ大好き。

『花咲けるエリアルフォース』杉井 光


・「皇国」の兵士である少年が「民国」との戦争で勝利すべく、靖国神社の桜と接続された飛行兵器「桜花」に乗り込んで戦う話だ! ヒロインは女子中学生の天皇! このあらすじだけで何回ツッコんだか分かんねぇ! これがホントのRightノベルってな!
・日本が東西に分断統治されている設定で、東部が「皇国」、西部が「民国」。「民国」は中国がモデルと思しき国の傀儡という設定だけど、国家スローガンは何故か「民主主義永遠なれ」だ!  「中国」&「民主主義」というネトウヨが忌み嫌うワードを抱き合わせて敵サイドとして設定した結果、重大な矛盾を引き起こしてしまったぜ!
・本作の発売は2011年! ニコニコ動画でネトウヨ動画がブイブイ言わせていて、2年後には『艦これ』がサービス開始する頃だ! 時代の空気ってやつを感じるぜ! 10年くらい前はこういう右傾エンタメがウケてたんよ!

『海と毒薬』遠藤 周作


・戦時中に実際に起こった「九州大学生体解剖事件」をモデルにした小説。
・米兵の捕虜が人体実験の被検体として連れてこられる。人体への海水注入という非人道的な実験を、主人公たちは出来てしまう。「戦時下という非常事態では人間の倫理観は簡単に欠如する」という見方もできることはできるけれど、私はそれだけじゃないと思う。主人公たちが実験を行なえたのはおそらく、「上から命令されたから」。偉い人に「やれ」と言われたら、多くの人はホイホイ従うものなんです。

『蟹工船』小林 多喜二


・今でいう「ブラック企業」であるカニ缶詰加工船の乗組員たちが、過酷な労働環境を打倒すべく反乱を計画する話。さて、そのもくろみの結果やいかに。
・デカい相手に大勢で立ち向かう時のコツを教えてくれる作品。誰か数人を大将に据えるな、全員が運動の主体となって動け。さもないと、大将が捕まるなりして無力化させられた時に運動そのものが瓦解する。

『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません』3~4巻 香月 美夜


・「小説家になろう」発の作品。本好きの女性が本の読めない環境に転生してしまい、なんとかして本を読もうとあれこれ画策して奮闘するお話。
・基本的にはコメディタッチで読みやすい。
・主人公の目的が「本を読む」一点集中で一切ブレないので、物語の背骨が一本ピンと立っている印象を受ける。やっぱり、主人公の動機をハッキリさせるって大事よな。

『アンデッドガール・マーダーファルス』2~3巻 青崎 有吾


・生首探偵少女と胡散臭い男の特殊設定ミステリ。
・吸血鬼などの超自然的な存在が絡んでくる本格ミステリ。2巻のトリックは超自然要素を排した普通の本格ミステリだけど、1巻と3巻は吸血鬼やフランケンシュタインの怪物、人狼などがガッツリ絡んでくる。リアルとファンタジーが交差する、複雑怪奇な殺人事件に挑め。
・ちなみに、この本格ミステリにはバトルシーンもあるよ!

『変身』フランツ・カフカ


・皆さんご存じ、朝起きたら巨大な毒虫に変わってる話。虫になった身体のぎこちない動かし方の描写が生々しくて、読んでいて背筋が凍った。
・現代風に読み解くなら、引きこもりとその家族の不和のメタファーみたいな物語と解釈した。
・オチはわりとよくあるやつ。というよりも、こういう「よくあるやつ」の元祖が本作なのかもしれない。

『城』フランツ・カフカ


・城に行けない話。
・「測量技師の仕事が入ったので、依頼人が待っている城に行く」という目的が最初に提示されるんだけど、その目的がいつまで経っても達成されない。城下町まで来たはいいけれど、そこに住んでいる奇人変人がよってたかって寄ってきて一向に先に進めない。最初は「まずは城に行って、そこから物語が始まるんだろうな~」と思っていたのに、そのスタート地点にすら辿り着けない、この不条理さよ。
・ネタバレすると、城には辿り着けません。なぜなら未完の作品だから。めっちゃ唐突に終わるよ。

『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』依空 まつり


・学園潜入系のファンタジー作品。異性愛系。
・無詠唱で魔法を発動できる、というこの世界においての超高等テクニックをやってのけるので「沈黙の魔女」との異名を持つ魔法使いの女性が主人公。だけどその正体は、声を出さずに済むので無詠唱を極めただけの人見知り女子なのでした。
・主人公はコミュニケーションが苦手で自己肯定感が低い。人によっては感情移入できるかもしれないし、そうでない人にとってはイライラするかも。
・そんな主人公がイケメン王子の護衛をする話。どっちかというと女性向けの作風だけど、男性も楽しめると思う。

『777 トリプルセブン』伊坂 幸太郎


・ブラッド・ピット主演映画『ブレット・トレイン』の原作『マリアビートル』が連なる、伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ最新作。
・主人公に課せられた任務はひとつ、護衛対象の女性を連れて彼女が泊まっているホテルから出るだけ。それだけのことが途方もなく遠い。なぜなら、敏腕殺し屋たちがよってたかってその女性を狙っているから。1階に降りるのも命がけの状況で、世界一不運な殺し屋である主人公のもとに幸運は舞い降りるのか。
・布使いの女性殺し屋コンビ、爆弾使いの「コーラ」と「ソーダ」、6人組の殺し屋「飛鳥」「奈良」「平安」「鎌倉」「戦国」「江戸」と、伊坂作品らしいおかしみを覚えるキャラクターが揃う。6人組のネーミングは覚えやすくていいな、参考にしよう。時代区分は学校で習うからだいたいの人はスッと頭に入る。
・床がシャンプーまみれのエレベーターでの格闘戦など、よくそんなシチュエーションを考えつくな~と感心するシーンがいっぱいある。これも参考にしたい。

『86‐エイティシックス‐』1~4巻 安里 アサト


・がっつり戦争モノのラノベ。
・人種差別主義国家の奴隷となった被差別属性の少年少女たちが、使い捨ての兵士として最前線で戦わされる話。どこの誰だ、こんなヒドい設定を思いついたのは。
・特権階級ながらも差別に反対する人格者の少女と、最前線で戦う被差別属性の少年のダブル主人公。少女が首都から通信機を使って遠い戦場の少年たちをオペレーターとして支援する、という設定となっている。
・差別が本作の大きなテーマだけど、扱いがなんか雑だな~と思ってしまう。本作で差別をするキャラはほとんどが「嫌な奴」で、主人公などの差別をしないキャラは「良い人」となっている。でも、現実では周りから「良い人」と評価されている人でも差別をすることはザラにある。差別をする人=嫌な奴という構図はよくある勘違い。
・ただ、差別に反対している主人公でも知らないうちに差別を内面化していたという展開があり、それはすっごくリアルで、素直に良いと思った。自分も気を付けたい。
・多脚戦車に乗って機械の怪物たちと戦う、という設定。無骨な兵器を操縦して泥臭い戦いを繰り広げるバトルが好きな人は読んでみよう。

