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【読書メモ】今週読んだ6冊


『朽ちないサクラ』 柚月 裕子


警察のあきれた怠慢のせいで
ストーカー被害者は殺された!?
警察不祥事のスクープ記事。新聞記者である親友に裏切られた……口止めした森口泉は愕然とする。情報漏洩の犯人探しで県警内部が揺れる中、親友が遺体となって発見された。警察広報職員の泉は、警察学校の同期・磯川刑事と独自に調査を始める。
次第に核心に迫る二人の前にちらつく新たな不審の影。
事件の裏には思いも寄らぬ醜い闇が潜んでいた……。

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・警察組織に属する女性が主人公なので、ホモソーシャルな男性組織にクサビを打ち込む女性の話かと勝手に思っていたけど、そんなことはなかった。主人公が母子家庭で育ったという設定が最初に提示されるので、普段接していない「おっさんなるもの」と渡り合うのを期待していたから、勝手に肩透かしを食らった気分である。それから若き女性職員が主人公なので「警察組織の腐敗を暴く」的なやつも期待していたんだけど、そっちも同様だった。公安と刑事部の連携の取れなさなどは描かれているけれど、全体的に警察に対して甘い印象を受ける。この前の鹿児島県警のニュースを聞いたばかりなので、もっと警察にはビシバシいってもいいと思うのよね。
・舞台は「米崎県」という架空の県。市町村ならまだしも、オリジナルの県を作るのは珍しい。県を架空の舞台にする場合は「Y県」とイニシャルにするのがほとんどなので。
・展開は関係者への聞き込みがメイン。つまりずっと会話シーンが続く。銃を撃ったりのドンパチや大立ち回りのアクションは無いので、そういう方向性を期待している人は他の警察小説を読もう。エンタテインメントというよりは、硬派な警察小説といった印象を受ける。
・物語のヤマとタニが少ない印象を受ける。何かを調査して新事実が明るみになる。その情報を元にさらに次の調査へ、といった地道な展開の繰り返し。明るみになる新事実もちゃぶ台がひっくり返るほどの衝撃はなく、読んでいてちょっと退屈に感じた。
・語りの視点となる人物がコロコロ変わるので混乱する。章ごとに視点人物が変わるのならまだしも、章の途中で変わるので頭が追いつきません。
・結論、公安はクソ。(ざっくり)

『陰の実力者になりたくて!』 逢沢 大介


 主人公最強×異世界転生×勘違いシリアスコメディ、爆誕!!
『我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者……』
みたいな中二病設定を楽しんでいたら、まさかの現実に!?
主人公でも、ラスボスでもない。
普段は実力を隠してモブに徹し、物語に陰ながら介入して密かに実力を示す「陰の実力者」。
この「陰の実力者」に憧れ、日々モブとして目立たず生活しながら、
力を求めて修業していた少年は、事故で命を失い、異世界に転生した。
これ幸いと少年・シドは異世界で「陰の実力者」設定を楽しむために、
「妄想」で作り上げた「闇の教団」を倒すべく(おふざけで)暗躍していたところ、
どうやら本当に、その「闇の教団」が存在していて……?
ノリで配下にした少女たちは勘違いからシドを崇拝し、
シドは本人も知らぬところで本物の「陰の実力者」になっていき、
そしてシドが率いる陰の組織「シャドウガーデン」は、やがて世界の闇を滅ぼしていくーー。
『小説家になろう』の超人気作が、加筆修正の上、待望の単行本化!

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・いわゆる「なろう系」で「俺TUEEE」なヘテロ(異性愛)ハーレムラノベ。
・主人公が最強な理由は「前世で武道を修得したから」。チートではなく努力で強さを手にしている点は最初は好意的に思えたけど、それで異世界最強になれるのは説得力が弱い。作中では「舞台となる異世界では武道が体系化されていないためみんな弱い」と説明されており、それゆえ地球世界で武道を身につけた主人公は異世界最強である、という。さすがに異世界ナメ腐りすぎじゃない? 実戦で使われている武術や剣術が、空手や剣道にボロ負けするほど劣るとは思わないし、ましてやその世界で最強クラスとされる剣士を余裕で倒せるのは無理がある。パラメータがチートだったほうがまだ主人公最強の説得力があるよ。
・主人公が15歳になるまでの過程を最初に地の文でダイジェストにササーッと書いてくれるのは話が早くて助かる。転生モノって主人公が成長するまでが長いのよ。
・「トラックに轢かれて転生→主人公は超TUEEE→好感度MAX奴隷少女と出会う→少女が増えてハーレム結成」という一連の流れをインスタントにテンポ良くスピーディにやってるのは、なろう系もなろう系なりに成熟しているんだなあ、としみじみ思う。伝統芸能である。
・主人公が最初から躊躇なく人を殺せることに対して、理由付けがされていない。前世で殺人鬼だったわけでもなければ、異世界に来てから人殺しに抵抗が無くなるようなエピソードがあったわけでもない。主人公の行動原理は「普段はモブに徹する」「陰の実力者ポジションになる」というものだが、それと躊躇なく人殺しができることがうまく結びつかない。いくら相手が悪人とはいえ、人を殺せるようになるにはそれなりの理由付けが要ると思うのだけれど。主人公は自身の行動規範として「自分にとって大切なものと、そうでないものを明確に分ける」と発言している。これが人殺しできる理由なのかなーと思ったけれど、悪人の命は自分にとって大切でないからといって簡単に奪えるのは違和感がある。毎回悪人を皆殺しにして解決するのも安易に感じるし。もっとこう、別の解決方法を模索するとかないんですかね?
・女性キャラが移動する時に「小さなヒップが揺れた」という地の文が差し込まれるなど、たまに性にまつわる無用な描写があるのが鼻につく。いまの描写いる? というやつ。

