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【読書メモ】今週読んだ4冊


☆おすすめ!『ここでは猫の言葉で話せ』2巻 昏式 龍也


諜報員三姉妹、襲来!命も恋も大ピンチ!?
猫とのモフ活と女子高生としてのガールズライフを過ごす中で人間らしい感情を取り戻していく元人間兵器のアーニャ。
そんな中、アーニャを狙う米国諜報員『グライアイ三姉妹』が日本上陸!
アーニャのみならず同居する小学生・旭姫の元にもロリコンの長姉・ペムプレードーの毒牙が迫る。さらに小花とのデートを懸けて次妹・エニュオーとアーニャが学校の屋上でデスマッチ! 激ヤバ三姉妹の策謀でアーニャの命と恋は大ピンチ!?
大切な人を守り抜け! 譲れない想いを抱えた少女たちのハードキャットファイト開戦!

Amazon商品ページより

・猫、百合、暴力。三拍子そろった百合ラノベ第2巻。
・この猫作品にはバトルシーンがある!(猫は巻き込まれません)
・登場キャラがほぼ全員女性で、メインキャラはみんな女好きの女なの最高か。しかもめちゃくちゃ強いのだから申し分ない。前巻の作者あとがきで「『デストロ246』が好き」と明言していることもあり、あの作品の百合×暴力な作風からの影響が見て取れる。すなわち、女好きの女がめちゃつよい。
・今回は、生きることに執着のないイケタチ美人×手負いの狂犬系女子(ネコ)のカップルがここに誕生。めちゃくちゃ好みです。
・無自覚天然タラシクール女子の主人公をはじめ、天真爛漫ヒロイン、イケタチ美人、主人公大好きツンデレ少女が登場した本作。今回はそれに加えて、少女大好きお姉さま、お姉さま大好き女子、女好きギャルが参戦。すばらしく濃い、最高。
・直接的な性描写はないけど、百合セックスもあるよ。
・作者あとがきで本作は「ガールズラブコメ」と明記される。ガルコメの巨匠・みかみてれん先生が広めたこのジャンル名が浸透しているみたいで嬉しい。
・本作で登場するのは、猫とネコとタチ。おあとがよろしいようで。

『神様のカルテ』夏川 草介


この病院では、奇蹟が起きる。
栗原一止(いちと)は信州にある「24時間、365日対応」の病院で働く、29歳の内科医である。ここでは常に医師が不足している。専門ではない分野の診療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を3日取れないことも日常茶飯事だ。妻・ハルに献身的に支えられ、経験豊富な看護師と、変わり者だが優秀な外科医の友人と助け合いながら、日々の診療をなんとかこなしている。
そんな栗原に、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。悩む一止の背中を押してくれたのは、死を目前に控えた高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。
第十回小学館文庫小説賞受賞作。2010年本屋大賞第2位。

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・主人公が夏目漱石好きという理由で、地の文の文体が古風である。青年なのに妻を「細君」と呼んだりする。それゆえ文体のクセがかなり強いので、持って回った言い回しにイラっとする人には向いてない。たとえば森見登美彦の文体が苦手な人は、おそらく本作も無理だと思う。
・思ったよりノリが軽い。医師の葛藤や延命治療の是非などの重い展開もあるけど、ユーモラスなキャラやおかしみのある文体が中和剤となってライトに読める感じになっている。重くなりがちな医療小説の雰囲気を少しでも読みやすくしている印象を受ける。
・その一方で、医局制度の問題点や夜間外来の事情など医療現場のリアルを詰めこむのも忘れない。「病院の劣悪な労働環境を美化するな」的なセリフがあったのもよかった。医療小説にはそういう感じの、滅私奉公で働き続ける医者をカッコいいものとして描く作品もあるし。
・医療小説だけど、病院以外のシーンも読みごたえがある。舞台が長野県なので松本城の描写もあるし、主人公が住んでいるボロアパートの個性的な住人との交流もある。その住人のひとりが実は葛藤を抱えていて、やがて人生の転機を迎えてアパートを去る展開がある。そこがすごく感動的なんだけど、いかんせん病院の外での展開なので医療はあんまり関係ないシーンなのであった。医療小説なのに。
・ちょっと私的な話。本作の主人公が「悲しむことが苦手」というのに共感を覚える。というのも、私はほとんど悲しんだことがないから。これまでに家族の死を3回経験しているけど、一度も泣いたことはなかった。家族の死が悲しくないと思っているわけではなく、客観的には悲しい出来事だと理解はできる。けれど、主観的に悲しい感情が湧き上がってこない。なんなんだろうな~、と思っている。本作の主人公は悲しめないわけではなくて、悲しむことが苦手な様子。今回の1巻ではあまりそのことについて触れられなかったけれど、続巻では物語のキーになったりするのかな。
・1巻の時点だけど「嫌な人」がいないのが良かった。医者も看護師も患者もアパートの住人も、クセはあるけど嫌なことを言ってきたり、主人公の不利になるようなことをするような立ち位置のキャラはいない。なので、小説とかで「嫌な人」がいるのがイヤな人でもストレスフリーに読めると思う。
・最終的には「置かれた場所で咲きなさい」みたいなオチだった。先端医療が学べる大学病院ではなく、地域医療でひっ迫する地元の病院での勤務を続けることを選んだ主人公。その決断は立派だと思うけど、それはさておき「置かれた場所で咲きなさい」的な価値観はあまり好きではない。主人公はたまたまやりがいのある環境に置かれたからいいけれど、世の中にはあまりにもクソな場所に置かれてしまった人もいるので。そうした人は今の環境に不満があるなら、置かれた場所からは可能な限り離れた方がいい。


