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人の血肉の味わい/美食の終着駅
「いやぁ、やはり肉は人に限りますなぁ」
「はは、本当に」
そう冗談めかして紳士たちは舌鼓を打つ。
ゆっくりとナイフを引き、柔らかい肉を切り分け、口に運んでいた。
その肉は、人肉。
そういうと悪趣味の極みで、罪深い話になりそうだが男たちにその雰囲気はない。
男たちの感性が麻痺しているわけではない。
「しかし、こういうふうに人の肉を楽しめるようになるとはテクノロジーに感謝ですな」
彼らが食べているのは、培養肉。
培養肉とは対象となる生物の幹細胞を採取し、培養液に浸し増殖ーー文字通り培養させて作った肉だ。
もともとは牛や豚などの食用肉を環境負荷低く生産する代替手段として研究、普及した。
それを人の肉に応用したものを男たちは食べていた。
培養肉を作るには細胞があればいい。対象を犠牲にする必要はない。
そのため血を流すことなく、人の肉を堪能できるというわけだ。
倫理的に拒否感を示す人はいる。
しかし、人を素材とした培養肉は案外受け入れられた。
美容には人の肉が良い、なんて言い出すインフルエンサーもいる始末だ。
幹細胞培養液の上澄みや人の胎盤エキスを美容として嬉々として受け入れたのだ、いまさら肉くらいとも言えた。
違法ではないが、擬似的な禁忌を犯すような背徳的な味わいを堪能しつつ、人々は肉を味わっていた。
悪趣味には変わりないが。
「しかし、貴方が用意される肉は他で食べるものよりも一層に美味だ」
「そうそう。ここのを食べてしまうと、他で食べる気が失せてしまう」
「同じ培養肉なのに何故」
「培養肉といっても元とする幹細胞によって味は異なりますからな。しかし、ここのはそういったものとは違った旨さがある気がする」
「なぁご主人、旨さの秘訣はなんなんだい?」
そう言われて、食事を振る舞っていた男は答える。
「この肉は、ジビエですから」