【読書感想】今週読んだ5冊
漢字二文字タイトル強化週間。
『方舟』夕木 春央
・死んでもいい人を決める話。
・いわゆるクローズドサークル。人里離れた施設に複数人が閉じ込められる「嵐の山荘」パターン。1週間で主人公たちがいる地下施設が水没する、という時間制限付き。閉鎖空間で殺人事件が発生、みんな溺れ死ぬ前に犯人を見つけ出せ! 空間的制限に加えて時間的制限まであって、緊張感マシマシ。
・主人公たちが閉じ込められたメカニズムがやや複雑。施設の入り口にあった大岩が地震によって入り口を塞いでしまった。大岩には鎖が巻き付いており、施設内の巻き上げ機を使って岩を階下に引きずり落とせばみんな助かる。そして巻き上げ機を使った一人は地下に閉じ込められる。私の読解力が低いのか、ここの仕組みがよく分からなかった。たぶんこれを読んでいるあなたもよく分からないと思う。舞台となる施設の構造を最初に説明してくれるんだけど、正直複雑なので忘れてしまう。特に出口を塞ぐ岩をどかす仕組み。どういう仕組みで出口を塞いでるのか忘れちゃうんで、何度でも説明してほしかったぞ。
・スマホがミステリのアイテムとして活用されている。パスコード解除、指紋認証、顔認証。これからのミステリではスマホが活躍するんだろうか。
・主人公はワトソン役、探偵役は親友。主人公が親友と犯人に振り回されてばかりなのがなんとも。ワトソン役は読者代表とはいえ、もう少し主体性を持とうよ。
・最悪の後味を噛みしめたい人にオススメ。
『爆弾』呉 勝浩
・「無敵の人」が全てを吹き飛ばす話。
・最近のサスペンスは「無敵の人」なるワードが出るのか、と思った。50手前で定職に就かず、あえてこの言葉を使うけどブサイクな男性キャラを指して「無敵の人」とする記述があり。この「無敵の人」という言葉はインターネットでの使われ方が恣意的で好きではないのでカギカッコでくくらせていただきます。
・その「無敵の人」が爆弾の爆発を予言する、というお話。最初は無人のビルを爆破など、被害が比較的少ない爆発から始まった。それが段々と規模を増していき・・・。次はどこで爆発が起こるのか、誰が犠牲になるのか。取調室で「無敵の人」を追求して被害を食い止めろ!
・Audibleで聴いたけど朗読者の「無敵の人」の怪演がヤバい。本当に気持ちが悪い男。『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造をさらにねっとりと狂気マシマシにした感じの声。演技派オーディオブックです。
・「自分と関係ない人たちの死を、どれだけ現実的に受け止められるのか」がテーマ。「自分の家族」と「赤の他人」の命の価値は同じ。だけど、どちらかが死ぬかもしれないとなったら、死んでほしくないのはどちらか。自分の知り合いが、友人が、家族が巻き込まれるかもしれない無差別爆弾テロで命の天秤は傾く。
本作とは話が逸れるけれど、このテーマはいま現在ガザ地区で起きている虐殺行為にも通じるのでは、と思った。日本から遠く離れた中東で日本人ではない人たちが大勢殺されて、これを現実に起きていることとして真剣に向き合える日本人が何割いるんだろうと考えちゃうね。すこし昔、日本人が中東に行って現地の武装勢力に捕らえられた時に「そんな場所に行ったんだから自己責任だ」という大合唱が日本中で起こったことを思うに、中東問題を遠ざけて考える日本人が多いように思う。閑話休題。
・物語の大半が、刑事が取調室で被疑者の「無敵の人」と対峙するシーンを通して進む。犯人との心理戦や言葉巧みな駆け引きが好きな人なら迷わずオススメ。本作はセリフ回しもキレッキレ。ただし相手はマジで気持ち悪い。
・捜査状況がリアルタイムで捜査関係者に共有される警察のアプリ、なるものが登場。警察のIT革命進みすぎだろ。爆弾が仕掛けられた建物の見取り図がアップロードされて、捜索済みの場所にチェックが入っていくとか、そんな便利なアプリが作れるほど柔軟な組織じゃないでしょ警察。物語を円滑に進めるためのマジックアイテムである。
『何者』朝井 リョウ
・悩み、迷い、そして観察する就活生の話。
・就活生が主人公なので、エントリーシート、業界研究、OB・OG訪問、自己分析と、社会人の私にとっては懐かしいワードがいっぱい。みんな結局クソの役にも立たなかったな。私の場合。
・2012年の作品なので、当時はまだ真新しさがあった「Twitter」が物語のキーとしてたびたび登場。Xとやらになって、Twitterがこれから古いワードになると思うとやりきれないよ。Twitterが出てくる作品は2010年代以降は山のように出たと思うけど、それらが全部「古み」を帯びてしまうなんて、こんな理不尽なことある?