『64(ロクヨン)』横山 秀夫


・警察物のサスペンス。しかし他の警察物とは少し毛色が違い、警察の広報官の男性を主人公に据えている。元刑事という設定ではあるけど、警察物なのに現役の刑事が主人公ではない。珍しいよね。
・「敏腕刑事が難事件を颯爽と解決!」みたいなノリではなく、物語のテンションは終始低め。だけど、警察組織と記者クラブの板挟みに遭う主人公の苦悩と、徐々に明らかになっていく未解決事件の真相という物語運びが実に巧く、実に読ませる大長編。
・作者が元記者なのでマスコミの解像度が高い。広報官の主人公にとっては厄介な相手であり高圧的な態度も見せてくるけれど、よくある典型的な「マスゴミ」描写にはなっていない。

☆おすすめ!『光のとこにいてね』一穂 ミチ


・ふたりの女性が出逢い、お互いの人生に深く関わっていく物語。小学生、高校生、そして大人。途中で男と結婚はするけれど、それでもなお惹かれ合うお話。
・女性が女性を想ったり、大切な人として心の内に秘める心象が繊細なタッチで描かれている。良い。
・前述した通り途中で男と結婚するけれど、それでもなお強く結びつく女同士の絆がこれでもかと描かれている。
・メイクしてあげたり口紅を塗ったり、男女だとなかなかできないシチュエーションだよな~と改めて思う。
・最終的には女同士の絆の勝利END。最後の一文を読んだ瞬間、良い意味で鳥肌が立ったよ。

『神様の御用人』浅葉 なつ


・日本の八百万の神々が妙に人間臭くなって登場する作品。引きこもりゲーマーの一言主、蛇になっていたところを踏んづけられてギックリ腰になった橋姫。日本の神話や民話を現代風にカジュアルにアレンジしているので、若い人でも読みやすいんじゃないかしらん。
・シリアスな展開はほとんど無いので、気軽な読書がしたい人にオススメ。

『ハヤブサ消防団』池井戸 潤


・都会に疲れた作家の男性がのどかな地方に引っ越してきて、これからスローライフが始まるのかと思いきや。連続火災が発生して死人まで出てしまい、さらには怪しい業者もうろつきはじめ・・・。スローライフじゃねぇやこれ! 普通にサスペンスだった!
・いちおう前半はスローライフ。のどかで牧歌的な風景を描くことで、読者に本作の舞台となる町への愛着を持たせる。後半で怪しげな業者が町を狙っていることが明らかになり、読者に「この町を守ってほしい」と思わせて主人公への感情移入を増幅させる。実に良くできた構成である。
・キャラクターの第一印象と、その後の展開で魅せる本当の姿のギャップが大きくて面白い。いけ好かないおっさんだと思っていた人が実は案外憎めなかったり、頼りないと思っていた人が実は裏でいろいろ動いてくれている頼もしい人だったり。

『麦本三歩の好きなもの』住野 よる


・大学図書館に勤務する女性の日常を丁寧に綴る、おだやかな雰囲気の連作短編。
・中盤でシリアスな話が1話だけあるけれど、それ以外は肩の力を抜いて読める。
・けっこう抜けているところがある、とぼけた感じの女性が主人公。読んでいて「かわいいな~」と定期的に思う。
・オノマトペや擬音が多用される。「ビールをくぴり。」とか。そういう文章にイラッとする人には向いていない。たとえば私みたいに。

『幼馴染みが絶対に負けないラブコメ』1~5巻 二丸 修一


・一般的には「負けヒロイン」とされる、異性愛ラブコメにおいて男性主人公の幼馴染の女性キャラ。そのポジションのキャラがポッと出の女(メインヒロイン)との主人公を巡る恋のバトルに勝つ、という最初に思いついたもの勝ちなアイデア勝負の異性愛ラノベ。
・本作だけでなくラノベ全体に言えることだけど、男性読者の肩を組んで「俺たち同志だよな、な?」とすり寄ってくるようなホモソーシャルなノリが読んでいてややキツい。「クラスの美少女がグラビアに出ていたら、男なら興奮するしかないだろ!」というけれど、男性でも人によるんじゃない?
・ここからはネタバレ。

 5巻で「異性愛者の主人公が同性愛者のフリをすることで異性関係のしがらみを一掃する」という展開があり、あまりにも最悪すぎたので6巻以降は読みません。

『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義 完全翻訳版』シェリー・ケーガン (著) 柴田 裕之 (訳)


・「死」とはいったいなんなのか、ということをたっぷり論じる一冊。人間としての死との向き合い方とか、大切な人が亡くなった時の心の整理の付け方などは一切載っていない。これは「死」そのものについての本。
・「死は特別に恐れるようなことではない。みんな、今を大切にして有意義に生きよう!」 855ページの本書をかなり乱暴に要約すると、だいたいこんな感じ。いいこと言ってますね。
・死は悪いことなのか? という論点から本書は始まる。死んだら「私」は消えて無になる。無は何もないということなので、良いも悪いもない。従って、死は悪いこととは言えない。なんとも理屈っぽい出だしである。
・「そうと言いきれないとは言えない」などのもって回った言い回しが多いので、内容に追いつけないことがしばしばあった。

『死の壁』養老 孟司


・本書は「死はいけないことである」というスタンスを取る。なぜ、死はいけないのか? それは死んだら元に戻せないから。「人類はロケットを作る事はできてもハエを作ることはできない。生き物を作り出すことなんて出来ないのだから、作り出せないものを壊してしまう死や殺人はいけないこと」という論理。なるほどね。
・たとえ本人にとって死が悪いものでないとしても、友人や親戚に心理的その他いろんな悪影響を与える。だから死は良くないものだと言えるし、自殺はもっとよくない。
・フィクション作品で描かれる死はどこか嘘くさい。たとえばミステリの殺人現場に転がっている死体は作品によってはグロいものもあるが、通常この社会で暮らしている私たちが見ることができる死体はお葬式の棺桶に収まっている遺体ぐらいである。それをみて「グロい」と思うことはないだろう。フィクションで描かれる死を見て、死を知った気になるのは間違っている。

☆おすすめ!『安達としまむら』1~3巻 入間 人間



・百合ラノベといえばこれ! といえる有名作品のひとつ。
・最初はクールで人間に無関心だった安達が、しまむらと出会うことで恋を知ってどんどんかわいくなっていくお話。いや初期とキャラ違いすぎでしょ、と思うくらい変わる。
・しっとりとした文体によってふたりの少女の関係性が紡がれる。Audibleで再読してるけれど朗読のトーンもこれまたしっとりしていて、作風をしっかり理解したうえで読み上げてくれているのが分かる。ちなみに女性朗読者ふたり体制。Audibleは一人の朗読者が全部朗読することが多いのに。ふたり体制の場合は大抵が人気作品で、男性キャラのセリフを男性朗読者が、女性キャラを女性朗読者が読み上げる男女二人組の場合がほとんど。女性朗読者ふたり体制の作品は珍しく、それだけ本作が注目されているんだなと。

