パトリック・ジュースキント著『香水 ある人殺しの物語』
1985年にドイツで発行された小説。日本では2003年に発刊され、2007年に映画も公開されている名作。
18世紀のフランスを舞台に、超人的な嗅覚を持って生まれた孤児ジャン・バチスト・グルヌイユの生涯を描いている。
この物語の主人公は劣悪な環境での生まれ育ちと、持って生まれた偏執的な性格傾向、異常なまでの嗅覚が全て揃った事で殺人犯にまでなってしまったのだろう。
この物語のほとんどは優れた嗅覚を持つ偏屈な青年が調香師として完成させるまでの長い期間を描いている。
ゆるやかに殺人犯をプロファリングしている気分にすらなる。
また、日々の生活ではあまり意識していないような匂いの心理的な影響力にも気付かされた。
意識して感じていないが人間が本能的に感じとる匂いでのコミュニケーション。
アロマオイルやお香には人の心理へ与える影響があるが故に意図的に生活に取り入れられている。
多少大袈裟ではあるが、匂いによって人の印象を操ることも難しい事ではないと分かった。
一見するとフランスの時代劇のような物語のように思われるかもしれないが、特殊な能力を持ったやや自閉傾向のある男が匂いを追い求め、その欲望に忠実に生きるとはどういう事かを描写しており、現代社会にも置き換える事もできると思う。
共感して感動するような物語ではないが、違う思考回路の人間の在り方を覗いた気分になるのも面白い。
人間心理やプロファイリングに興味がある人にはお勧めかもしれない小説です。