『死者宅の清掃 韓国の特殊清掃員がみた孤独死の記録』 キム・ワン (著) 蓮池 薫 (翻訳)


生きづらさを独りで抱え込むすべての人へ贈る
韓国で15万部突破の衝撃作、待望の日本語版刊行決定!
韓国で特殊清掃の会社「ハードワークス」を経営し、自身も清掃員として現場へ赴くキム・ワン氏が綴る、孤独な死者たちの部屋に残された生前の痕跡。
キム氏の視線をだどった先に私たちは何を見るのか。
彼らを死へと追いやったものは一体何だったのか。
それぞれの部屋に残された届かぬままの「たすけて」が浮き彫りになる。
「コロナウイルス感染者が爆発的に増加し、毎日死亡者に関するニュースが続いていた2020年の初夏に韓国でこの本が発売されました。発売後すぐに多くの人が読んでくださり、出版社・書店・読者による「今年の本」に選んでくださいました。死という重い主題の本が成功した前例がなかった韓国で、思いもよらないことが起きたのです。」―本文より

・ジャンルとしてはお仕事ノンフィクション。タイトルからも分かる通り、かなり重め。けれどそれだけではなく、特殊清掃員のとしての日常や考え方も読んでいて面白かった。
・特殊清掃員の仕事は、技術的なコツは経験を積むうちに掴めるという。これは他の仕事と同じ。だけど、人が死んだ部屋に入る時の感覚だけは何度やっても慣れるものではないという。
・描写が生々しい部分があるので人によっては注意。部屋いっぱいに置かれた尿ボトルの色のグラデーションとか描写しなくていいねん。
・個人からの依頼だけでなく、警察からの依頼もあるという(あくまで韓国の場合)。被害者支援の一環として傷害事件や殺人未遂事件の現場となった被害者宅の清掃を依頼される。床いっぱいに広がった血だまりを掃除することになるので、いつも心が沈む。
・筆者は想像力と人間愛を持った人、ということが訳者あとがきで語られる。その通りで、自殺を選んだ人が最後に見た光景や、この部屋で生きていて何を思っていたのかを想像することが出来る。非常に優しい筆致で書かれる一冊。
・孤独死の原因は貧困であるが、社会問題への言及がほとんど無いのが違和感を感じる。筆者は孤独死しないためには「貧しくても小さな幸せを噛みしめて生きよう」的なことを説く。いわゆる「気の持ちよう」みたいな話は、対症療法にはなっても根本的な解決にはならない。貧困や孤独死を語る上で、社会問題を避けて通るのは逆に不自然に思う。なんてったって、日本もまったく他人事ではないもので。


『サファイア』 湊 かなえ


あなたに、いつか「恩返し」をしたかった──「二十歳の誕生日プレゼントには、指輪が欲しいな」わたしは恋人に人生初のおねだりをした。
「やっと、自分から欲しいものを言ってくれた」と喜んでくれた彼は、誕生日の前日、待ち合わせ場所に現れなかった……(「サファイア」)。
人間の不思議で切ない出逢いと別れを、己の罪悪と愛と希望を描いた珠玉の物語。
表題作他「真珠」「ルビー」「ダイヤモンド」「猫目石」「ムーンストーン」「ガーネット」全七篇。

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・秘密を抱えた家族、ダメダメな婚活男が出会った美女、特定の歯磨き粉を崇める謎の放火魔。どの話も結末にひとヒネりもふたヒネりもある一筋縄ではいかない短編集。
・ハートフルな話は一つもなく、どれも辛口で毒を忍ばせた読み応えが楽しめる。単純なハッピーエンドはないけれど救いようのないバッドエンドもない。毎回読後感がハンパない。
・私は『ムーンストーン』という話が特に好きです。理由は読めばなんとなく分かると思う。


