【読書メモ】今週読んだ5冊
『タイムマシンに乗れないぼくたち』寺地 はるな
・主人公の女性がぶつかりおじさんに遭遇して、会社でそのことについて話していたら男性の上司が「そいつも寂しいんだろう」と擁護するようなことを言うシーンがある。そのことに対して「自分のさびしさのために、他人に危害を加えてはならない」と主人公が独り言ちるシーンが印象的。
・もし、あなたがさびしくて苦しいなら、ただ横に並んで同じ方角を向いてくれる。そういう一冊。
・「女としての幸せ」を押しつけてくる家族、嫌なひそひそ話や目くばせをする同僚やクラスメイト。そんなこんなに押しつぶされそうな主人公たちと一緒に孤独になれる。
・寂しさを捨てて、孤独と仲良くなれる。この本がくれるものは、勇気と呼ぶには大げさすぎる。もっと些細で日常的で、けれども隣に立って黙って同じ方角を見据えてくれるような、やけに暖かくて心が満たされるもの。
・「灯台」という話で百合フラグ的なものが立って速攻で折られるのだけはいけ好かないと思いましたわね。
『ST 警視庁科学特捜班』今野 敏
・「赤」「黒」「青」「緑」「山吹」が入った名前の5人組からなる科学特捜班が主人公。なんだか特撮ヒーローみたいね。
・5人組の紅一点の女性キャラ(紅一点だけど「緑」)があからさまなセクシー要員なのは、いかにもおっさん向け~!って思った。
・特捜班が「一匹狼」「武道家」「イケメン」「セクシー女」「お坊さん」とみんなキャラが立っており、だいぶエンタメ色の強い警察小説。悪く言えばB級。硬派な作品を求めている人には向いてないかも。
・「ロク=死体」「吉川線=絞首死体の首筋に見られるひっかき傷」など、警察小説初心者にも分かりやすい用語解説があるのが嬉しい。
・女性のレイプ&惨殺体が連続して発見される事件なので、だいぶしんどい。
・聞き込みの最中に聞き込み相手の女性キャラの胸が大きいことを、特に物語上の必然性なくやたら強調する描写が入る。いや、いまその描写いらんだろ。
『魔眼の匣の殺人』今村 昌弘
・「本格ミステリ×ゾンビパニック」という異色の組み合わせだった一作目に続き、本作は「本格ミステリ×予言」。前作はゾンビという非現実的な要素がトリックに深く絡む特殊設定ミステリだったけど、今回はトリックに限って言えばオーソドックス。非現実的な要素を加味しなくても推理できるので前作よりも硬派寄りになった印象。
・トリックに直接関わってはこないけれど、動機の面で予言が深く関わってくる。なるほどそういう感じで特殊設定を活かすのね。
・今回も登場人物の分かりやすい覚え方を提示してくれるので、キャラの名前を覚えるのが苦手な身として助かる。軽薄なライター→臼井頼太(うすいらいた)など。
・クローズド・サークルの殺人ミステリ。他のミステリと一線を画すのは、この物語で何人死ぬかが最初に示されること。男女ふたりずつ、合わせて四人。予言は絶対であり覆ることはない、というルールのもとに事件が進行する。自分以外の同性がふたり死ねば自分は助かるという暗黙のルールのもとで。
『逆ソクラテス』伊坂 幸太郎
・小学生が主人公の短編集。大人も楽しめる子どもの物語です。
・いわゆる「スカッとジャパン」みたいな、ムカつくキャラに一杯食わせてやる展開がほぼ毎回ある。その点は好みが分かれるかも。
・友達を救うためにドローンが必要になる展開があり、その入手方法がゲームセンターのクレーンゲーム。クラスのクレーンが得意な子にお願いして取ってもらうのがすごく小学生っぽい。こういう小学生の目線に立った話を大人が書くことは案外難しい。自分が子供の頃なんて大半は忘れているものだし、そもそも自分の小学生時代と今の小学生とでは環境が全然違うし。伊坂幸太郎が子供の頃にはドローンなんてなかった。
・「悪いことをした人にもその後の人生がある」「昔話みたいに悪人を退治しておしまい、とはいかない」というメッセージが物語の根底にある。犯罪者にも救いがあると。これは意外に感じた。これまでの伊坂作品は分かりやすい悪人が出てきて、最後には悲惨な死を遂げる展開が多かったので。分かりやすい悪役が出てきて、完膚なきまでに退治するのが伊坂作品の様式美だと思っていた。
・「犯罪ではないけれどやるべきではないこと」をやるかどうか。もしやってしまったらそのことにどう向き合うかにその人の人間性が現れる、という主旨の一文があり大いに共感。ネット上で「別に犯罪じゃないしー」と露悪行為を肯定するオタクが悪目立ちしているので。
☆おすすめ!『明日の世界で星は煌めく』1巻 ツカサ
・かわいい女の子がかっこいい話。
・Audibleで再読。クラスの爪弾き者だった女の子がゾンビパニックに巻き込まれてクラスごと壊滅。一人だけ魔法の杖を与えられて生き残り、終末世界をサバイバルする毎日。そんなある日、一人の少女と出会う。それは暗黒の学校生活で出来た唯一の友達だった。
・百合ラノベです。百合度は友情以上百合。終末世界で手を取り合って生き残る女の子ふたりの関係性が眩しい。最終巻まで読んだ身として言うけれど、主人公たち百合メンバーに異性愛要素は無し。百合メンバーではないサブキャラにはあるけど申し訳程度。
・ゾンビ×魔法×百合という新しい組み合わせが魅力的な作品。魔法は水=液体、土=固体、風=気体を操る仕組みと説明される。よく分からない原理ではないのが分かりやすい。そしてヒロインは銃を使う。魔法×銃、これもまた異色。
・ヒロインの女の子が主人公の女の子のことを「かっこいい」と好き好きしてるのが最高に良い。主人公は表紙の右の子だけど、「かわいい」じゃなくて「かっこいい」のがいい。そして見てくださいよこの身長差。
・擬音が多めなので文体で好みは分かれるかも。あと、イラストは可愛らしいけど文章におけるゾンビの描写は割とリアルです。
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