【読書メモ】今週読んだ4冊
『イノセント・デイズ』早見 和真
・ある女が放火殺人で死刑判決を受ける。「どうしてそんなことをしたのか」という理由と真相を、女にまつわる人々の回想によって少しずつ紐解かれていく。犯行の理由という一つの謎を追っていくスタイル。小説の物語は謎で引っぱるもの。
・女の小学生時代は友人に恵まれており、子どもたちの幸せな世界が繰り広げられる。読者として最悪な結末を知ったうえでの平和ほっこり過去シーンからしか得られない栄養がある。
・プロローグで下される死刑の判決文が各章のタイトルになっているのはなかなかに斬新。その手があったか。
第一章「覚悟のない十七歳の母のもと――」
第二章「養父からの激しい暴力にさらされて――」
第三章「中学時代には強盗致傷事件を――」
という感じ。
・救いのない、どうしようもなく死にたがりな主人公に対して、安易な救い展開が無いのは誠実に感じた。
・マスコミのセンセーショナルな事件報道により、「こいつがやったに違いない」という空気が醸成される、という展開がある。だけど、これを読んで「これだからマスゴミは」という感想を持った人は、自身のメディアリテラシーをいま一度点検してほしい。作中では容疑者である主人公を「嫉妬に駆られた女の犯行」と決めつけて報じたことが悪しざまに描かれている。だけど、あなたは普段の事件ニュースで流れる「逮捕されたのは〇〇容疑者・・・」を聞いて、「こいつがやったんだな」以外の感想を抱くことがあるだろうか。刑事裁判には推定無罪の原則がある。けれども、逮捕の段階で容疑者=犯人というイメージはもはや完全に定着している。一度も洗ったことのないコンロの換気扇の油汚れ並みにこびりついている。「何も知らないくせに、決めつけるな」ということが本作のテーマの一つだが、決めつけないことは想像以上に難しい。
・予想を裏切るのが上手な一冊。見事にしてやられた。小説を読んで打ちのめされる、という体験を久しぶりにしたよ。
『きのうの春で、君を待つ』八目 迷
・男女物。一歩進んで二歩下がる、ならぬ、一日過ごして二日戻るタイムリープ。この現象を利用して、四月一日に死亡したヒロインの兄を救うべく四月五日から一日ずつ遡っていく物語構成。青春タイムリープも作品を重ねると色んな変化球があるなあ。
・「昨日、何が起こったのか」が時を遡るごとに少しずつ明らかになっていくスタイル。事件前まで一気に遡るタイムリープとは違い、事件後の世界を一日ずつ遡っていくので自分以外の人間は事件当日まで戻るまではみんな事情を知っている。主人公だけが知らないなかで、情報を集めて真実を明らかにしていく。謎まみれの世界を手探りで調べていく感じが面白い。
・とある暴力男キャラの暴力っぷりが半端ないので、無理な人は絶対ムリなやつ。
・タイムリープで救うのがヒロインではなく、ヒロインの兄なのが珍しい。主人公にとっては幼少期に助けてもらった憧れの人とはいえ、そこまでして助けるものなの? という疑問がつきまとった。救うべき相手のエピソードが先述したもの以外には後半までほとんど無いため、ヒロイン兄の人柄がなかなか見えてこない。「この人を救わなければ」という気持ちが読者として湧いてこないため、タイムリープ物としては問題があると思った。
・タイムリープの原理は不明のまま終わる。これは仕方のないところもある。科学的に原理を説明しろって言われてもムリだし。
『リライト』法条 遥
・10年前、主人公の少女は未来へタイムリープして携帯電話を持って帰ることで意中の男の子をピンチから救い出す。それから10年後、大人になった主人公は過去で男の子の命を救うことになる携帯電話を用意した。あとは過去の自分が現れて、携帯電話を持っていくのを待つだけ。ここまではよくあるタイムリープ物のエピローグみたいな展開。『のび太の大魔境』がそんな感じのラストでしたね。だけどこれはプロローグ。なぜか過去の自分は現れず、男の子は救い出されないことになってしまう。なぜ? どうして? タイムリープ物にも守破離の「破」が来て久しいのだな、としみじみ思う。
・『君の名は。』みたいなよくある恋愛SFかと思って読んだら、いっそ気持ちいいくらいに裏切られることになる。おかしい、いま読んでいるこれは、本当に青春を過ごしたあの夏なのか? 恋愛モノかと思って読むのは大いにオススメできない。
・物語の真相を一人のキャラが超絶長台詞でひたすら説明する、というのはもう少しどうにかならなかったのかなと思う。
『ナチュラルボーンチキン』金原 ひとみ
・オーディオファースト作品。文字の本は今のところまだ無し。
・このあらすじと前半の展開を見た私は、まったくタイプの異なる女ふたりが出会ってお互いに変化を与えていくシスターフッド的なやつかな、と思ったのね。内向的な女性と外向的な女性の組み合わせって鉄板だから。ところが。あらすじで登場する平木直理の出番は物語が進むにつれて加速度的に減っていき、主人公は中盤から出てきたポッと出の男とくっつく。「浜野と平木にくっついてほしかった」というよりも、「女性キャラはたとえ作品の最初に印象的な出会いを果たすとしても、後から登場する男性キャラと女性主人公をくっつけるための踏み台にしても構わない」という考えが見えてしまって、なんかヤな感じ。
・もし平木が男だったら、「なんで最初に印象的な出会いを果たす男じゃなくて、あらすじにも登場しないポッと出の男とくっつくんだよ」というツッコミが読者から寄せられることを想定するはず。だけど平木は女なのでそんなツッコミは来ずに、ポッと出の男と結ばれても読者は納得するだろう。という判断を作者はしたのかしなかったのかは知らないけれど、なんかヤな感じ。
・物語スタート時の主人公の「サブスクの面白いのかどうかも分からない動画を見るしかやることがない」は分かる。私も少し前まではYouTubeでクリア済みゲームの実況動画を見るだけで休日が潰れてたもの。主人公がそんな無気力人間になったのには重大な理由があるのだけど、「刺激を受け入れられない」「感情を上下させられたくない」みたいな無気力主義は多くの読者が共感すると思う。年を取ると油もので胃がもたれるみたいに、新しいものを受け入れられなくなるんだよね。私はまだそんな歳ではないけれど、いくつになっても刺激を取り入れるのは自分のためになると思う。
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