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ダンスカンパニー・チャイロイプリン『FRIEND』

池袋あうるすぽっとで、おどる戯曲『FRIEND』を観劇しました。安部公房の名作戯曲と言われる『友達』を下敷きにして、ダンス中心にリミックスした舞台で、2013年の若手演出家コンクールで最優秀賞、国内+韓国ツアーも行われている。これまで何度も再演されている作品とのこと。

これは完全に僕の責任なのだが、安部公房の『友達』を舞台として見たことがなかったので、本来それを知った上で見るとダンスリミックスの醍醐味をもっと味わえたんだろうな、と思いました。池袋あうるすぽっとは音響も照明も素晴らしく、迫力のあるダンスライブが展開されたのでその点は楽しめたのだが、なんと言っても安部公房の、多数派が民主主義の名の下に個人を蹂躙する、というストーリーをダンスという肉体言語に翻訳した舞台なので、その原文をちゃんと履修してなかったのはもったいないことをしてしまったと後悔。そもそも演劇ファンにとっては常識も常識みたいな舞台かもしれないので知らないのは恥ずかしいのだが、知らなかったものは仕方がない。これから見る人で安部公房の原作を読んでない人は読みましょう。でも舞台は迫力があった。主演の「男」(安部公房の戯曲なので主人公でもエキストラみたいな役名である)を演じた青井想さんは少年のようにきれいな声で、侵入者である家族に翻弄される姿が美しかった。先日『アルルの女』で見た藤井咲有里さんは、なにしろガラッと雰囲気が変わるので今回は誰が藤井さんなのか見つけられるか心配だったが、母の役でキレキレのダンスを見せていた。この、ある意味では陰鬱で観念的な安部公房の舞台を、ダンスという美しくて楽しい表現でリミックスして、そのことがむしろ「楽しさが抑圧として機能する」という現代への批評になっている舞台だったと思うので、重ねて原作読んでなかったのはもったいないことしちゃったな。

照明音響に加えて、映像投影やスマートフォン連携などのテクノロジーが舞台のあちこちに散りばめられていた。すごく心配になったのは、この舞台の採算である。というのも、感染対策で一席空けの上演になっており、満席でも半分しかチケットが売れない状態だからだ。つい先日の「アルルの女」では、一席空けずに満席公演が許されていたのだが、これはこの劇団がもともと事態を見据えて半分しかチケットを売っていなかったのだろうか。だとしたらすごく良心的だと思うが、採算が心配になってしまう。

念のために書いておくと、この劇団の感染対策はコロナ禍以降に見た演劇の中でも一番と言っていいくらい厳重だった。何しろ、ビル内の劇場あうるすぽっとに入る前に止められて、同じ階のトイレで手を洗うことをお願いしているのだ。たいていの劇場はアルコール消毒だが、石鹸で手を洗えばさらに効果は高い。
グッズなどがQRコード式でネット通販なのは他の劇団でも見られたことなのだが、面白かったのは公演後、楽屋にいる役者さんとファンが、タブレットを通してオンラインのコミュニケーションを取っていたことだ。小劇場演劇では、役者さんとファンがそうしてコミュニケーションを取るサービスがしばしばある。でもコロナ禍でそうしたサービスは極めて困難になった。役者と観客の対話はリスクの最たるものだからだ。でもこのタブレット形式なら、そうしたサービスが可能になる。色んなことをちゃんと考えている、アイデアのある劇団なんだなあと思いました。

で、ここからは月額マガジン用に、小劇場と感染対策の話。あまり拡散したくないこともふくめて。

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七草日記

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