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組織を壊すのに戦略は要らない/無能な人が組織を壊す

「いや、君には期待しているよ」
「は…はい!」

 俺にもようやくチャンスが回ってきた。
 三流大学出、三流会社に就職してうだつの上がらない生活をしてきた。
 が、神は俺を見捨てなかった。
 
 いや、有能な俺は場所させあれば活躍できたんだ。
 学生のころから人とは違っていた。
 
 人が気にしないことに気づき、穿った見方ができた。
 それゆえに人と意見が合わなかったり、疎んじがられたりした。
 成績は悪かったが頭がいいというやつだろうか?
 
 が、社会に出たらそんなものは関係ないと思っていた。
 しかし同期が活躍する中、俺は出遅れた。

 無能な上司や組織、同僚のせいだ。
 まったく効率化されていない仕事。雑用しかさせてもらえない日々。
 俺がやればうまくいく仕事を他の人がやるのを見ているしかなかった。

 そして稀の繁忙期、できないことをやらされる。まったく教えられていないことをやれといわれてうまくやれるはずがない。
 それなのにあいつらは俺が無能だと陰口をたたく。
 
 転職を考えて、転職活動をしているとオファーが届いた。
 転職エージェントが無能で三流どころしか紹介されていない中で、なんと一流企業からお呼びがかかったのだ。

 そして、人事部長という人と面談し、とんとん拍子で内定をもらった。

「君の実力をぜひわが社で発揮してくれ」

 やはり見る人が見ると違うらしい。
 実績のなさを覆すほどに、俺の今後に期待をしてくれているのだ。
 
 まぁ任せてくださいよ。
 やっぱり一流の人間が輝くには一流の場所が必要なんだから。

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 意気揚々と張り切る中途入社の社員を眺め、採用した部長はほくそ笑む。

(せいぜい頑張って仕事をしてくれよ)

 他責思考に低能、自己評価の高さ……無能の極みだ。
 
 私は企業スパイだ。
 企業スパイといっても企業秘密を盗むような輩ではない。
 スパイにはいくつか種類があり、私が担うのはライバル企業の妨害だ。

 企業を妨害するために有効な手段。
 それは「無能な人間」だ。

 低能や非生産的な人間ではない。無能。
 積極的な無能ほど、いい。

 非生産的な人間は重荷となり、普段だが、毒ではない。
 しかし、無能な毒だ。そして積極的な無能はガンのように企業全体をむしばむ。

 一定の組織では、一定以上の能力があることを前提に組織が成り立っている。
 うまくかみ合っている歯車の機械の中に異物が混入すれば、機能に支障をきたす。

 無能がもたらす直接的なダメージはそこまでではない。
 業績に大きな影響を与えるような失敗。そんな大役を任せられるようなことは大体においてない。

 しかし、間接的には多大な影響を与える。
 無能な人がもたらすのは人員一名分のマイナスではない。
 そのフォローに周囲やチームが多大なコストを払う。

 そして、そのためにルールが改変され、不信が募り、全体の雰囲気が悪くなる。

 例えばそういった無能な人は、平然と嘘をつく。
 するとその嘘に基づき、誤った行動を周囲がとってしまう。
 バレてもいい。
 ばれたら優秀なチームほど、その改善に多大な労力を費やす。
 そして普通の人ならば気を付けないでもいいことにチェックなどの時間をかけることになる。
 生産性が下がる。

 そして、そんな人がいると常に疑心暗鬼になり、負のサイクルに陥る。
 嫌気がさして人が辞めていく。優秀な人ほど辞めていく。

 そして、人が辞めれば負担が増えて、さらに雰囲気が悪くなり、人が病んでやめる。

 そんな人間を排除すればいいが、まっとうな企業ほど簡単には止めさせられない。

 全くの異物ではないからこそガンを取り除くのが難しいように。

「せいぜい、無能を発揮してくれよ」

 私の仕事の成果のために。


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