ほんとうのしあわせ ー巨額の富を得た後の話
金で幸せを買うことはできない。
金持ちしかいうことができないことだ。そして自分にはその資格があった。
才覚のあった自分は巨万の富を得た。もはや、金がカネを呼んでくる。
少し前までは仕事として思考や判断をすることが多少なりともあったが、ある一定の財を成した後はもはや才覚も熱意も、そして運さえもいらない。
出目の操れるサイコロで、ゲームをやっても面白くない。
そして、そうなってしまっては何をやっても、どんなに贅を尽くそうが、満足できない。
また家族とも疎遠となり、友人と呼べるようなものもいない。皆、去っていくか、その繋がりを勝手に変容させ、自壊していった。
人間の感情についてなど空虚極まる。
こうなってしまっては、なぜ人が金を欲するのか、わからなくなってしまった。
いや、その途中には、意味があっただろう。しかし、クリアした後ではもはやカネは幸せの役割を果たせないのだ。
ーーそんな無為な日々を送っている中で、ふと出来心が芽生えた。
だれでもよかった。目に止まった男に声をかけた。
「金は欲しいか?」
「ああ。ほしいね」
「金で幸せにはなれないのにか?」
「そんなのは金持ちの戯言さ」
「金持ちになっても同じことがいえるかな?」
そして、男を本当に大金持ちにしてやった。
湯水のような大金を与え、自由を与えた。
その誰でもない男は、富豪になった。すると男はいままで精を出していた仕事をやめ、怠惰に過ごすようになった。
富豪になった男には、いままで見向きもしてなかった人たちがより着くようになり、金を無心するようにもなった。
そして、家族が病気になった時、金の力で治療を施したが、結局、亡くなってしまった。
そして、男が金持ちの人生を体験しただろう頃合いを見て、自分はどこか楽しそうにきく。
「どうだい。金で幸せになれたかい?」
「あんたはあの時の!」
男はこちらに気づくと言ってきた。
「ありがたい! いや本当にありがたい! 金のおかげで働かなくてよくなった! おかげで好きなことに取り組める。知人は去ったが、友人は残った。
困った友人を助けることができた。
そして、病気になった家族も金のおかげでちゃんとした治療を受けさせてやることができたんだ!
ありがとう! お金のおかげさ!」