ちょっとだけ
あなたがこの手紙を読んでいるという事は私はもうこの世には居ないという事ですね。なんだか寂しいな。
今こうして自分の人生を振り返って、後悔も楽しかった事もたくさん思い出してきて、文字に残したい気持ちでいっぱいです。過去の事を今更写真に残すことは出来ないから、言葉で、文字で残す事にしたいと思います。
だからちょっとだけ、私のさよならの前に付き合ってください。
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相手の為と思ってしてた事は全部、自分の為だった
夜中に一人で考える時間は本当に無駄だった
相手といる時間が幸せだから言いたい事を言わずに我慢していた事は本当の幸せではなかった
うらやむだけの嫉妬は本当に醜かった
相手に分かって欲しいという気持ちで何も言わないのは、相手の気持ちを考える余裕がない証拠だった
自分の思い込みに気付く事は本当に難しかった
相手を傷つけるような言葉は面と向かって直接言った方がよかった
紙で指を切った時は他の傷よりも痛かった
涙は本当にしょっぱかった
写真は思い出に残るから、たくさん撮ってたくさん写っておくべきだった
バイバイって言うよりまたねって言って別れる方がよかった
プリクラの機種は慎重に選べばよかった
もう少し校則を破ってみればよかった
スカートをもう一つ折ってみたかった
好きな人ともっと話しておけばよかった
恥ずかしい気持ちで言えなかった言葉は後から必ず後悔に変わった
喧嘩したら相手に嫌な気持ちをさせてごめんねと先に謝ればよかった
ごめんねよりもありがとうの言葉をたくさん言えばよかった
大切な人の前でもっと泣けばよかった
大切な人の前でもっと笑えばよかった
何でもない事を話せばよかった
もっと自分をさらけ出せればよかった
もっと、もっと_______
当り前の事が当たり前でなくなる瞬間、私はもう少し生きたいと思ってしまいました。私の人生はこう振り返ると後悔ばかりです。今更もうどうしようもないのに、あの日に、あの時に戻ってやり直したい、そう思ってしまいます。私には大切な人がいます。こうして今手紙を読んでくれている貴方です。私は最後の最後まで自分の口から「好き」だと言えませんでした。いずれ私がこうなる事が分かっていたからです。ずっと一緒に居れない相手から好きだと言われたらきっと困ると思ったからです。私の一番の後悔です。
私はね、最後までいつも通り過ごしたかったの。最後だって思いたくなかったからいつも通り過ごしたかったのに、こんな手紙書いてたらもう無理だね。思っちゃうよ、考えちゃうよ、願っちゃうよ。もっと生きたいって。
でも無理なんだ。だからもうお別れです。今まで私と仲良くしてくれてありがとう。こんな私と話してくれてありがとう。貴方と話してる時間は本当に幸せでした。最後まで私の意地っ張りな性格のせいで言えなかったけど、ここでなら言えるから言うね。
本当に大好きでした。ありがとう。
貴方のだいすきな人より
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男は手紙を読み終えてその場に膝から崩れ落ち、ただひたすらに泣いていた。手紙を強く握りしめ、彼女の名前をそっと何度も繰り返し、ただひたすらに泣いていた。
「好きだって気づいてたなら言ってくれよ、薄情だぞ…」
男はそう言ってまた泣いた。