☆おすすめ!『同志少女よ、敵を撃て』逢坂 冬馬



・2022年本屋大賞受賞作。本当の「敵」を撃ち抜く話。
・舞台は第二次世界大戦、独ソ戦まっただなかのソ連。ソ連軍の女性狙撃手として訓練された主人公は、ナチスドイツと戦うべく戦場へと身を投じる。
・メインキャラがみんな女性で、みんなキャラが立っていて可愛いしカッコいいし頼りになる。戦争モノでメインがみんな女性キャラってほとんどないよね。
・戦争という、とりわけ女性の人権が著しく侵害される状況のなか、女性同士で連帯して生き抜くシスターフッドがアツい作品。
・狙撃に関する知識を、主人公の視点を通して読者にもイチから叩きこんでくれる。狙撃の際には「ミル」という角度の単位を使うことからして初耳だったよ。狙撃のイロハなんて知る機会がないから、その点でもめっちゃ面白い。
・軍隊という男ばかりのホモソーシャルな組織に女だけの部隊で所属するわけなので、クソなことを言ってくる男も多い。そんななか、主人公は軍隊にしては珍しく女性に優しい男と出会うのだが・・・。
 ネタバレになるので詳細は省くけれど、「男はみんなクソなわけじゃなくて、中には良い男もいるんですよ」というノットオールメンを完膚なきまでに粉砕して百合大勝利ENDに導く流れは痛快の極み。

『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ (著) 三浦 みどり (訳)


・独ソ戦を戦ったソ連の女性兵士たちへのインタビューをまとめた、非常に読みごたえのある一冊。
・戦争は男の物語である。男がおっぱじめて、男の口から戦場の「リアル」が語られる。本書で語られるのはそれとは別の、女の視点から見たもう一つのリアル。
・下着は当然のごとく男性用しか無く、生理用の脱脂綿ももちろん無い。配給品ひとつとっても戦場は完全に男しかいないものとしてデザインされている。戦場に限らず、こういう男性しか想定せずにデザインされた場に女性が行くと必ずエラーが起こるんよ、もちろん女性が不利益を負う形で。
・戦争の記録や歴史の教科書に個人の感情や想いは決して載らない。いち兵士の感情、それも女性という記録から真っ先に排除されるであろう語りを山ほど読める、非常に貴重な機会をもらえる本。

『闇の守り人』上橋 菜穂子


・アニメ化された『精霊の守り人』シリーズ第2巻。主人公がカッコよくて強い中年女性なのが好き。異性愛フラグは立ってはいるけど。
・ファンタジー描写が幻想的で情景が脳裏に浮かぶ。だけど適度にリアリティを保っているので説得力もある。この塩梅が見事。

『蹴りたい背中』綿矢 りさ


・ジャンルとしては男女の青春モノ。ただしかなりの変化球で、ぼっちの少女と同じくぼっちの少年が恋愛とも何ともつかない関係になる話。
・その少年がとにかく気持ち悪い。とある女性モデルのおっかけをしていて、それがあまりにも度が過ぎている。そのモデルのアイコラ(知らない人は知らないままでよいです)まで作る始末であり、主人公はそんな少年に対して「蹴りたい、愛おしい」と思うようになる。そういう、思春期特有なのかは分からないけれど複雑で繊細な感情を事細かに描いてみせる作品。

『古本食堂』原田 ひ香


・神田神保町を舞台にしたグルメ系小説。料理を食べるシーンでよくあるウザいオノマトペとかは無いのでストレスフリーに読めた。私、そういうのが嫌いなのでグルメ系は苦手なのよね。
・大きな事件などは起きず、古書店を継ぐことになった女性の書店員な日常が描かれる。けれど物語のヤマとタニはしっかりとあるので、読んでいてダレることはない。
・本作に登場する料理はすべて実在の飲食店のもの。行く機会があったら寄ろうかな。

『三体II 黒暗森林』上・下 劉 慈欣 (著) 大森 望 (訳) 立原 透耶 (訳) 上原 かおり (訳) 泊 功 (訳)


・異星人を地球に呼んでしまい、400年後に地球へ攻め込んでくることが確定した。人類は一丸となって異星文明との戦争に備え始めるが・・・
・異星文明は地球上の書類等をくまなく監視できるスーパー技術を持っており、異星文明を迎撃するプロジェクトを大人数で計画してもすべて筒抜けとなってしまう。それなら脳内だけで作戦を考えればいいじゃん! 人の脳までは覗けないし! というわけで迎撃計画をすべて一人で考える四人の英雄が選出される。彼らが練り上げる計画は、人類にどんな未来をもたらすのか。
・前半は21世紀が舞台のSF、後半は200年後が舞台のハードSF。後半に行くにつれてSFの濃度が増していく。
・「ダーシー」と呼ばれるおっさんキャラがいるんだけど、非常に頼れる魅力的なキャラクターであり印象に残った。たぶん人気キャラだよこの人。

『タイムマシンに乗れないぼくたち』寺地 はるな


・もし、あなたがいまさびしいなら。これは目の前に立って「大丈夫だよ!」と励ましてくれるような作品ではないけれど、ただ隣に並んで黙って同じほうを見つめてくれる。そういう優しい一冊です。
・「女としての幸せ」を押しつけてくる家族、ひそひそ話や目くばせがイヤらしい同僚やクラスメイト。そんなこんなに押しつぶされそうな主人公と一緒に孤独になれる短編集。
 ここからは個人的な所感。私は、「さびしい」と「孤独」は違うものだと考えている。「さびしい」は誰かを求めているのに一緒になれないネガティブな状態、「孤独」はもともと一人がベストだと考えている人が一人になっているポジティブな状態。本作は「さびしい」が「孤独」に変わる話だと思ってる。
・ただ、「灯台」という話で百合フラグ的なものが立って速攻で折られるのだけはいけ好かないと思いましたわね。

『ST 警視庁科学特捜班』今野 敏


・「赤」「黒」「青」「緑」「山吹」を名に冠する捜査員たちが活躍する、警察モノのベテラン作家による小説。名前が覚えやすくて助かるけれど、なんか特撮ヒーローみたいね。前述した通り警察モノだけど、作風は硬派よりもエンタメ寄り。
・捜査チームで唯一の女性がいかにも「紅一点」的にセクシーな描かれ方をしているのが、おっさん向け~! って思った。
・女性のレイプ・惨殺体が連続して発見される事件なので、しんどい人にはだいぶしんどい。私もけっこうしんどかった。

『魔眼の匣の殺人』今村 昌弘


・1作目『屍人荘の殺人』は「ゾンビパニック×本格ミステリ」という異色作だった。続編である本作は「予言×本格ミステリ」。絶対に覆せない「男と女が二人ずつ、合わせて四人が死ぬ」なる予言が下されて、主人公たちは陸の孤島すなわちクローズドサークルに閉じ込められる。生き残ることはできるのか、そして犯人は誰なのか。はたして予言とはいったいなんなのか。
・前作でもそうだったけれど、登場人物の名前の分かりやすい覚え方を提示してくれるので、名前を覚えるのが苦手な身として助かる。軽薄なライター→臼井頼太(うすいらいた)など。