☆おすすめ!『明日の世界で星は煌めく』2巻 ツカサ


“終わった世界”は広がり、新たな舞台へ。
突如として現れた人型の怪物・屍人により、人々は襲われ、世界は終わった。
父親の遺した魔術により終わった世界で生き延びる少女・南戸由貴は、かつて別れた唯一の友・榊帆乃夏と再会し、彼女の目的を叶えるため協力することに。
絆を深めた、旅から屋敷へと戻った二人の元へ、帆乃夏の行方不明の姉から一通のメールが。『南戸数多を探しなさい』由貴の父の名前が書かれていたメールから、遺された家の中に手がかりがないか、由貴と帆乃夏は捜索をする。捜索を進める最中に見つけたのは隠された地下室への扉。その先には不思議な鏡が置かれていた……。
新たな舞台と出会いを迎える二人の旅はまだまだ続く。
“終わった世界”でも人々は命を輝かせ前を向き進む。ガールズサバイブストーリー、第二弾、開幕。

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 この終末は、京都に行こう。

・1巻の感想はこちら
・女子が可愛くてカッコいい百合ラノベ、第2巻。
・ゾンビパニックで終了した世界で、なおも生き残るためにあがくお話。絶望の中でこそ希望と百合は輝く。
・銃と魔法とゾンビ、という一見して突飛な組み合わせ。だけど語り方が巧いのか違和感なく作品世界に調和している。魔法に科学的解釈がされているのも現代の舞台にうまくマッチしている。
・女子同士が共に生き残るためにお互いを認め合って成長していく物語、最高じゃないですか。
・百合度は友情以上といった感じ。いちおう作中では二人の関係は「友達」と書かれているけれど、添い寝して顔が近くてドキドキするのはおそらく友達に向ける感情とは違う。いや、友達でも添い寝してドキドキすることはあるだろうけど、本作は友情以上の感情として描かれている印象がある。
・メンタル&フィジカルつよつよ女(31歳 172cm)が出てくるので、そうした意味でもオススメ。
・擬音が多用されるのは好みが分かれそうだけど、まだ幼さが残る主人公らしさが出ていて私は好き。


『陰翳礼讃』 谷崎 潤一郎


陰翳礼讃は昭和8年に執筆された随筆で、日本の生活が西洋化し日本の美が失われていくことが書かれている。
今日、日本風の家屋を建てて住もうとすると、電気やガス、水道等が日本座敷と調和するよう取り付けに苦心を払うことになる。これは、家を建てたことがなくても、料理屋旅館等の座敷を見てみれば気がつくことである。電燈は時代おくれの乳白ガラスの浅いシェードをつけて、球をムキ出しに見せて置く方が自然で風流である。しかし扇風機などというものになると、あの音響といい形態といい、未だに日本座敷とは調和しにくい。
私は、京都や奈良の寺院へ行って、昔風のうすぐらい掃除の行き届いた厠へ案内される毎に、つくづく日本建築の有難みを感じる。日本の厠は実に精神が安まるように出来ている。それらは必ず母屋から離れていて、青葉や苔の匂いがする植え込みの陰に設けていて、うすぐらい光線の中にうずくまり、障子の反射を受けながら瞑想に耽り、窓外の庭のけしきを眺める気持は何ともいえない。住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、雅致のある場所に変え、花鳥風月と結び付けて、日本の建築の中で一番風流に出来ているのは厠であるともいえなくはない。西洋人は不浄扱いにし、公衆の前で口にすることをさえ忌むのに比べれば、我等の方が遙かに賢明であり、真に風雅の骨髄を得ている。

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・こういう「古き良き日本」みたいな懐古はナショナリズムの呼び水となることがあるので眉に唾を付けて当たることにしているのだけど、本書のトーンは「西洋文明けしからん! 日本の良さを大事にしろ!」という批判的なものではなく「西洋文明の技術は確かに便利だけど、インテリア的に日本の家屋とは合わないことが多いよなあ」という愚痴やボヤきに近い。なので抵抗なく読めた。
・電灯をはじめ、ストーブ、扇風機、万年筆などの西洋技術が日本家屋へ流入したことへの違和感が愚痴っぽく綴られる。「西洋人の都合に合わせて作られた技術に日本人が合わせなければならないなんて、我々は損をしている」といった感じ。
・「厠も風流です、西洋人にはそれが分からんのですよ(要約)」という一文もあったり、家の色んな場所から「日本らしさ」なるものを見出していて面白い。
・西洋紙が和紙と比べて色合いが明るくて光を反射しやすいことに対して「ぜんたいわれわれは、ピカピカ光るものを見ると心が落ち着かないのである。」とする一文がある。ピカピカ光るものを見ると心が落ち着かない。なるほど、SNSを見ているとメンタルが崩れるのはこれが原因か()
・「扇風機はあの音響といい形体といい、日本家屋と調和しにくい」という一文があるのが面白い(interesting)。扇風機は今では昭和の夏の和室の風物詩になっているので。
・主語が常に「日本人」なのが面白い(funny)。「われわれ日本人は~」「日本人なら誰しも~」といった感じ。いまなら絶対「主語がデカい」って言われるやつ。


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