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【読書メモ】今週読んだ8冊



『夢の守り人』上橋 菜穂子


舞台となるのは、異界と人の世界が交錯する世界 ── 。

人の夢を必要とする異界の〈花〉。バルサの幼なじみのタンダは、その〈花〉に魂を奪われ人鬼と化してしまう。バルサはタンダをとりもどすことができるのか。大呪術師トロガイの過去も明かされる、シリーズ第3作。

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・アニメ化もされた守り人シリーズ、第3巻。
・幻想的な設定と牧歌的でリアリティのある生活描写のバランスが良い。ファンタジーでもどこかで地に足がついていないとね。
・バトル描写の量も全体のバランスから考えてほどよくて良い。ずっとバトルだと疲れるけれど、ぜんぜん無いのも退屈。バトル描写は人間の身体の仕組みを充分に理解したうえで描かれており、読み応えがある。
・男と結婚して子供を産むしかない人生に虚しさを感じた村の女性が、気が付いたら山の中を彷徨っている。本作ではこれを「山に呼ばれる」と言う。これ、女性の生きづらさとライフスタイルのバリエーションの乏しさを表してるんじゃないかなーと。本作の時代レベル設定は近代化以前なので、なおさら女は家庭に押し込められて生きるしかない。そうした緩やかな絶望がにじみ出てくるように感じる。
・1巻で登場したキャラクターたちが再登場する回。二度と出ないかと思っていたキャラも活躍して嬉しいぜ。
・善人というかお人好しのキャラクターが見事にハメられて、最悪の敵となって主人公たちの前に立ちはだかる展開がある。燃えるぜ、こういうの個人的に非常に燃えるぜ。


『リビルドワールドI〈上〉 誘う亡霊』ナフセ  
『リビルドワールドI〈下〉 無理無茶無謀』ナフセ


新米ハンターのアキラは、命賭けで足を踏み入れた旧世界の遺跡で全裸でたたずむ謎の美女《アルファ》と出会う。彼女の依頼はある遺跡を極秘に攻略することで――!? 次代のWEB小説を牽引する期待の新鋭が登場!

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・導入で主人公の少年が全裸若年女性と出会う。むしろすがすがしいほどに露骨なツカミである。
・地の文で世界観や設定の説明がされることが多く、作者が考えた設定テキストを読まされている感が否めない。そこはキャラクターのセリフや展開に織り交ぜて、物語を読み進めながら「ここはこういう世界なんだな〜」と分かるようにしたほうがワクワクすると思う。
・地の文で設定や状況を毎回丁寧に説明するのはラノベ特有の作法なのだろうか。年齢層が比較的低めのジャンルでは状況描写は丁寧に描いたほうがいいって小説講座の先生が言ってたし。純文学みたいに「行間を読む」ような行為を読者に求めてはいけないと。ラノベの読者をバカにしているわけじゃなくてね。
・途中で急にあらすじ形式で展開を説明されるのも唐突な印象を受ける。「主人公は路地裏で強盗に襲われた。勝ったのは主人公だが、腹に銃弾を受けて致命傷の重傷を負った。しかし旧世界の回復薬を使用したため一日で治った」。読んだ時の記憶から書き起こしたのでそのままの文章ではないけれど、こんな感じで淡々と説明される。いや、そこはもっとドラマチックに演出して描くものじゃないの!? ここで出てくる旧世界の回復薬は今後の展開でも繰り返し出てくるし、もう少し印象的なシーンにしたほうがよかったのでは。
・8人くらいいる女性キャラのうち6人が女言葉なのはなにゆえ? 役割語ってそのキャラの個性を際立たせて他のキャラと区別するためにあるものだと思っていたけど、これじゃあ誰が喋ってるのか分からないじゃないかい。中盤で女性キャラ二人の会話が続くシーンがあるんだけど、どちらも「〜のね」「〜だわ」なので地の文の「と、〇〇は言った」が無ければマジで分からん。日本語の小説っていちいち「と、〇〇は言った」って付けなくても誰のセリフか口調で分かるのが強みだと思ってたんだけども。
・作品の舞台となる地域では「色無しの霧」という現象が常に起きていて、主人公たちの生活に大なり小なりの影響を与えているという設定がある。だけど毎回「色無しの霧」と7文字の単語が出てくるのが若干クドく感じてしまった。この世界では当たり前の現象なんだし、そこで暮らす住民からは単に「霧」と呼ばれていそうなものだと思ったり。
・主人公がスラム街育ちにしてはほとんどスレてなくて、良い子すぎるのは不自然に感じた(貧困地域出身ならスレているに違いない、というのも偏見と言えば間違いないのだが)。自分の命を狙う相手は容赦なく殺したり、必要なら脅し文句も言えるけれど、基本的にはすごく良い子。読者としてはアウトローよりも良い子の方が感情移入できてストレスなく読めるんだろうけれど、生い立ちから形成されるであろう人格とのギャップを感じてしまう。もしかしたらこの違和感が続巻で明かされる真実の伏線になったりならなかったりするのかもしれないけれど。
・下巻のラストについて。物語のオチというか今回の1巻の区切りになるようなものがほとんど無かった気がする。いちおう今回の騒動の真相は判明するけれど、あらゆる問題が次巻に持ち越されたまま終わって「え!?終わり!?」ってなった。大襲撃を生き延びた上巻ラストのほうがクライマックスとして相応しかったぞ。それでも小説の賞が取れるものなんですね。しかも大賞。
 私が通っている小説講座の先生は「ひとつの物語としてまとまっていないと、未完と思われて賞の受賞は難しい」と言ってたんだけどな。元がWEB小説なので続きもしっかりあったのが考慮されたのかもしれないけれど、「大賞受賞作」として売り出されるのはまずは1巻だけなのだから、それが不完全燃焼な終わり方なのは読後がモヤモヤするなあ。
・全体的に語彙が少ない。「ここは今は良い表現が浮かばないから、とりあえず簡単な言葉だけ入れておこう」と後回しにした箇所をそのまま収録したような印象を受ける。