『逆ソクラテス』伊坂 幸太郎


・小学生が主人公の短編集。伊坂幸太郎は今まで大人が主人公の作品ばかりを書いてきたイメージなので新鮮に感じる。
・いわゆる「スカッとジャパン」みたいな、ムカつくキャラクターに煮え湯を飲ませてやる展開がほぼ毎回ある。そこは好みが分かれそう。
・小学生がドローンをどうしても手に入れなければならない展開があって、そこで考えた入手方法が「ゲームセンターのクレーンゲームで手に入れる」なのが何気に今の小学生の解像度が高い。私が小学生の頃はドローンなんて無かったし、クレーンゲームの景品もそんなに豪華じゃなかった気がする。
・「犯罪ではないけれど、やるべきではないこと」をやるか否か。もしやってしまったら、そのことにどう向き合うかにその人の人間性が現れる。という趣旨の一文があり大いに共感した。ネット上で「別に犯罪じゃないしー」と露悪行為を肯定するオタクが悪目立ちしているので。

☆おすすめ!『明日の世界で星は煌めく』1巻 ツカサ



・ゾンビパニック×魔法×百合の名作。
・百合度は友情以上。終末世界で手を取り合って生きる女の子ふたりの関係性が眩しい。最終巻まで読み終えてるんだけど、主人公たち百合要員に異性愛要素は無し。サブキャラの一部にはあるけど申し訳程度。百合ラノベとして自信を持ってオススメできます。
・ゾンビ相手に魔法で戦うという、異なるベクトルの非現実的要素の組み合わせが新しい。ハイブリッドなファンタジーと言うべきか。魔法は水・土・風の3属性を操れる設定だけど、水=液体、土=固体、風=気体という科学的な解釈がされていてリアリティがある。ファンタジー要素を交えつつもリアリティを持たせることも忘れない、緻密な設定が組まれている。
・可愛くてたくましい女の子ふたりが力を合わせて巨大な敵に立ち向かう。燃えるぜ。

『夜明けのすべて』瀬尾 まいこ


・恋愛関係にならない男女の話。こういうのでいいのよ、異性愛という狭量な定義に留まらない、もっと高尚なナニカで。
・PMSの女性とパニック障害の男性が主人公。服用している薬の具体名も書かれているので、けっこう思いきった描写だと思った。そういうのってボカす場合が多いので。
・パニック障害とPMSを物語の主軸に据えながらも作品の雰囲気は重くならず、かといって軽すぎるわけでもない。絶妙なバランスを保っている。

『イクサガミ』1~2巻 今村 翔吾


・明治時代×デスゲーム。作者は時代小説の人なので時代考証もしっかりしている。封建主義の崩壊により職にあぶれた武士などが大勢集まって、いざ殺し合いのはじまりはじまり。
・スタート地点の京都から東海道五十三次を殺し合いながら突き進んで、いざゴールの東京を目指す。優勝者には賞金十万円! 安い? いえいえ、明治時代の十万なので大変な額です。
・剣客もの特有の斬り合いバトルシーンが思う存分楽しめる。そういうのが好きな人にもオススメ。

☆おすすめ!『裏世界ピクニック』3~4巻 宮澤 伊織



・百合SFの金字塔。百合SFで何を読めばいいか迷ったらとりあえず本作を読むのもオススメ。
・カルト集団VSカルト二世の激闘、新たな百合CPの登場、そしてメイン百合CPである空魚と鳥子の関係性のターニングポイント。やっぱり読みごたえあるわぁ。
・文章表現におけるシュルレアリスムの見本みたいなテキストが読めるので、小説書き志望としてもすっごく参考になる作品です。怪異の非現実的で不条理な事象を表現するのに、こんなにも巧みなやり方があるのかとビックリ。
・ジャンルとしてはホラーだけど、突然ビックリさせられる感じではなく真綿で首を締められるスタイル。違和感がジワジワと恐怖へ変わっていくような。

『強欲な羊』美輪 和音


・サスペンス短編集。物理的なトリックが主軸となる「ミステリー」というよりは、複雑な人間関係を紐解いていく「サスペンス」。
・どの話にも異性愛要素が絡んでくるので、そういうのに興味が無い私にはちょっと胃もたれする作品ではあった。

『七つの魔剣が支配する』11巻 宇野 朴人


・なぜか惰性で読んでいるラノベ。魔法と剣術を上手く組み合わせたバトル描写はけっこう見応えがあり、参考になるかな~と思って読んでる。
・しかしまあ、イギリスあたりがモデルの架空ヨーロッパが舞台であり主人公もそのへんの出身なのだけど、どう見てもよくいる日本人ラノベ主人公にしか見えない。

『成瀬は天下を取りにいく』宮島 未奈


・エキセントリックな少女が主人公の連作短編集。
・2020年のコロナ禍から物語が始まる。今後はこういうポストコロナ作品が増えると思う。
・「ローカル局のワイドショーの中継」という、一見して面白味の低そうな題材からめっちゃ面白い展開を作り出すのが見事。
・「地元の百貨店の閉店カウントダウンに毎日顔を出して、中継に映る」というエキセントリックな行動を中学生女子がやっているのが良い。こういう突飛で下らないけれどイカした行動をするのはもっぱら男子キャラなので。

『石の繭 警視庁殺人分析班』麻見 和史


・女性刑事が主人公の刑事モノ。変死体が発見された殺人事件の捜査本部に犯人から電話が掛かってくるという、現実には絶対にありえなさそうな緊迫の展開から物語が始まる。
・物語の折り返し地点ぐらいで犯人が判明する。ちょっと早くない? もうちょっと引っぱってもよくない? 実はブラフで真犯人は別にいる、ということはまるでなく本当にその人物が犯人だった。起承転結の「転」が早すぎるような。

『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』道尾 秀介


・どれだけ身構えても、このどんでん返しは見抜けまい。
・詐欺師の主人公が過去に因縁のある悪人相手に劇場型詐欺の大芝居を仕掛ける。仕込みは万端、覚悟も決まった。さて、その結果やいかに。
・他人同士で寄り集まって妙に暖かい共同生活を送る日常パートと、宿敵に詐欺を仕掛けにいく緊張感あふれる詐欺パートのギャップが激しくて手に汗を握る。

『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』稲田 豊史


・新書。最近、主にサブスク動画サイトで映画を倍速で観る人が増えている。その理由はさまざま。単純に時間が惜しい人が多いけれど、中には「早送りでまずは結末を知って、その後に通常再生で観たいから」というちょっと謎な理由もある。
・彼ら彼女らは映画を「観たい」のではなく「知りたい」のだと本書は論じる。友人との会話についていきたい、知識を蓄えて「オタク」になりたい。なんならその作品をあれこれ批評する権利だって付いてくる。
・「快適主義」と言えるものがこの社会に蔓延している。主人公のピンチ展開が忌避される「なろう系」小説がその最たるもの。仕事や人間関係で疲れて、このうえフィクションでも考えさせられたくない。だから主人公が無双してスッキリする作品が求められる。ちなみに「なろう系」は中年に人気との風のウワサ。だから、映像作品を観るうえで快適な方法、すなわち倍速視聴が流行るのも頷ける、と本書は結論づける。
・本書は映画を早送りで見る人たちを非難するものではなく、「最近はこういう人たちが増えていますね、そのうち早送りが当たり前になってもおかしくありません」という締め方となっている。

『ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ』中川 浩一

・新書。そういえば私はパレスチナについてほとんど知らないな。と思って読んだ。
・「天井の無い監獄」と呼ばれるガザ地区。なぜそうなったのか、その歴史的背景を順を追って解説してくれる一冊。専門書よりも分かりやすくて、かといって池上彰の番組ほどくだけてもいない。ちょうど良い塩梅の解説が嬉しい。

『店長がバカすぎて』早見 和真


・「書店員あるある」が詰め込まれている連作短編小説。私は書店員の経験が無いので分からないけれど、同業者から続々と共感の声が寄せられているみたい。クソ客襲来に書店売り上げ低迷と実にリアルなので、むしろ身につまされて辛い人もいるかも。書店の契約社員(低所得)が大手出版社に就職した元同僚(高所得)へ向けるコンプレックスの話とかもあるので。
・タイトルの通り、おバカな店長の男性に振り回される書店員の女性のお話。世の中には許せる天然と許せない天然があり、店長は明らかに後者。
・そんな店長を心の声でバッサバッサと切り捨てていく毒舌な主人公が心地よい。愚痴、ときどき罵詈雑言。

『サーチライトと誘蛾灯』櫻田 智也


・『セーラー服と機関銃』と似ているような、そうでないような響きのタイトルが気になって読んでみた。
・連作短編ミステリ。主人公の男性は大の虫好きで、虫を求めて山や夜の公園を彷徨い歩いて毎回事件に遭遇する。虫知識が事件解決に役立ったり、そうでもなかったり。気軽に楽しめるミステリなので、初心者にもオススメ。

『こうして彼は屋上を燃やすことにした』カミツキレイニー


・致死念慮マシマシの湿度高めな青春ラノベ。
・ラノベにしては珍しく女性主人公で、サブキャラが男性2人と女性1人。男性とも女性とも友情を育む感じであり、恋愛要素はほぼ無い。
・致死念慮や自殺の扱いが軽い印象を受けたので、そこだけ注意。

『夢探偵フロイト マッド・モラン連続死事件』内藤 了


・同じような内容の夢を一定数の人間が見ていることが判明する。なぜか。その理由を探るうちに、過去にとある山奥で起きた凄惨な出来事が明らかになっていく。
・ミステリとしてはかなり異色。推理方法は「問題の夢を見ている人たちをネットで募集して聞き取り調査をする」だし、ロジカルに推理するというよりは地道な捜査を重ねて少しずつ真相に辿りついていく感じ。物語の構成は探偵というよりむしろ刑事モノに近い。

『化物語』上・中・下 西尾 維新


・突然だけど個人的な話をするね。昔好きだったとあるWEB小説が「文体が西尾維新に似ている」とファンから言われていたんよ。いまではその小説サイトは閉鎖してしまい、読むことはもう叶わない。ならば文体が似ている人だけでも摂取しようと思い、本書を手に取った次第。
 なのだけど、文体がやたらともって回った言い回しで、なによりクドい。どこが文体が似ているのだ、あの作品はもっとスタイリッシュで洒脱な文章だったぞ。もう読めないけど。
・00年代のヒット作ということだけど、「異性愛作品に登場する百合キャラ」が出てきたあたりで無理~~!!! ってなって一旦は積んだ。けれど、それはそれで反面教師になると思って再び読み始めた。
 その「百合キャラ」は、「百合キャラ」のはずなのに主人公の男にデレ始めましたとさ。うん、知ってた。異性愛ラノベで、そのうえ00年代ならこのくらいの解像度だよね。

『青の炎』貴志 祐介


・倒叙ミステリ。この言葉を知らない人向けに説明すると、犯人が主人公のミステリのことです。ミステリ作品において探偵はたとえ推理が外れても命までは取られないけど、犯人は犯行が暴かれるか否かで今後の人生がかかっている。だから探偵と比べて必死さが違う。その犯行の一部始終を見守る読者のハラハラ加減も、ことさらに手に汗握るものとなる。
・主人公は高校生の少年、舞台は湘南。そこだけ見るとすっごい爽やかな小説に思えるけれど、これからやることは殺人なのでした。作者曰く「暗い話なので舞台だけでも明るい雰囲気の場所にしたかった」とのこと(参考:貴志 祐介『エンタテインメントの作り方 売れる小説はこう書く』)。

『虚構推理』城平 京


・怪異×ミステリ。ただし本格ミステリではなく、かなりの変化球。良くも悪くもB級。
・人々の間で語られる都市伝説が具現化し、怪異となって実体化して町で事件を起こしている、というなかなかにぶっ飛んだ設定。主人公たちの目的は事件の解決ではなく、怪異を消滅させること。そのために都市伝説にメスを入れて怪異を否定する。
・人々の間で語られるウワサを操作して怪異を消滅させる、そのために使うのがまとめサイトなのはやや古い気がする。そう思って発売年を調べたら2019年でビックリした。まとめサイト全盛期の2010年ぐらいかと思ってた。ウワサが渦巻くネット空間をいま取り上げるなら、まとめサイトというよりはTwitterじゃない?
・推理パートは犯人の指摘や犯行トリックの解明ではなく、都市伝説の真相を暴いてオーディエンスが納得できる理由を付けることに終始する。この怪異の正体は実はコレで、だからこういうことになっている。それゆえいま事件を起こしている怪異は存在しない、という論理を並べ立てていく。そうすることにより都市伝説の存在定義を支えられている怪異が弱体化していき、やがて消滅する。良く言えばロジカル、悪く言えば理屈っぽいことの羅列なので、人によって好みはバックリ分かれそう。ミステリなんてもともと理屈っぽいものだと言われればそうなんだけど。

☆おすすめ!『オーブランの少女』深緑 野分



・少女が持つ毒をひとさじ落としたミステリ短編集。
・全5作を収録。そのうち、奇妙なサナトリウムで起こる事件を描いた表題作と、昭和初期の女学校を舞台にエスの関係でモテモテな同室の少女が抱える秘密がテーマの『片想い』の2作が百合。
・舞台はヴィクトリア朝のイギリス、戦中のヨーロッパ、昭和初期の日本など。レトロな雰囲気と少女が心に秘める毒の組み合わせが非常に相性が良い。
・表題作『オーブランの少女』は暗めの話だけど、『片想い』はめっちゃ雰囲気の良い女学校物。私はどちらの話も好き。

『謎好き乙女と奪われた青春』瀬川 コウ


・学園男女物ミステリ。
・エキセントリックなヒロインと、彼女に振る舞わされる男性主人公の構図。わりとよくあるやつ。ミステリーが嫌いなのに定期的にミステリーな事件に巻き込まれる主人公という設定は面白い。

『イノセント・デイズ』早見 和真


・冒頭、とある女性に死刑判決が下される。彼女は一体なにをしたのか、あるいは、なにをしなかったのか。過去を紐解いていくなかで、読者はありえない真実を目の当たりにする。
・伏線の張り方がものすごい。「伏線がすごい」と言われる作品はたくさんあるけど、本作の伏線は本当に意地が悪くて愕然とした。そんなのってないよ。

