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無色透明なコーヒーと黒いマーケティング/ 人は情報を食べ、トレンドを呑んでいる

「なんだこの真っ黒な液体は!!」
「こちらはコーヒーでございます」

「これがコーヒーだと? 馬鹿にしているのか!」
「いえ、お客様。馬鹿になどしておりません」

「コーヒーといえば、無色透明と決まっているだろう!? こんな真っ黒な液体をコーヒーなどとよく言えたものだ」
「いえ、お客様……--」
「まったく、なんて店だ!」


「やれやれ、またか」
「なんだ、またジャパニーズか?」
「ああ、その通りさ。コーヒーを頼むといつもこれだ」
「まったくさ。こっちはちゃんとコーヒーを出しているのに、あいつらはいつも意味の分からないことをいうんだ」

「ああ、ジャパニーズのコーヒーは透明だからね」
「なんだって? そうなのか?」
 口をこぼす新人に慣れた様子の店員はそう教えた

「しかし、コーヒーは黒いもんだろう? 俺たちのコーヒーと違うのか?」
「コーヒーは本来黒いさ。けど、ジャパニーズのコーヒーは無色透明なんだよ」
「なんだいそりゃ? 味は?」
「味は一緒さ」
「ますます意味がわからないよ」

「だろうね。よくわからないけど、ジャパンでも昔は普通に黒いコーヒーを飲んでたらしいんだ。俺達と同じね」
「そうなのか」
「しかし、ある時、透明なコーヒーを作ったら大ヒットしたんだって」
「透明なコーヒー?」
「ああ。最新のろ過技術を使って、コーヒーの色味だけを取り除いで無色透明にしたんだ」

「へぇ、味は本当に一緒なのか?」
「ぼくも飲んだことがあるけど一緒だったよ。本当に色が無色透明になっただけって感じだな」
「なんだかよくわからないな」

「で、そのヒットのせいで、他の会社もぞくぞくとコーヒーを無色にしていったのさ。
 そして、いつの間にかジャパニーズの中ではコーヒーは無色じゃないと売れないものになっていって、黒いコーヒーが売られなくなり、挙句の果てには、コーヒーは無色なものって認識になったみたいさ」

「はぁ・・・でも味は変わらないんだろう?」
「ああ」
「余計に意味が解らないな。味も変わらないのにわざわざそんなことをしているってのか」

「やれやれ、じゃあ、ジャパニーズに文句言われないようには、無色透明のコーヒーをいれないといけないのか?」
「めんどうだがそうだな」

「面倒だな。だったら、メニュー表をコーヒー欄にこう書きくわえたらいいよ―ー」
そういって、新人はメニュー表のコーヒー欄に「トレンドの最先端」と書き加えた。

「ちょうどこんな記事が上がっていたからさ」

新人が見せてきた端末に写った日本のネット記事にはこう書いてあった。

【今度来るのはコレ! ジャパン発!ブラックカラーコーヒー】



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