やりがいだけに溢れた仕事/ぼくができること
「はぁ・・・毎日毎日、同じことの繰り返しだ」
そういって男はベルトコンベアーにモノが流れてくるたびに自分に与えられた作業を行った。
それが日課であり、男の日常だった。
くだらない仕事といえばその通りだ。
だが、この仕事から解放されたとしてもなにをするわけでもない。何をできるわけでもない。
技術が進歩し、最低限度の生活をするのに苦労はしなくなった。
衣食住に困ることはほぼない。
娯楽にしても、いまは無料のコンテンツが大量にあふれている。
が、それでは飽いてしまう。
このなんでもないベルトコンベアーの作業。
単調といえば単調な仕事。
しかし、それでもこの時間が――過多すぎる時間を削ってくれる時間が、男には必要だった。
ビーーー
無味乾燥として終業時刻を知らせる音が鳴り響いた。
帰り際、ベルトコンベアーの終着点を見る。
そこには今日の自分やほかの者たちが行った作業で出来上がったモノがうずたかく積まれていた。
そして、その積み荷は、次の瞬間、巨大なプレス機に押しつぶされた。
プレスされたモノは手際よくロボットが回収する。
そこから先はもう男からは見えないが結果は知っていた。
それらは溶解され、明日にはまた作業用の部品としてベルトコンベアーに流される。
そのモノは無限に製造され、潰され、製造され、潰される。
何の価値もない労働。
しかし、もはややることのない現代では、手を動かし、疲労とともにわずかな充足感を与えてくれる。
失敗も成功もない。
生産性も価値もない。
ただ、やりがいのためだけに男は、明日も作業をする。