『きのうの春で、君を待つ』八目 迷


・変化球タイムリープ。一歩進んで二歩下がるならぬ、一日過ごして二日戻る。過去の日々を一日ずつ遡っていって情報を集めていき、最後には四日前に起こった死亡事故を食い止めるのが主人公の目的となる。
・タイムリープ物はヒロインを救うのが相場だけど、本作で救うのはヒロインの兄。いちおう主人公にとっては過去に助けてもらった尊敬できる人なのだけど、物語の目的とするにはイマイチ弱い気がする。
・男性から女性への暴力(性暴力ではない)描写があるので、そこは注意。

『リライト』法条 遥


・主人公の女性は1992年に「未来から来た」という不思議な少年と出会う。彼は事故により命の危機にさらされるも、主人公は10年後にタイムスリップして自室から「携帯電話」なるものを持ち帰り、それを使って少年の窮地を救う。それから10年後、過去のタイムリープを成功させるべく、主人公は自室で携帯電話を用意して過去の自分が現れるのを待っていた。しかし、自分は現れなかった。なぜ? どうして?
・よくある青春タイムリープ物と見せかけた、いっそホラーと言っていいSF。不思議な少年との思い出のひと夏に隠された真実を暴く。

『ナチュラルボーンチキン』金原 ひとみ


・Audibleファースト作品。オーディオブックのための書き下ろしであり、文字の本は今のところ無し。
・日陰者の女性の主人公が全くタイプの違う社交的でエキセントリックな女性と出会うツカミだったので、シスターフッド的な作品かな~と思ったんだけどね。だけど主人公は中盤から登場した男とくっついて、ツカミで登場した女性の出番は一気に減る。
・物語スタート時の主人公の「面白いのかどうかも分からないサブスクの動画を見ることしかやることがない」が分かりすぎる。私も最近まではYouTubeでクリア済みのゲームの実況動画を観て休日を潰してたもので。そういう、刺激を受け入れたくない、心を揺り動かされたくないメンタル状態ってあるよね。

『旅行者の朝食』米原 万里


・ロシアの食文化や風土について、ロシア語通訳者の著者が記すノンフィクション。
・通訳をやっていると、話者が突然ラテン語やギリシャ語の格言を挟むことがあって混乱させられることがあるらしい。通訳者や翻訳者は語学だけでなく教養も必要なのね。
・最近では「ロシア」で調べるともっぱら戦争の話題しか出てこないので、こういった牧歌的な話がいっぱい載っている本は新鮮に感じる。それはそれとしてとっとと戦争やめろやプーチン。

『古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』青山 和夫, 井上 幸孝, 坂井 正人, 大平 秀一


・マヤ文明、アステカ文明などの古代アメリカ文明を分かりやすく、かつ詳しく教えてくれる。
・古代アメリカ文明が語られる時はとにかくオカルトの文脈が付いて回る、と本書は指摘する。やれオーパーツの水晶ドクロだの、2012年滅亡予言だの。そういったオカルト的な語りを排除して、学術的に正しい実像だけを取り上げている。ちなみに水晶ドクロは古代アメリカ文明とは関係ない工芸品であることが判明しており、古代マヤ暦が2012年で終わっているのは長期暦の1,872,000日が一巡しただけ。大晦日を過ぎて元旦を迎えた、ただそれだけのこと。
・マヤ文明とアステカ文明の区別すら付いていなかった私でも古代アメリカ文明がなんとなく分かるようになったので、すごい本だよ。

『コンビニオーナーぎりぎり日記――昨夜10時からワンオペ勤務、夫が来たら交替します』仁科 充乃


・お仕事ノンフィクション。クセのある常連客への対応やバックヤードでの万引き犯との対話、引きこもり男性の社会デビューのお手伝いなど、まったく想像もつかない世界を見せてくれる一冊。
・ゴミ箱の中身の回収費用もやっぱりバカにならないらしい。最近ではゴミ箱を置いていないコンビニが多いのもそれが理由かも。ちなみにペットボトルはフタを外してから捨ててほしいそうな。フタが付いていると業者が回収してくれないそうで。フタが閉まったままだとプレスする時に潰れなかったり、中身が残ってる場合があるのが理由。

『裏のハローワーク』草下 シンヤ


・いわゆるアングラのサブカル系。ヴィレッジヴァンガードに平積みされているのをよく目にした記憶がある。
・文庫版で追記されたのか「一部の職業への差別を助長するような描写がありました、差別の意図はありません、不快な思いをさせたことをお詫びします」という一文が最初にあるので、そのつもりで読んでね。しかしまあ、「差別の意図はない(意図が無くても差別はしてしまうものだよ)」「不快な思いをさせたことを(こっちが不快になったことが問題だとでも言いたげだなあ)」と、ダメな謝罪のテンプレやね。
・実態があまり知られていない仕事や違法性の高い稼業を紹介するノンフィクション本。マグロ漁船、治験から始まり、最後には身分証偽造や臓器ブローカーで〆る。「最初は違法性の無い or 薄いものから始まって、だんだんと違法性が上がっていく」という構成だけど、マグロ漁船の乗組員と臓器ブローカーを同じ本で「裏の仕事」として扱うのは正直どうなんだろう。
・ちなみに、借金のカタでマグロ漁船に乗せられる人はあんまりいないとのこと。ただしオーナーがヤクザの漁船では乗っていることもあるらしい。

『裏のハローワーク 交渉・実践編』草下 シンヤ


・ヤクザなど、裏社会の人間が実践している交渉テクニックや人間関係での立ち回りを紹介している。表社会で使うにあたってマイルドにアレンジした使い方も併せて書かれているけれど、私はこういうテクを使う人とは早々に縁を切るべきだな~と思う。そういう人は、他人を自分にとって都合よく利用しようとしているってことなので。

『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本』安田 祐輔


・発達障害者が効果的・効率的に勉強するためのノウハウが詰まっている一冊。ただし資格取得や受験などを想定した試験勉強が前提となっているので、それ以外の形で勉強したい人には一部参考にならない箇所もある。試験会場へ遅れずに行くために気を付けるべき点とか。だけど、それを抜きにしても役に立つ勉強テクがいっぱい載っているので、何か勉強をしたい当事者の人は手に取ってみると吉。
・発達障害を理由とした苦手なことについて「変えられるものは変えられる」「変えられないものは諦める」というスタンスなのがすごく良いと思った。どんなに努力しても無理なものはムリ。なんとかできることだけなんとかすればいい。

『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』太田 晴久


・今度は発達障害者が仕事をする上でのノウハウ本。ただしオフィスでのデスクワークを想定したページが多いので、肉体労働など他の業種・職種に就いている or 目指している人には参考にならない部分も多い。けれど「仕事仲間との距離の測り方」「雑談のやり方」「感情のコントロールのやり方」など、普遍的に役に立つ部分もあるので読んでおいて損はなし。
・外出する時はトラブルが起きることを前提にして余裕のあるスケジュールを組む。仕事に取り掛かる時は100%の完璧な出来を目指さずに70%くらいの気持ちでやる。なるほどね~

