愛社精神溢れる社員たちの反乱 働き方改革パラドックス
「こんなこと、やってられるか!!!」
「〇〇さん!!!」
そういって壮年の男は出て行った。そして、
「わたしたちもやめます」
「ぼくも」
「わたしももうついていけないよ」
そういってみな、続いて出て行ってしまった。
「みんな・・・・」
そういって、若い男は落胆した。
男はこのレストランのオーナーになったばかりの男だった。
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「〇〇さん、いいんですか?」
「ん?」
「だって、あんなに店のことを考えていたのにこんなふうに・・それにこんなみんなが店を出て行ったら、お店は回らないですよ」
「まぁな。だが、いいお灸にはなっただろう」
「え?」
「オーナーのいっていることは正しいよ。いまのまま非効率な仕事のやり方を続けていたら、そのうちダメになっちまう。しかし、急に正しいことを言われても人はそれだけじゃついていかない」
「〇〇さん・・・・!」
「オーナーはMBAだか、コンサル会社だか外資だかのエリートらしいが、本当の仕事ってものをしらねぇ。本当の仕事ってのは人間がするもんなんだ。それをしってほしいのさ」
「〇〇さん・・・!」
「〇〇さん!」
「俺は別にこの会社を辞める気はないさ・・・本気じゃない。俺だって店のことを考えてる」
「じゃあ…!」
「ああ、そろそろ戻ってやるか」
そういって男はタバコの火を消した。
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「多分、オーナー、いまごろ落ち込んでますよ!」
「てんやわんやかもしれませんね!」
「〇〇さんの懐の深さに感銘を覚えて、私たちも仕事がやりやすくなるかも!」
「さすがにこの年で再就職はね・・・」
「まったく、お前らも抜け目ねぇなぁ・・・・ん?」
「はい! というわけでみなさん、よろしくお願いします!」
戻ると若オーナーは現場を仕切っていた。
「さすがです! オーナー、ピンチをチャンスに!」
「いや、別にただやろうと思っていることをやっただけだよ」
「いまは採用コストも下がっていて、腕の良いシェフもベテランウェイターももろもろの人もあつまりましたね!」
「ああ。希望の仕事内容と給与が合えば、やりたい人はたくさんいるからね!」
「専門職の方も給与に満足し、応募殺到。そしてマニュアル化した仕事はさらにルーチン化と委託と、簡素化で、人手も少なく、また労働負荷も少ないのでこちらも希望者が集まってくれました。もうこのレストランは大丈夫です!」
「はは、まだまださ。いや、これからさ!」
「オーナー! これは・・・おいおい、こんな仕事場になっちゃ俺たちは戻らない・・・」
「あ! 〇〇さんたち! 安心してください!!」
「あんしん?!」
「さきほどの退職願いは受理しました!」
「な、なんだと? 退職願? 俺がいつ・・」
「大丈夫なんですよ! 退職願は口頭でもOKなんです!」
「な、、、、、」
「特に用紙の提出は必要ないので、もう仕事は大丈夫ですよ!」