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短編小説群「千の点描」とは

「千の点描」について

「千の点描」は、一つ一つの無数の点描によって一枚の大きな「点描画」を描くという意味が込められている。作者である私は戦後生まれであり、私自身に自覚的な記憶はないものの、食料難、配給の時代を越えて戦後復興の時代へ。さらに、東京オリンピック、1970年の大阪万国博を経て経済の高度成長期を迎えた。やがては、バブル経済からバブル崩壊へと、私が生きた短い時間の間に、日本の社会は経済を軸に、「ジェット・コースター」のように目まぐるしく起伏を繰り返してきた。配給時代からついに「ジャパンアズナンバー1」へと。そしてバブル崩壊まで、おそらくこれほど短期間に、大きな経済的激変を経験した国は歴史的にも少ないと思う。

そしてその変化は外から見える変化だけではなく、肉体の内部ではある種の筋肉断裂を起こしながら、経済成長を急かされた国民たちの苦い思いがあった。私たちが生きた時代とは、丸ごと「戦後」そのものだった。そしてまた「昭和」という視点で、私たちの生きた時代を振り返れば、それは日本が世界の列強に追いつけ追い越せと、理屈もポリシーもなくただ暴れまわった挙句、全責任を次の世代に丸投げした結果の敗戦処理にも似た荒廃の時代と言える。私たちが生きた一日一日とは、そうした戦後の一日一日で、その中に目の前に広がる現代日本の断片が散りばめられている。その一日一日の断片が「千の点描」の一つであり、それをかき集めることによってこそ、私たちにとっての「戦後」という「点描画」が描かれ、本当の意味が見えてくると思うのだ。それはまた、「戦後」という時代における私たちの心情の「絵日記」ともいえるかも知れない。

「千の点描」は、全体として「短編群」とでも表現すべき独自のスタイルで、「千の点描」というタイトルのイメージ通り、「千夜一夜物語」にヒントを得たものだ。「戦後」という時代を解剖しつつ、不思議で、懐かしい、時に怪奇で幻想的な夢を交えつつ、『戦後の昭和」を語ってみたい。いつまで「点描」を描き続けられるかは分からないが、私のライフワークとして最善を尽くしたい。
                      
                           波多野 ふひと



                             

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