『発達障害かも? という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』姫野 桂


・「発達ハック」という、本書が唱える発達障害者のライフハック術がズラリと並んだ本。
・ここの前後で紹介している他の発達障害関連の本と比べて厚さが半分くらいで読みやすいので、活字が苦手な人はまず本書を読んでみるのも良し。
・「苦手なことは可視化せよ」「やることには優先順位をつけろ」。本書に限らず色んな発達障害ライフハック本で言われているので、やっぱりそこは大事らしい。

『発達障害の人が見ている世界』岩瀬 利郎


・こちらは周りに発達障害者、もしくはそうかもしれない人がいる定型発達者向けの本。彼ら彼女らとの付き合い方で悩んでいる人は、本書を読んでヒントを得てほしい。

『発達「障害」でなくなる日』朝日新聞取材班


・こちらは新書。DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)によると、発達障害者は発達特性を理由とした困難が生じているからこそ障害たりえるという。つまり、困難が社会から解消されれば発達障害は「障害」ではなくなるだろう、と本書は論じる。だいぶ遠い未来に感じるけど、夢のある話だとは思う。
・発達障害者への合理的配慮(私は「合理的調整」の方が現実に即していると思う)を重ねることで社会がより改善されて、ゆくゆくは発達障害が「障害」ではなくなるかもしれない、という主旨の本。
・発達障害者の女性は男性と比べて、うつ病罹患率、離婚率、非正規雇用の割合が高いとの研究データを示す日本の論文がある。日本人女性は「大和撫子」なるワードがヒリ出されるほどに「おしとやか」を社会から求められるので、その対極に位置すると言えるADHDの女性への風当たりは強くなる。本書はそうした発達障害者の女性が抱える困難を出発点として取材が始まり、一冊の本として書かれたもの。
・発達障害者の具体的な困難エピソードや、発達障害者の家族を持つ定型発達者の悩みなどが事細かに載っており、めっちゃリアルで当事者として胃が痛くなる。興味深くもあるけどね。

『普通という異常 健常発達という病』兼本 浩祐


・「発達障害者は生きづらい」というけれど、定型発達者もけっこう困難を抱えているんじゃない? という論調の本。「いいね」を求める心理や、他人への「いじわる」と呼ぶべき複雑な駆け引きを元にしたコミュニケーション、などなど。
・たしかに定型発達者も生きづらい一面があるとは思うけれど、それと発達障害者の生きづらさは違うベクトルだと思う。わざわざ発達障害を持ち出さずとも、単に「生きづらさ」だけで論じることもできたはず。重ねて「定型発達者も生きづらいんだよ」という主張は発達障害者の生きづらさを相対的に矮小化させる恐れもある。総合的俯瞰的に考えてあんまり良い本ではないな、と思った。

『夢の守り人』上橋 菜穂子


・守り人シリーズ第3巻。
・幻想的なファンタジー要素と牧歌的な生活描写のバランスが絶妙に取れている。そのおかげでファンタジーだけどリアリティもある作品。こういうのは見習いたい。
・自分とは倍近い歳の男との結婚を親に決められた少女が、覚めない眠りに落ちるところから今回の物語は始まる。女は結婚して、子供を産んで。その繰り返しであることへの絶望が今回の裏のテーマだと思う。
・善人というかお人好しのキャラクターが体を乗っ取られて最凶の敵として主人公たちの前に立ちふさがる展開がある。こういうの、個人的にめっちゃ燃える。

『リビルドワールドI 』上巻・下巻 ナフセ


・舞台は、高度な文明が滅んだあとに荒野と遺跡が遺されたポストアポカリプス世界。そんななか、旧文明の遺物を探すハンターの少年がとある遺跡で全裸若年女性と出会う話。すがすがしいほどに露骨なツカミだね!
・言っちゃ悪いけれど、文章表現が全体的に拙い印象を受ける。いくつもの困難を乗り越えて遠い街まで移動することについては「とても大変なこと」と書かれていたりする。そうか、とても大変なのか。
・8人いる女性キャラのうち6人が女ことばなのは、もうちょっと何とかならなかったのだろうか。しかも、二人組の女性ハンターがいるんだけど二人とも女ことばなので、地の文の「と、〇〇は言った」がなければどっちが喋っているのかマジで分からん。

『女ことばってなんなのかしら?: 「性別の美学」の日本語』平野 卿子


・「女ことば」に無いもの。たとえば悪態、そして命令。女が「クソが」なんて言えば「はしたない」と窘められるし、痴漢された時に「やめろ」なら命令になるが、”女らしく”して「やめて」と言えば、それは命令ではなく「お願い」になってしまう。
・西洋語にも「女らしい言い回し」はあるという。通常使われる言い回しのそれと比べて、やっぱり婉曲的で自分の意思を前面に押し出さない表現になる。
・問題なのは「女ことば」そのものよりも「女らしい言い回し」が求められることであると本書は結論付ける。女ことばを使うか使わないかではなく、女性がハッキリと意思表示ができるように社会全体の意識を変えていかなければならない、と。
・現在は女ことばを使う人はほとんどいない、若年層は特にそう。けれど、小説などのフィクション作品では役割語として生き残るだろう。海外からの翻訳小説では登場人物の性別が名前からでは分かりづらいことがあるので、女性キャラのセリフが「~なのよ」と訳されることが多いこともあり。

『タクシードライバーぐるぐる日記――朝7時から都内を周回中、営収5万円まで帰庫できません』内田 正治


・お仕事ノンフィクション。なんというか別世界の話を聞いているみたいで、やっぱり面白い。
・東京都心で15年間タクシードライバーとして勤務した男性の日常。想像にたがわず、個性的なお客さんが次々と乗ってきます。
・勤務日数自体は他の仕事と比べたら少ないけれど、一度出勤したら18時間勤務とのこと(本書の作者の会社の場合)。腰バッキバキになりそう。

『死ぬこと以外かすり傷』箕輪 厚介 
『かすり傷も痛かった』箕輪 厚介


・著者のことを知らずに読んで後悔した本。オンラインサロンでブイブイ言わせていた頃に前者の本を書き、その後、2020年にセクハラ行為が報じられて一気に転落。しばらくしたあと、前者の本に加筆した後者を出版した、という関係の2冊。ぶっちゃけ二毛作です。
・セクハラ報道後に出した本の中でセクハラ行為に対する反省めいた記述はまったく一切、これっぽちも無し。それどころか「週刊誌につけ狙われる俺」みたいな被害者ムーブすら漂わせる。ぶっちゃけ読む価値ないです。
・「堀江貴文とベッタリで、西村博之を褒め、成田悠輔を擁護し、落合洋一を崇め、東谷義和の本を出したセクハラ野郎が書いた本」だと事前に知ってたら読まなかったよ、絶対に。

