【読書メモ】今週読んだ5冊
『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』道尾 秀介
・前半は過去話が多くてなかなか現在軸の話が進まないけど、その話自体が面白いからダレはしない。前半で前置きをしっかりして、後半で一気に盛り上げる構成となっている。というか後半はほぼジェットコースター並みの急降下と急上昇の連続。ハラハラするのが好きな人向け。
・40代男性と10代少女が同居する展開があり、いかにもおっさんが見る夢という感じがする。
・(男ふたりで晩飯作るなんて)「そんなオカマみたいなことやだよ」というセリフがあったり、「ホモセクシュアルじゃねーし」的なセリフが何回もあるのが気になった。
・闇金に傷つけられた過去を持つ詐欺師とスリという、社会のはぐれ者たちが集まって同居する話。裏社会から追われて表社会にも住めない人々が主人公。表と裏の狭間にいながら、どっこい案外楽しく生きている人々の、日常と戦いのお話。
・シリアスなサスペンスかと思ったけど、意外と心温まる系のエピソードや笑えるシーンもある。
・「猫が死ぬ展開」があるので注意。冷蔵庫の女(男性主人公が敵と戦う動機を作るために都合よく殺される女性キャラ)ならぬ冷蔵庫の猫がいます。
・推理小説だけど推理の難易度は高め。推理しながら読む場合は、そもそも「何を推理すべきか」から始めなければならないので。ウミガメのスープを初手で当てる並みの洞察力が求められる。小さな違和感も見逃すな!
『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~』稲田 豊史
・ネトフリ等のサブスク、YouTuberの企画動画。いまは映像作品が最も多く、かつ安価に観られる時代である。映像過多と言ってよい。その時代に求められるのは時間的コスパ、つまりタイパである。どれだけ時間を掛けずに作品を摂取できるかが重要とされる。
・そう、摂取。鑑賞ではなく、摂取。消費と言ってもよい。本文中に出てくる一文を要約して引用すると「料理をミキサーに掛けて胃に流し込むようなもの。確かに栄養は摂れるだろうけど、それは果たして食事と呼べるのか」
・1周目は倍速か秒飛ばしで観て、2週目は普通に観るというスタンスの人もいる。同じ作品を2回観ることになるのでタイパ的に矛盾しているのではと思うけれど、そうではないらしい。曰く「作品を初めて観る時は気分的にしんどい。だから1周目は飛ばしてササーッと観て内容を把握して、2周目にのんびり気楽に観る」という。初見はしんどいのは分かる。同感できる。でも私がその方法で作品を観たら「このシーンは普通に観たかったァー!」となること請け合いだと思う。
・映画を倍速で見る人たちは、内容を「観たい」のではなく「知りたい」のだ。観たという事実があれば友人同士の「あれ観た?」という会話にも参加できるし、なんならあれこれ批判する権利だってついてくる。
・お金を払って入る映画館や借りるたびにお金を払うレンタルビデオとは違い、サブスクはすでに利用料を払っている状態で観るので「買っている感覚」が希薄になる。だから早送りというもったいない視聴方法ができるのである。
・いまの若者たちはオタクになりたがっている。なんらかの知識に秀でた者になって個性を身に着けたい。Z世代のデジタルネイティブが慣れ親しむSNSでは常に自分の上位互換がいる。だから自分も個性を持って何者かになりたい欲がある。
・快適主義と呼ぶべきものが今の社会に蔓延している。仕事や人間関係に疲れて、このうえフィクションでも考えさせられたくない。いわゆる「考えさせられる作品」を忌避して、主人公が無双するなろう系を読んでストレスを解消しようとする。なろう系が中年に流行っているというのもこのせい。だから、映像作品を観る時にも一番快適な方法、つまり倍速で観たいというのは当然の発想なのだろう。
・以下は私の所感。本文中で「オタク差別」という言葉が何のエクスキューズも無しに使われているのは問題だと思った。オタク差別って言うなればスラングみたいなもので、人種差別や同性愛差別とは別物なので、これを読んだ読者が混同する可能性がある。
『ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ』中川 浩一
・そういえば自分、パレスチナのことほとんど知らないな。と思って読んだ。
・ガザ地区が「天井のない監獄」となった経緯を、外交官としての個人的な経験も交えながら歴史を追っていく一冊。予備知識ゼロでもイチから分かりやすく解説してくれるので助かる。「分かりやすい」といっても池上彰の番組みたいなくだけすぎた感じではなく、適度に硬派です。
・本書はパレスチナ問題全体において「イスラエルとパレスチナのどっちが悪いという話ではない」というスタンスを取っている。ただ、少なくとも2023年10月から始まったパレスチナ侵攻においては、イスラエルによる虐殺と言うしかないと思う。虐殺こそ「どっちが悪い」という話ではなく、今すぐやめるべき行為だ。
『店長がバカすぎて』早見 和真
・天然には良い天然と悪い天然がある。良い天然は最低限の社会性は持っているが、ふとした拍子のとぼけた発言で周りを和ませる。悪い天然は社会性に天然要素が多分に含まれており、仕事や人間関係のやり取りでおとぼけを炸裂させて周囲が迷惑をこうむる。本作はそんな悪い天然の店長(男)に振り回される書店員(女)の話。
・バッサバッサと切り捨てるような毒舌な文体が心地よい。時に鋭く突き刺すナイフ、時に一刀両断する日本刀のように、心の声での店長への愚痴、時に罵詈雑言が炸裂する。
・店長のバカさ加減が絶妙。「ギリ許せる」と「やっぱクソむかつく」の間を反復横跳びする感じ。
・基本はコメディ、ときどきシリアス。特に、書店の契約社員(低所得)が大手出版社に就職した元同僚(高所得)に向けるコンプレックスの描写が長尺でこれでもかと描かれるので、収入にコンプレックスのある人は読んでいて共感しすぎてつらいかも。
・本好きの書店員が主人公なので、本好きと書店員、あるいは主人公と同じように両方を兼ねている人には非常に共感できる物語だと思う。売り上げ低迷、クソ客襲来といった書店の世知辛さもガッツリ描かれているので、書店員の人は身につまされすぎてつらいかも。
・(異性愛)恋愛要素はあるにはあるけど、非常に薄い。逆に言うと非常に薄いけど、あるにはある。
『サーチライトと誘蛾灯』櫻田 智也
・気軽に楽しめる連作短編ミステリ。手がかりは一応毎回示されるけど推理難易度は高め。
・探偵役の主人公が「虫が好きな変わり者の男性」としか描かれておらず、優れた推理力を持っている理由は最後まで明かされない。やや納得しかねるけど、そこがミステリアス加減に拍車を掛けていると言えるかも。
・表題作では事件の舞台となる公園からホームレスが追い出されていた、という設定がある。しかし公共空間における排除問題を扱うでもなく、むしろホームレス排除が当然のように描かれているのはちと問題に感じた。
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