『ソードアート・オンライン 1 アインクラッド』川原 礫


クリアするまで脱出不可能、ゲームオーバーは本当の“死”を意味する──。謎の次世代MMO『ソードアート・オンライン(SAO)』の“真実”を知らずログインした約一万人のユーザーと共に、その過酷なデスバトルは幕を開けた。 SAOに参加した一人である主人公・キリトは、いち早くこのMMOの“真実”を受け入れる。そして、ゲームの舞台となる巨大浮遊城『アインクラッド』で、パーティを組まないソロプレイヤーとして頭角をあらわしていった。 クリア条件である最上階層到達を目指し、熾烈な冒険(クエスト)を単独で続けるキリトだったが、レイピアの名手・女流剣士アスナの強引な誘いによって彼女とコンビを組むことになってしまう。その出会いは、キリトに運命とも呼べる契機をもたらし……。果たして、キリトはこのゲームから抜け出すことができるのか。 第15回電撃小説大賞<大賞>受賞作『アクセル・ワールド』の著者・川原礫!

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・ギリ00年代のヘテロ(異性愛)ラノベ。MMO物が量産されることになった原因(諸説あり)を読んでみた。ネットミームでなにかと風評被害に遭っている本作だけど、主人公はイキリオタクではない。
・MMO物の例にたがわず、冒頭から設定の羅列が続く。 SAO、お前もか。本作の舞台となるゲームの設定、ゲームの人気度、ゲームハードの事情、などなど。作者の脳内の説明は早めに切り上げて、なんか面白い展開を起こさんかい。
・最初にゲーム世界からログアウトできないという出来事が起こるんだけど、その後は黒幕からの「これから諸君にはゲームをしてもらう」的な説明が長々と続く。黒幕の説明が終わったあとも、その後の2年間で発生したプレイヤーの派閥の説明が地の文で延々とされる。完全に「止まった」文章になってるよこれ。なんか大変なことが起こってるみたいだけど、とっととバトルなり事件なりがおっぱじまって死人出ねえかな~~~、と思うくらいには退屈に感じた。とにかく前置きが長い。プレイヤーの派閥とかの設定は面白い展開を描いていく中でおいおい描写してくれれば、読者として作品世界に入り込みやすいのだけど。いちおうプロローグでバトルシーンはあるんだけど、それもこの後の説明の冗長さに少しでも耐えてもらうための措置に思えてしまう。
・ヒロインの好感度が最初からMAX。けれどこれは主人公とヒロインの馴れ初めの過程を省略して描いているからであって、出会って間もないのに何故か主人公大好きになっている謎の現象ではない。これもイン・メディアス・レスと言うのだろうか。
・馴れ初めを省略するのはいい。けれど、恋愛展開がいささか唐突すぎる。さっきまではお互い戦友みたいな関係性だったはずなのに、いつのまにか恋愛関係になってるんですけど。
・中盤以降の展開は、主人公がヒロインを好きだという気持ちだけを原動力にして物語が動く。主人公の行動原理がヒロインを愛する気持ち一択になる。しかし、主人公がヒロインを好きになった理由がよく分からない。最終的にはヒロインのために命まで投げ出すんだけど、それほどまでに好きな理由が分からないので読者である私は完全に置いてけぼりを食らった。「あれ、主人公がヒロインを好きな理由を示すエピソード、もしかして読み飛ばした?」と不安になるくらい。たぶん、好きになった理由は「他のプレイヤーを見捨てた自分に手を差し伸べてくれた」からだと思うんだけど、読んでいてあんまり伝わってこなかった。もしかしたら本当に読み飛ばしたのかもしれないけれど。
・なんとなく「俺TUEEE系」かと思っていたけど、強敵には普通に苦戦するし負ける展開もある。少なくとも1巻の時点では。
・MMO系名物「ステータス画面」がいまのところ無いのでよかった。Audibleで聴いてるんだけど、あれがあると普段なら1秒ぐらいで読み飛ばすHP/MPやスキル名が羅列してあるページを4分くらい掛けて毎回ぜんぶ朗読するから、ぶっちゃけキツいのよ。
・作中のMMOをプレイする際に必要なゲーム機の名前が「ナーヴギア」なんだけど、元ネタがゲームギアだったりは……しないか。
・ゲーム世界にそのままダイブできるMMOのリアルさを表すために「もう二度と、タッチペンだのモーションセンサー程度のインターフェースには戻れないと確信してしまうほどに」とする一文がある。なんかDSとWiiをdisってます? 任天堂好きとしては反応しちゃうよ? 本作が発売された2009年ごろって、任天堂ハードはdisっていいみたいな風潮あったよね。
・脳からの信号でゲームを操作できる最先端ゲームが発売されたのは2022年という設定。実際の2020年代現在は、VRゲームが低空飛行を続けている印象である。PSVR2も出たけれど面白そうなソフトは無いし、そもそも75,000円もする周辺機器を買ってくれるプレイヤーがどれだけいるかって思うと、市場規模も狭くならざるを得ない。というわけで、2009年当時に想像していたほど2020年代のゲーム業界は進んでいないのであった。
・ラッキースケベがあります。ラノベなので特に意外性がないのが悲しい。
・1巻を読む限り普通に面白い。けれど、あれほどの大人気作品になるほどだろうか? とも思った。ストーリーのどんでん返しも特に意外性はないし、キャラクターもよくある感じで飛び抜けて個性的というわけでもない。シリーズを重ねるごとに面白さが増していくんだろうか。