白い少女はその親友を助ける為に、渋る親友を何とか説得して東部の技術があるこの混合区画まで連れてきた。それは本来ならとても大変なことなのだが、少女の熱意と努力と後先考えない必死さが実り、来院を辛うじて成功させた。

『リビルドワールドI〈下〉無理無茶無謀』p405-p406

 とても大変なことなのか・・・。よっぽど大変なことだったんだろうな・・・。
 言うて私も小説書き志望なので、この手の表現のボキャブラリー問題は自分に真っ直ぐ返ってくるブーメランでもあるんだけどね。
・なんか、ありのままの感想を書いていったら批判ばかりになっちゃった。ファンのひとゴメン。


『女ことばってなんなのかしら?: 「性別の美学」の日本語』平野 卿子


日本語の「女ことば」。それは日本人に根付く「性別の美学」の申し子である。翻訳家としてドイツ語・英語に長年接してきた著者が、女ことばの歴史や役割を考察し、性差の呪縛を解き放つ。

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・「女らしい言い回し」には悪態が無い。女性が「クソが」なんて言えば「はしたない」とされた。悪態をつきながら働いたほうが効率が1.5倍になるというデータもあるので、女性はこのバフ効果を封じられてきたとも言える。
・女ことばでは命令ができない。たとえば痴漢された時に「やめろ」と言えば命令になるが、女ことばである「やめて」だとお願いになってしまう。(私的な余談。駅に貼られている痴漢防止ポスターは被害者の側である女性が「痴漢やめてください」と言っているようなヤワいやつじゃなくて、いかついおっさんが「痴漢やめろ!」と凄んでいるものにするべきだと思う)
・日本語は一人称が豊富な言語と言われているが、女性は実質一種類である。「あたし」「あたい」などは「私」の派生だから。「私」に加えて「僕」「俺」「おいら」「吾輩」「拙者」が使える男性はバリエーションが豊富である。ま、最後の二つは今ではほとんど聞かないけれど。(私的な余談。「私」は鋭さが足りないな~ってつねづね思っている。「私はこう思うんだよ!」と「俺はこう思うんだよ!」ではキレが違う。「俺」には刺すような勢いがあると思う。「俺」を無条件に使える世の男性にはやっぱり特権性がある)
・「女らしい言い回し」は日本だけではなく。英語、ドイツ語など西洋語にも存在する。女らしい言い回しは男性のそれと比べて婉曲的になり、物腰が柔らかくなって話者の意思表示が弱くなるという。やっぱり国は違えど、こういうのって共通してるんだなあ。
・問題なのは女ことばそのものよりも、「女らしい言い回し」にあると本書は論じる。そうした言い回しをさせられることによって意思表示が弱くなり、「おしとやか」な社会的役割を押しつけられる、というわけ。「女ことばを使うか使わないか」というよりも、女性がハッキリと意思表示ができるように意識を変えていかなければならない。
・現代では女ことばを使う女性はほとんどいないが、小説などのフィクション作品では役割語として生き残るだろう。特に翻訳小説では登場人物の名前で男性か女性かが分かりづらいことがたびたびあるため、女性キャラに女言葉を使わせて分かりやすくさせることが多い。
・ジェンダー学、社会学、さらには認知言語学の観点からも非常に興味深い一冊。


『タクシードライバーぐるぐる日記――朝7時から都内を周回中、営収5万円まで帰庫できません』内田 正治

「言いがかりにも我慢の仕事」
タクシー乗務員がつづる
憂いと怒りと笑いの路上観察記
――今日もお客に怒られて来い!