『勘定侍 柳生真剣勝負〈一〉 召喚』上田 秀人


・舞台は江戸時代。大阪の商人の跡取りだった主人公が、実は剣豪・柳生の血を引いていることが判明。こういう、一般市民の主人公が実は凄い人の血を引いている設定って名前が付いていたと思うんだけど、思い出せない。
・一般人のはずの主人公が柳生十兵衛の神速の一撃をかわし、周囲がどよめくシーンがある。これが江戸時代版「あれ、俺またなんかやっちゃいました?」ですか(たぶん違う)。
・時代小説には硬派なイメージがある人が多いと思うけど、本作はわりと読みやすかった。難しい用語や時代背景はちゃんと解説してくれるし。

『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』小野 一光


・あまりに凄惨なために当時は詳細なテレビ報道が控えられた事件について、発生当時から現在の関係者の近況に至るまで詳細に記した、まさに完全ドキュメントと呼ぶべき一冊。
・犯人は監禁した被害者たちをマインドコントロールして支配下に置くため、次のことを行なった。
 感電による虐待。犯人の意にそぐわない、機嫌を損ねる、そのような行動を取った被害者に対して容赦ない虐待が行なわれた。家庭用プラグに繋いだケーブルを当てるなどの、ちょっと痛さを想像することすら恐ろしい方法で。
 被害者同士の分断。7人いる被害者のうち6人は同じ一家だったが、彼ら彼女らを相互に監視させて怪しい動きがあった場合は密告させるようにした。もし密告を怠った場合は罰として虐待する。これにより本来は家族であるはずの被害者たちを分断して犯人への反抗を防いだ。
 極限状態による判断能力の喪失。上記の感電虐待に加えて睡眠時間を削らせるなどして被害者たちを心身ともに極限状態まで追い込み、正常な判断能力を奪った。監禁されているのはマンションの一室であり、中から鍵を開ければいつでも脱出できた。しかし被害者たちはそうしなかった。判断能力が奪われていたから。
 犯行に加担させることによる罪の意識の植えつけ。犯人は被害者の一人を殺害したあと、その遺体の解体と処理を殺害された人の家族である別の被害者に命令した。そして次からは被害者自身に家族を殺害させて、罪の意識を植え付けることによりいよいよ逃げられなくさせた。
・ここからは私の個人的な所感。殺人事件とはぜんぜんベクトルの違う話だけど、こういう極限状態に乗じたマインドコントロールはブラック企業でも行なわれていると思う。だって普通に考えて、残業しているのに残業代が支払われないのはおかしい。有給取得は社員の権利なのに上司が受理しないのはおかしい。だけど、長時間労働や重労働が普通となっている職場に長く身を置いていると、そうした普通の感覚がマヒしてしまって正常な判断ができなくなる。みんな、マシな職場は世の中にいっぱいあるからね。現に私の職場は残業代はしっかり出るし、有給を申請したら上司は断れない仕組みになっているから。おかしいと思ったら声を上げればいいし、退職もひとつの手だよ。

『キャンセルカルチャー: アメリカ、貶めあう社会』前嶋 和弘


・より公平な社会を求める動きに対するバックラッシュがアメリカで巻き起こっている。セクハラなどの問題行動を起こした人物を降板させるなどの動きに「キャンセルカルチャーだ」と。このイヤ〜な流れの正体を論じる、アメリカの”今”が分かる一冊。
・アメリカ建国の立役者とされてきたけど、実は先住民虐殺などを引き起こした「偉人」の捉え方を見直す動き。それに対してトランプ前大統領は「キャンセルカルチャーだ」と公の場で発言した。大統領がこの言葉を使ったことで、アメリカ保守層のあいだで爆発的に広がることになる。
・アメリカはリベラルと保守でほぼ分極化されている。SNSでの分断はもちろん、テレビなどのメディアでもリベラル派のMSNBCと保守派のFOXがそれぞれの視聴者が喜ぶような内容の番組を作るので、ますます分断が強まる。
・分断されたアメリカの今後を見守るには人口動態を注視するのが良いと本書は締める。アメリカは人口が増加傾向にあり、その一因に移民の受け入れがあるからだ。もともとアメリカは移民の国と呼ばれている。もし今後も人口が増え続けていくのなら、それはアメリカが今も移民の国であり続けている所作であると。

『成瀬は信じた道をいく』宮島 未奈


・我が道を行くエキセントリックな女子に振り回されて、時に勇気づけられる人々を描く連作短編集、第2巻。
・滋賀県大津市が舞台のご当地小説なので、滋賀県民には馴染み深いかも。
・異性愛要素はほぼ無し。男になびかない自我が強い女性キャラって大好き。

『わかりやすさの罪』武田 砂鉄


・ノンフィクション本。『1分で話せ』という本のヒットが象徴するように、今は「わかりやすさ」が過剰にもてはやされている。端的にわかりやすく内容をまとめられないことが未熟とされる。でも、そうした動きって危ういんじゃない?
・ドラマなどでもわかりにくいストーリーの作品は敬遠されて、ながら見でも内容が把握できるようなわかりやすいシナリオが好まれる傾向にある。だけど、そうした「ベタであれ」という要求はフィクション作品のストーリーの単一化を生む。視聴者に想像の余地を残す作品があったっていい。
・池上彰の番組やYouTubeのゆっくり解説動画などが押し出す「わかりやすさ」に違和感を覚えたことがある人に、ぜひ読んでほしい一冊。

『勝手にふるえてろ』綿矢 りさ


・異性愛恋愛小説。
・会社員女性の主人公は、別に好きでもない暑苦しい同僚男性から言い寄られている。その一方で初恋のステキな男子への想いは今でも募らせており、ある日ついに再会する。
 これを読んで「あー、はいはい。そういう話ね」と思ったそこのアナタ。何を予想したかは知りませんが、その予想、裏切られます。
・キラキラしていない恋愛小説、と言ったらいいのかな。恋愛物によくある美しさはそこには無くて、もっと泥臭くて夢が無い、けれどもほのかに暖かい、そんなお話。
・「出来立てのお弁当の底みたいほかほかした暑苦しい顔」など、比喩表現が独特なうえに頻度が多いので好みは分かれそう。

☆おすすめ!『このぬくもりを君と呼ぶんだ』悠木 りん



・人類が地下都市で暮らす遠い未来が舞台の百合SF。
・オゾン層が破壊されて有害紫外線により地上に住めなくなり、人類は地下に都市を築いた。失ったかつての世界への懐古から、地下都市では合成食料から地下の天井スクリーンに投影される空の映像に至るまで、地上のそれを模倣している。それは、言うなればフェイクだらけの世界。
・主人公はフェイクしかない地下都市を嫌悪しており、どこかにある「本物」を渇望している。そんな彼女が、目の前のヒロインの手のぬくもりだけは本物であると気づく、そんなお話。
・優等生×不良という王道百合が非常によい。しかもお互いのことを「特別な人」と思ってる両片想い(成就するよ!)もめちゃくちゃ良い。ジャンルとしては、友情以上の感情を抱く百合。異性愛要素は無し。
・地底深くの地下都市という物理的な閉塞感と、フェイクに囲まれた少女の鬱屈した感情という心理的な閉塞感。二重の閉塞感で包まれた世界を百合の力で打ち破る。アツい。
・SFと言っても街の描写などはほとんど現代のそれと変わらないので、SF特有のミライ感あふれる描写がイメージしづらい人にもオススメ。


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