『紅蓮館の殺人』阿津川 辰海


山中に隠棲した文豪に会うため、高校の合宿を抜け出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。これは事故か、殺人か。葛城は真相を推理しようとするが、住人や他の避難者は脱出を優先するべきだと語り――。タイムリミットは35時間。生存と真実、選ぶべきはどっちだ。

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 下は大火事、上は殺人。これ、なーんだ?

・高校生探偵VS元探偵、ミステリ文豪のからくり屋敷、吊り天井の部屋の死体、迫り来る山火事。要素が渋滞しておる。
・クローズドサークルにはタイムリミットがある。たとえば助けが来るまで、あるいは食料が尽きるまで、はたまた殺人犯に皆殺しにされるまで。そして本作は、焼け死ぬまで。外に出られない空間的な制約と迫りくる時間的な制約が、殺人犯との頭脳戦の緊迫感をより高める。犯人が誰かは終盤までマジで分からんです。
・「探偵」というものを問い直す作品でもある。外界した隔離された空間で殺人事件が起こり、周りは信用できない人間ばかり。そんな状況で関係者の嘘を暴いて回ることは、はたして本当に正しいのだろうか? 犯人が逆上して襲いかかってくるリスクもあるし、犯人以外の人間も素性が知れない以上、結託して探偵を潰しにくるかもしれない。それでも推理をひけらかして真実を暴き出すのが、どんな場合でも常に正しいのだろうか? 自分や助手の安全を顧みない推理は、褒められるべきものなのか。
 こういう「探偵」なるものを問い直すミステリを最近はよく見る。本作ともミステリとも話は逸れるけれど、私が好きなジャンルの百合でも「百合とは何か」を読者に問いかける作品が最近登場している(『夢の国から目覚めても』『ゆりでなるvえすぽわーる』など)。ジャンルそのものについて問いを投げかけるスタイルは、ある程度成熟したジャンルではよくあるのかしら。
・ある女性キャラが親しい女性に対して恋愛感情とも解釈できる想いを抱いていることが分かるシーンがあるんだけど、そこで「私と一緒にいたら彼女を不幸にしてしまう」と自省するのね。今どきそれはどうなのかーと思ったよ正直。ちなみにその女性キャラはその人には想いを伝えられないまま死別する。悲しいです。

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