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【読書メモ】今週読んだ5冊


『書を捨てよ、町へ出よう』寺山 修司


・1960年代後半のサブカルな空気を肌で感じられるエッセイ集。
・この印象的なタイトルは数あるエッセイの中の一つでチラッと、本当にチラッと触れられる程度。「書を捨てよ、町へ出よう」というワードへの明確な言及や説明はされない。タイトル買いすると後悔するタイプの本なので注意。
・性に関する話、それも男性目線からの性の話が多いのでちょっと辟易する。「トルコ風呂」(まだそう呼ばれていた時代)の話とかも出てきて、ちょっと生々しい。
・「世の中の青年の恋人が、体力的に劣っているはずの老人に寝取られている」という嘘か本当か分からない話を交えながら「青年VS老人」という世代間対立を煽るような語りがなされる。当時なら手放しでウケたのだろうけれど、2020年代のいま読むと安易な世代論は物事の本質を見えなくさせるから良くないな、と思う。少し前にあった「若者よ、選挙に行くな」の動画も安易な世代間対立を生むと批判されたし。
・「青年が老人に性の面でマウントを取れる時代こそが『可能性の時代』と言えるのである(要約)」とのこと。本気で言っているのか。
・ベトナム戦争の時代なので「正義とはなんぞや」というテーマが複数回取り上げられる。「一つの社会での正義はもう一つの社会では悪なのだ」みたいな。ただ、この手の正義相対化は21世紀の現在ではむしろ害となる場合が多いと思う。ただの悪を「これも一つの正義なんだぞウォォ」と正当化する場面をインターネットで何度見たことか。
・中盤はひたすら競馬の話が続く。寺山修司は競馬エッセイストとしても活動していたそうな。私はギャンブルには手を出さないと決めているので、正直言って興味が持てなかった。競馬の話、また競馬の話、これも競馬の話、またまた競馬の話。タイトルを「寺山修司の競馬日和」とかに改めたほうがいいんじゃないの、と思うレベル。
 そうして読み進めていった次の話の書き出しは、どうやら競馬とは無関係の様子。「昔みた映画の話をしよう。殺人を犯して大金を手にした逃亡犯の男。国境、すなわち自由を目の前にしたふと立ち寄った店のジュークボックスで懐かしい曲を掛け、しばし感傷に浸る。曲が終わると、男の隣には手錠を手にした刑事が立っていた。曲の長さは3分30秒。それだけの時間のために、男の人生は大きく変わってしまったのだ(要約)」
 ・・・ようやく競馬から離れて映画の話でもするのかな?
 「競走馬もそれだけの時間のレースで大きく運命を変えることがある」
 やっぱり競馬の話かーい!

『華氏451度〔新訳版〕』レイ・ブラッドベリ (著),伊藤 典夫 (訳)



・本の所持が禁止され、発見次第焼き払われるようになった未来が舞台のディストピアSF。主人公は本を焼く仕事の「ファイアマン」。人々を無駄に考えさせて惑わす悪しき存在である本。それを焼く日々を送る彼は、ある日不思議な少女と出会う。
・SF近未来が舞台なので読者にはある程度の想像力が求められる。「パンが焼き上がったらロボットアームが伸びてきてバターをつけてくれる全自動トースター」というレトロフューチャーなガジェットがあれば、機械猟犬という恐ろしい未来治安維持機構もいる。
・本の所持が禁止された未来。読書文化は当然失われており、人々は部屋の壁に投影される刺激に溢れた映像娯楽を受動的に見るだけの日々を送っている。
 昔の作品に対して「現代を予言している!」というのはこじつけ感が否めないことも多くてあんまり好きではないのだけど、SNSの刹那的な刺激が身に染みついて情報中毒になる人が溢れている現代社会を思い出しちゃうね、やっぱり。「人々は短時間で分かりやすいものを求める」というメッセージも、ファスト映画が流行ってしまう今に通じるものがある。かもね。
・本をゆっくり読むこと。何かについてじっくり考えること。それはとっても大切なこと。次から次へと情報がなだれ込んできて、いちいち考えるヒマを与えてくれない情報過多社会だからこそ、一つのことに向き合って考えることの重要性を教えてくれる作品です。