・本作はどちらかというと、就活を終えた人がいちばん楽しめる本。就活がまだの人は作中で語られるエントリーシートや面接についていまいちイメージが湧かないだろうし、就活真っ最中の人は現在進行形でリアルすぎて身につまされて就活に影響が出そう。就活を終えた学生や社会人にオススメ。
・「自分が何者かなんて、誰も知らない。誰も追っていてくれない。自分と同じように自分を見ていてくれる人なんていない。」というメッセージが刺さる。自分らしい自分を正しく評価してくれる人なんて、自分の他に誰がいる。
・「就活意識高い系」を冷笑するスタンスを批判する作品。この視点は新鮮。何者かになろうと必死にあがく人たちをあざ笑う。そういうお前はいったいぜんたい何者なのか。
・読む前と後でタイトルの印象がまったく変わる系の作品。最初にタイトルを見て感じたイメージを覚えておいてね。
『告白』湊 かなえ
・呪いと復讐と、真実と事実の話。
・『贖罪』でも思ったけど、湊かなえの作品では「呪い」が重要なファクターとして出てくる。過去に誰かから言われたことや過去に犯した過ちが、その人の人生を大きく狂わせる。人生にねっとりとまとわりついて離れない呪いの言葉ってあるよね。
・章ごとに主人公が変わり、視点も代わることで物語の見え方がガラッと変わる。それも毎回ガラッと変わるので「まだ変わるの!? これ以上のどんでん返しがある!?」とワクワクする。初っ端から「これ、第1章だよね!?」と思う怒涛の展開なのに、それすらこれから起こるどんでん返しの序章でしかない。
第1章で「事実」が語られて、そこから続く別視点で「真実」が語られる。真実と事実は違う。
・1日1リットル飲む牛乳好きとしては、本作における牛乳の扱われ方に疑問を抱く。ある登場人物に「呪い」を与えるアイテムになったり、はたまた陰湿なイジメの道具として使われたり。
牛乳に恨みでもあるのか。しかし現実問題、給食で無理に飲まされたりして牛乳嫌いになる人は多そう。私の母もそうだったし。
・インターネットの描写が個人サイトなのに時代を感じる。今ならTwitterやFacebookが出てくるんだろうか。
『教場』長岡 弘樹
・警察学校の日常と非日常の話。
・警察学校をモデルにしながらも、日々の授業や訓練だけでなくしっかりと事件が起きる。しかもわりと本格的な暴行事件や心中など。日常を描くだけでなく、しっかりエンタメしている。タイトルと表紙で硬派な小説と思いきや、わりと読者サービスしているんです。
・専門用語が出てくるけど、しっかり説明してくれるから安心してね。逆に言うと、説明を適当に読み飛ばしたら後の展開で置いてけぼりを食らうから気を付けてね。
・作中の警察学校内で当然のように体罰が振るわれていて、しかも作品として批判しておらず当然のように描写しているのは、正直どうなんだろう。フィクション作品だからいま現在の警察学校がこうだとは限らないけど、本作は「警察学校だから体罰も仕方ない」みたいなノリで書いているように思える。体罰が許される教育機関なんて存在しないからね!?
・「警察学校では警察に憧れよりも文句がある奴のほうが長続きする」(うろ覚え)という台詞は、なるほどな~と。警察官に限らず、その職業に夢を持っている人ほど、ある日とつぜんポッキリ折れやすい気がする。
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