お客の中には上から目線でストレスのはけ口をドライバーに向ける人もいた。
お客の理不尽な言いがかりにも反論することなく、ぐっと我慢した。
嫌なお客が降りた後、車内で「バカヤロー」と何度大声で怒鳴ったことだろう。
――50歳でスタートし、65歳でリタイアするまでの15年間の体験を書きまとめた。
私には私にしか書くことができない事実や思いがある。

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・2000年から15年間タクシードライバーとして都内で勤務した男性のノンフィクション本。お仕事本はやっぱり面白い、自分の仕事とは別世界の話なんだもの。事実は小説より奇なり。
・タクシードライバーは安くて美味しいお店を知っている、らしい。ただし駐車違反を切られるため停めた自分のタクシーが店内から見える位置にある店か、駐車場のある店に限る。
・東京で15年もタクシードライバーやっていたら、そりゃあ色んな人にぶち当たるよね・・・。という予想にたがわず、実に個性的な客とのエピソードを余すことなく読める。
・いちいちキップを切ってくる警察は嫌いとのこと。うん、分かる。
・勤務日数自体は一般企業の会社員と比べると少ないけれど、勤務時間は一度出勤したら18時間。マジか。マジみたいです、少なくとも著者が働いていたタクシー会社では。腰バキバキになりそう。
・余談。「私は右でも左でもないが、考えを大声で押しつけてくる右翼の街宣車は好きじゃない」という一文があった。「右でも左でもない」人が右じゃないことがあるのかと、感動を覚えた次第。


『死ぬこと以外かすり傷』箕輪 厚介  
『かすり傷も痛かった』箕輪 厚介


・「Twitterのbioにこのワードが入ってたら気をつけろ」と古くから言われている一文がタイトル。それがむしろフックになって手に取った。結論を言うと、間違いでした。
・懺悔します。本書を「堀江貴文とベッタリで、西村博之を褒め、成田悠輔を擁護し、落合洋一を崇め、東谷義和の本を出したセクハラ野郎が書いた本」とは知らずに読んでしまいました。
・著者がオンラインサロンでブイブイ言わせた勢いで2018年に書いた『死ぬこと~』がヒット。しかし2020年にセクハラ行為が報じられると一気に転落。その後、2023年に『かすり傷も~』を出す。内容は『死ぬこと~』に「反省」という形で加筆した、言ってみれば二毛作な本。どちらも読む価値はないです。
・いかにも「反省して大人になりました」と言わんばかりなトーンで書かれているけれど、転落の原因になったセクハラへの反省はただの一つも無し。それどころか「週刊誌に追い回される俺」という被害者ヅラな雰囲気すら漂うので、本質的には変わっていなさそう。この人が編集した本は読みたくないな~。
・セクハラを働いた人間の顔は目に入らないに越したことはない人が多数派だと思うので、表紙画像は載せないでおくね。
・追伸。堀江貴文をホリエモンと呼ぶな。ドラえもんが穢れる。

『勘定侍 柳生真剣勝負〈一〉 召喚』上田 秀人


大坂商人、柳生一族の陰謀に巻き込まれる!
時は寛永十三年――江戸城黒書院に呼び出された、惣目付を務める柳生但馬守宗矩。
上段の間の襖が開くと、老中の堀田加賀守より、「役目に奨励をもって、四千石を加増する」との旨が伝えられた。
本禄の六千石と合わせて、ついに一万石となり、晴れて大名となった柳生家。
だが、宗矩の顔は沈んでいた。
大名を監察する惣目付が、大名になっては都合が悪いためだ。
案の定、宗矩は即日惣目付を解かれ、監察される側に回されてしまう。
惣目付時代に買った恨みから、痛くもない腹まで探られてはかなわない。
なにしろ旗本から大名になれば、典令や家政が大きく変わるため、隙を生みやすいのだ。
一族最大の危機から逃れるべく、策を講じなければならなくなった宗矩は、なかでも武士が苦手とする金勘定が危ういと考え、ある秘策を思いつく。
なんと、大坂一と言われる唐物問屋淡海屋七右衛門の孫である一夜を召し出すという。
いったい柳生家と一夜は、どんな関わりがあるのか?
武士となった一夜に、宗矩の嫡男である十兵衛は、柳生家の者として剣術を身につけよと新陰流を指南するが……。
果たして一夜は柳生家を救えるのか?
痛快時代小説シリーズ第一弾!

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・一般人の主人公が実はすごい人の血を引いていたパターン。こういうのって名前が付いてた気がするんだけど、なんだったっけ・・・。大阪の商人の跡取りが実は剣豪・柳生一族の血を引いていると判明するところから物語が始まる。
・「無駄金はまた稼げばいい。けれど無駄な時間は戻らない」というセリフがあって、めっちゃ同意。「時は金なり」って言うけれど、実際は時のほうが金よりも平等で貴重だと思っているので。私の100倍収入がある人でも、私の100倍長生きできるわけじゃないから。
・表紙とタイトルからして固い印象を受けると思うけれど、「二度寝」などのカジュアルな単語も出てくる。時代小説は久しぶりに読むけれど、けっこう読みやすかった。
・「あれ、また俺なにかやっちゃいました?」じゃないけれど、一般人の主人公が柳生十兵衛の神速の太刀を初見で回避したことで周囲がどよめく展開があるので、近いものがあったりなかったりするかもしれない。
・Audibleで聴いたんだけど、「シンデンの開発」というセリフで「神殿? 日本なのに?」と混乱したあと、「新田」だと分かった。いや、そこは前後の文脈で分かれよ自分。





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