【読書感想】百合ファン兼 佐藤友哉ファンが『大火』を読んだ感想
前置き
佐藤友哉がはじめて百合を書くと聞いた時、真っ先に浮かんだのは「え!?大丈夫!?」でした。
デビュー作『フリッカー式』で男性主人公による女性キャラへの一方的な暴力をノリッノリで書いていた、佐藤友哉だよ!?
『鏡姉妹の飛ぶ教室』でコテコテの「変態百合キャラ」をお出しした、あの佐藤友哉だよ!?
酔っ払いに車の運転を任せるような不安感が、正直なところありました。おいおい、この人に百合を書かせていいのか。
私がどれくらいのレベルで佐藤友哉ファンなのか、これまでに読んだ作品を並べることで示そうと思います。
『333のテッペン』
『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』
『子供たち怒る怒る怒る』
『1000の小説とバックベアード』
『世界の終わりの終わり』
『水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪』
『鏡姉妹の飛ぶ教室 〈鏡家サーガ〉例外編』
『青酸クリームソーダ 〈鏡家サーガ〉入門編』
『クリスマス・テロル invisible × inventor』
『星の海にむけての夜想曲』
『鏡姉妹の動物会議 〈鏡家サーガ〉本格編』(第一回のみ。未完作品)
『灰色のダイエットコカコーラ』
『ナイン・ストーリーズ』
登場人物が全員女性の『デンデラ』を読んでいないのが意外に思われたかもしれません。私はおばあちゃん百合も好きではあるのですが、佐藤友哉作品に求めているものとは違うのでパスしてしまいました。最近は百合ジャンルでおばあちゃん百合がアツいし、読んでみようかな。
『ベッドサイド・マーダーケース』など、最近の佐藤友哉作品も読めていませんね。彼の作品が好きだったのは00年代の頃の若々しさが魅力的だったからなので、最近のカドが取れた感じがどうにも合わなくなってしまって。
『大火』感想
前置きはここまで。さて、佐藤友哉初の百合小説の感想を綴ります。
物語の型は「奇妙な家」方式。舞台は太平洋戦争末期の函館。空襲で焼け出されて身寄りを亡くした少女が、とあるきっかけから立派な屋敷に住み込みで奉公することになります。その屋敷には戦時中だというのに食料が豊富にあり、屋敷の奥様曰く「二階には絶対に上がってはいけない」。そして毎晩、どこからか獣の鳴くような声が響く。そんな満たされてはいるけれどどこか不気味な日々の中で、主人公は屋敷の娘、本作のヒロインと出会います。
出会いの型は「わあ、綺麗な子・・・」方式。作中の言葉を引用すると、正確には「なんと・・・・・・美しいひとでしょう。」方式。顔だけでなく佇まいから全てが美しくて、主人公は一気に一目ぼれしちゃったわけですね。ズバズバとモノを言うヒロインに主人公は不思議と惹かれていき、やがて二人は屋敷の離れであやとりをして一緒の時間を過ごす仲となります。百合ですね。けれども戦争は終結へと突き進み、広島と長崎に原爆が投下、北からはソ連が侵攻を開始。果たして北海道は、そして少女ふたりの絆はどうなるのか。
という感じの、いわゆるレトロな雰囲気漂う百合です。のっけからお嬢様みたいな文体が始まったときは「佐藤友哉、こんな文章書けたの!?」とビックリしました。大正時代のエスあたりをイメージしていただければいいと思います。この作風は意外でした。てっきり現代を舞台に血なまぐさい事件が起こる『フリッカー式』系か、おばあちゃん百合の『デンデラ』系のどちらかが来ると勝手に予想していたので。
百合としてのジャンルは、友情以上恋愛未満百合。恋愛百合ではないものの、少女同士の強い絆や繋がりが描かれています。雰囲気としてはやっぱりエス百合に近い。不穏な空気が充満する時代でひっそりと輝く少女ふたりの交流と、主人公がヒロインを助けるために身を挺する終盤の展開は百合的においしかったです。佐藤友哉、ちゃんと百合を書けるんだ・・・。『クリスマス・テロル』並みの大事故が最悪起こるかと思って身構えてたけど、杞憂でした。ハッピーエンドとは言えませんが、読後感は悪くないです。
なお、主人公とヒロインの百合カップルには被害はありませんが、百合とは関係ないサブキャラの女性が性的に酷い目に遭っている設定があるので、それだけ注意です。
佐藤友哉ファンとしては「あれ」が登場したのにニヤリとしました。百合であり、佐藤友哉要素もひっそりとある。両方のファンとして読み応えのある作品でした。
『大火』は『零合 百合総合文芸誌 第2号』掲載です。
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