『可燃物』米澤 穂信



・雪山の遭難者が刺殺体で発見された。近くに倒れていた人物は腕が折れた満身創痍の状態で犯行はほぼ不可能。凶器は現場および関係者の所持品からは一切発見されず。被害者はなにで、どうやって殺されたのか?
・論理立てて可能性を一つずつ潰していく過程が最高にミステリ読んでるって感じ。
・凶器はいかにして消えたのか。方法はいくつか考えられる。燃やす、沈める、埋める。・・・食べる?
・最初の話のトリック、私、見事に当てられました。みんなもチャレンジしようぜ。
・同じ作者の『氷菓』シリーズがラノベ感のある文体なのに対して、本作の文章はいたって硬派。本当に同じ作者の作品か疑うレベル。書き分けってすげぇ。
・「メイルシュトロム」ってスゴい名前のファミレスですね。事件が起こるわけだよ。
・職業は刑事、中身は探偵。
 警察組織に属していながら探偵顔負けのぶっ飛んだスタンドプレー推理で事件を解決に導く。「組織人なのに独断専行で推理はマズイだろ」的なツッコミは作中でもされる。
・本格ミステリなので読むときはぜひ自分でも推理してみよう。推理難易度は、最初の話は比較的簡単で私でも分かるぐらい。「消えた凶器の正体は何か?」という具体的な推理の方針が示されるので推理しやすかったのもあり。
 しかし第2話以降は「何を推理すべきか」をまず考える必要があるので、推理難易度がグッと上がる。これまで辿ってきた物語の中で抱いた違和感、気になった証言、ささいな引っかかり。それらをすべて思い出して、考え、推理する。主人公より先に真実に辿り着けたアナタはスゴい。
・短編集だから推理のチャンスは何度でもあるので、頭脳に自信のある人はチャレンジしてみよう。ちなみに私は最初の話以外はムリでした。

『アーセナルにおいでよ』あさの あつこ


・Audibleオリジナル作品。文字の本は今のところありません。
・18歳のCEOが率いる、4人だけのベンチャー企業の戦いの話。
・ファッションがカラフルすぎる陽気な男、服装が可愛いくて性格がキツい女。主人公を取り巻く大人は良い意味で大人らしくない、個性の塊みたいな人たち。
・ベンチャー企業の活動は「現実と戦うための武器庫を作る」。ベンチャー企業が運営するコミュニティサイト「スクエア」に若者が悩み事を書きこみ、それへの解決法が他の利用者から寄せられる。「しっかりしろ」「がんばれ」といった根性論・説教や誹謗中傷は自動的に削除され、建設的な意見のみが残る。現実的に実現可能かはさておき、魅力的なサイトだと思う。クソ回答を排除したYahoo知恵袋みたいな感じだろうか。
・そうして集まった悩み事や解決策を個人情報は匿名化したうえでデータ化して、関係機関に有償で提供することで収益を得る仕組み。困っている人のケア・サポートと、社会的ニーズのデータベース作成を兼ねる。
・「欲しいのは武器だ。『しっかりしろ』も『がんばれ』もいらない。目の前の現実と対等に切り結ぶための武器が必要だ」—本文より
・「言語化」が本作のテーマの一つだと考える。主人公は読書が趣味なので、同年代の若者と比べて語彙が豊富である。一方、スクエアに書きこむ若者の多くは自分の置かれた状況を適切に表す語彙を持っていない。中には10歳に満たない子どもも悩み事を寄せており、自分の状況を表す言葉はもちろん、寄せられたコメントを正しく理解する読解力も持っていない。そのため主人公は子どもに寄せられたコメントを分かりやすく要約するシーンがある。誰もが悩みを抱えているけど、それを適切に表して的確に対処する術を持っている人は少数だ。だから主人公たちのベンチャー企業「アーセナル」は「武器庫」という名前よろしく、問題を言語化して必要に応じて関係機関に繋ぐなどして的確な「武器」を提供する。
・言語化って難しいよね。浴びるほど本を読んでいる私でも適切な言葉が浮かんでこない時なんてしょっちゅうだもの。数日経って「あの時はああ言えば良かったんだー!」と後悔することもしばしば。
・メインキャラクターが女2人・男2人なのに恋愛要素がほぼ無かったのが地味にすごい。俗世の作品なら男女同士でくっついてるところだよ。

『知的生産の技術』梅棹 忠夫


・小説を書くのも知的生産の一つなので、参考になるかと読んでみた。が、内容は効率的なメモの取り方や、ノートではなく白紙のカードに書くことによる整理の効率化、はたまたタイプライターについての話などいたってアナログ。それもそのはず、本書は1969年、まだパソコンも無い時代の本なのであった。
・「ノートに書くのでは後から内容の組み替えが出来ない。でもカードに書けば自由に組み替えができる。カードはいいぞ」とある。けれども今ではパソコンやスマホで書けば切り取り+ペーストで事足りる時代なのであった。デジタル派の人はあまり参考にならない本だと思う。
・「忘れるためにメモをする。忘れてもいいようにメモをする」という記述があり、めっちゃわかる。大事なことを覚えていようとすると脳のメモリを食って他の作業の能率が下がるんよ。いったん端に置いておくためにメモをしておけば、後でそれを読んで思い出せるから安心して忘れることができる。

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