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【読書メモ】今週読んだ3冊


『震える牛』相場 英雄


・もう外食チェーンで肉が食えなくなる話。
・食肉加工と大型スーパー出店計画。利益至上主義の闇に切り込む社会派サスペンス。
・中野の居酒屋で起きた強盗殺人事件と、大手大型スーパーの出店計画。まったく関係なさそうな二つの出来事が同時進行する物語構成。こういう、一見関係なさそうなふたつの物語がだんだんとリンクしていく構成っていいよね。
・チェーン店で出されるやっすいハンバーグやステーキは、多くが老廃牛の肉やクズ肉に大豆由来の成分などを加えたり食品用接着剤でくっつけたものに添加物をタップリ加えて濃い味付けで誤魔化したものだという。そんな「ぞうきん(作中の表現)」の肉をお客様に出せるのか、という利益至上主義の倫理を問う作品。今では食品添加物などを気にすると「気にしすぎ」と逆に叩かれる風潮があるけれど、自分たちが何を食べてるかぐらいは知っておいたほうがよい。
・主人公の刑事の持ち物として蛇腹メモを出すことで、後半にいくにつれてメモが厚みを増してきて物語が佳境になってきたことが分かる。後半、行く先々で他の登場人物に「ずいぶん分厚いメモですね」とツッコまれることで、捜査が大詰めになってきたことが分かる、アイテムを使った物語の演出テクニック。
・物語後半にきて、誰が真犯人なのかが読者視点でハッキリ判明する。後半に入ってから終盤にかけて真犯人を追い込み、展開が盛り上がっていくなかで「もしかして真犯人は別にいるのでは?」という勘ぐりを読者にされてはノイズになるので、あえてクライマックスの前に真犯人をバラすテクニック。
・ファスト風土(昔ながらの商店や食堂が潰れてチェーンのスーパーやファミレスばかりになってその土地の風土が失われること)がテーマの一つ。その町に昔からある食堂や商店があるからこそ私たちは人間らしい繋がりを持てる、というメッセージが込められている。でもここからは私の意見だけど、ファスト風土って観光客や民俗学の都合で語られることが多くて、地元住民からしてみれば夕方で閉まる個人商店よりもスーパーやファミレスのほうが便利なのよね。

『魔女と猟犬』カミツキレイニー


・この世界においてメチャクチャ強い存在である魔術師をほぼ独占して一強状態の大国に対抗するために、小国が大陸全土から魔女を集める話。
・第1巻ということもあり、物語はまだ始まったばかりという感じ。倒すべき敵の一人が顔見せして、最初の仲間と出会って、さあ壮大な物語の幕開け。というところで1巻は終わり。
・主人公はアサシン。魔法のたぐいは一切使えない。本作は魔法ありのファンタジー世界だけど、魔法を使ってくるのはもっぱら敵サイドの魔術師。むろん魔法を使えるほうが圧倒的に強くて主人公は苦戦を強いられる。ファンタジーといえばみんなが魔法を使えるのが当たり前なイメージがあるけれど、敵が魔法を独占してる設定もハードモードで面白い。
・黒幕がひたすらに小物。小物オブ小物。だけど黒幕の協力者である魔術師はそれなりにカリスマ性があって強キャラ感がある。黒幕は魔術師の引き立て役かしら。強キャラの隣に小物を配置するのは効果的かも。
・レイプ未遂のシーンがあるので人によってはフラバ等に注意。

『たとえば、葡萄』大島 真寿美


・コロナ禍、20代後半無職女性のゆるりとした日常。
・いわゆるポストコロナ作品。2020年代初頭に仕事を辞めた女性の視点から、徐々に変わりゆく社会を描く。「夏になって暑くなればウイルスも死ぬでしょ」と楽観視していた3月。お花見に行けないと嘆く4月。緊急事態宣言の5月。今となっては懐かしさを覚える激動の日々。まだ4年弱しか経ってないのに懐かしいというのも興味深い。
・20代後半無職女性が主人公なのに、今後の人生の選択肢として「結婚」が俎上にすら上がらないのが嬉しい。いちおう過去に男性と付き合ったことはあるらしいが、ひどい失恋をしてから恋愛はしていない。本作においても恋愛要素はナシ。ひとり恋愛脳の女性キャラがいて主人公ととある男性キャラをくっつけようとするが、主人公はやんわりと拒否する。
・20代後半の主人公が50代の知り合いたちに囲まれてわちゃわちゃ日常を送る展開が癒される。20代後半、本人は「もう若くない」と思い始めるけれど年上からは「まだまだ人生これからよ~」と激励される、微妙なお年頃。
・登場する50代女性が人生をエンジョイしていて元気づけられる。上の世代が人生を謳歌しているのを見ると、人生にちょっと希望が持てる気がする。
・怒涛だったり衝撃の展開は無い。丁寧に日々を編んでいく日常系の小説。フィクションに感情をむやみに上下させられたくない時にオススメの作品。

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