【読書メモ】今週読んだ5冊
『夜明けのすべて』瀬尾 まいこ
・恋愛関係にならない男女の関係性が良い。異性愛などという狭量なものではなく、もっと尊いナニカというやつ。
・PMSとパニック障害のキャラクターが主人公であり、具体的な症例と服用している薬の名前も書かれている。これはけっこう覚悟のいることですよ。症状はあくまで主人公たちのものであり、患者によって異なることをしっかり書いてはいるけれど。実在の病気や症候群を登場させる際は気を付けるべきことが多くある。それだけの覚悟を持って書かれた作品であると読み終えて思った。
・生きづらさについて一緒に考えてくれる人がそばにいるって素敵ね。
・「病気が無事に治ってめでたしめでたし」な終わり方ではない。これからも病気と向き合っていかなければならない。だけど今までよりも前向きになれる、そんな〆だった。
・主人公(男)が主人公(女)を「好きになれる人」と評する。「好きな人」ではなく。おそらく恋愛的な意味でもない。なんかいいな、と思った。好きになれる人。
・恋愛関係でなくても、友達でもなくても、その人のために何かをしてあげたくなる。そんな人がいたらいい。
・パニック障害とPMSを描きながらも作品の雰囲気は重くならず、かといって軽すぎるわけでもない。絶妙な物語の重量を維持した見事な作品です。
・基本的には「やさしい世界」。職場の同僚も上司もみんな優しく、PMSとパニック障害の主人公たちを抱擁力をもって迎えてくれる。こんな職場、現実だとなかなか無いだろうな~。
『イクサガミ 天』今村 翔吾
・明治初期を舞台にしたデスゲーム。明治の世になって食いっぱぐれた武士などを日本中から集めて殺し合わせる、という設定がありそうでなかった感じで面白い。明治時代×デスゲームという組み合わせも然り。アイデアとは既存の要素の斬新な組み合わせと見つけたり。
・デスゲームの賞金は10万円。明治時代なので大変な大金です。
・京都からスタートして東海道を参加者同士で殺し合いながらひた走り、東京を目指す。東海道横断ウルトラデスゲーム! 東京に行きたいかー! おー!!(古い)
・見せしめのために最初に強キャラを殺しておくのはデスゲームの様式美ですねー
・デスゲームだけどクローズドサークルではない。参加者は普通に外を歩いて東京を目指す。なのでデスゲームの醍醐味である外に出られない密室の緊迫感は無い。
・黒幕の正体を明かすのが早くない? と思った。1巻で明かしていいの、もっと引っぱってもいいんじゃない?
・おそらく全3巻に渡る作品の1巻目なので、今回は東京に着く前に終わる。そして東海道デスゲームはあくまで前半戦であり、東京に着いたら後半戦が待っているという。ワクワクするね。
・主人公は良識がある人間であり、デスゲームに参加しつつも最低限人を殺さないように心がける。デスゲームに抗うタイプの主人公。なので多くの人にとっては感情移入しやすい主人公だけど、一方で「どうでもいいからさっさと大量殺戮とかグロい殺人シーンとか始まんねえかなー」というタイプの読者には向いていない。
☆おすすめ!『裏世界ピクニック 3 ヤマノケハイ』宮澤 伊織
・百合SFの名作をAudibleで再読。るなの声の朗読がすっごく良い。幼さの中に邪悪さを隠し持っている感じ。文字の本で読んだことのある人もぜひ聴いてほしい。るな推しじゃない人も思わず推したくなるレベル。
・裏世界の超常事象という非現実的な現象にもリアリティを与えるために、それっぽい描写を意識して書いている感じがする。裏世界へのゲートを開く時に「パンッ」という音がしたり、なんかそれっぽいでしょ。
・今回のテーマは「嫉妬」。意中の女が別の女に心を奪われていることにモヤモヤする女っていいよね。
・主人公・空魚の、親がカルトにハマってカルト集団から追いかけ回されていた経験が活きる回。辛い過去での経験が今の自分を守ってくれることもある。不本意ながら。
・ヒロイン・鳥子の両親が女性カップルであることが初めて明かされる回。登場キャラや設定に普通にセクマイがいるの、いいと思います。
『強欲な羊』美輪 和音
・何者なのか途中まで明かされない「主人公」に屋敷の使用人が語りかける回想式で進む表題作。二転三転する事実、明かされる真実。果たして犯人はいかに。
・物理的なトリックを解いていく「ミステリー」というよりは、登場人物同士の人間関係が物語のキモになる「サスペンス」のほうが近い。人間関係が全作にわたってマジでこじれにこじれているので、そういう相関図を頭の中でまとめられない自分は読んでる途中で何度も整理する羽目になった。
・どの話にも異性愛恋愛が絡んでくるので、そういうのに興味が無い私は終始あんまりノれなかった。残念。やっぱり、ノれる要素が作品中にあることって大事よな。
『七つの魔剣が支配する』11巻 宇野 朴人
・惰性で読み続けてるラノベ。
・ゴブリンやトロールなどの「亜人種の人権」が1巻で大きく取り上げられたので「おっ、これは他のファンタジーラノベとは違うな」と思ったけれど、2巻以降は人権問題が物語の中で取り上げられる頻度がめっきり減りガッカリしていた。けれど、ここ11巻に至って再びフォーカスされたのでワクワクしながら読んだぞい。
・ゴブリンの中で暴力的な蛮族と化した集団が発生したおかげでゴブリンが人権を得る道が遠のいた、というくだりがあった。たとえが現実世界になるけど、日本人が日本国内でいくら犯罪を犯そうが「これだから日本人は」とはならないのにね。
・ゴブリンの可聴音域・声域は人間とは異なるのでコミュニケーションが取りづらく、人間世界での人権を得る壁になっている。声帯の手術などをすればその壁を越えられるが、そうしたら今度は「喋れるゴブリン」と「喋れないゴブリン」が発生してゴブリン同士で分断が生まれる。マイノリティ内の分断という現実世界でも割とよくあることを描いているのは、意図したのか偶然かは分からないけれどすげーなーっ、と。
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