アリとキリギリス キリギリスとして生きる覚悟と生きた最期
「おい、アリくん。そんなに汗水垂らしてなにをしているんだい?」
「やぁキリギリスくん。食べ物を運んでいるんだよ」
「なぜ、そんなに一生懸命に運んでいるんだい? 食べる分だけ取ればいいじゃないか?」
「君はバカか!? いまはそうかもしれないけれども食べ物がなくなるかもしれないだろう。だからその時のために溜め込むのさ」
「なるほど。君の理由はわかったよ。しかし、そんなことばかりしていてもたのしくないだろう? 今日くらいは休んだらどうだい?」
「やれやれ。君はわかってないな。そうやって怠けるとだめなんだよ。1日も欠かさずにやりつづけないといけないんだ」
「なぜそうまで働くのさ」
「エサがなくなる時、どのくらいあればいいかなんてわからないからね」
「じゃあ、どのくらい貯めるのさ?」
「それは貯められるだけさ」
「やれやれ・・・君はそんなに働くのが好きなんだね」
「好きじゃないさ。でもやらなければいけないのさ」
「真面目だねぇ」
「そうかな。ボクはコレが大切だと思ってるだけだ」
「はは。じゃあ、ぼくは僕らしく楽器を奏でて過ごすのが好きなのさ」
「そんなんじゃ何かあったときに大変だぞ」
「その時はその時さ」
「君は不真面目だな」
「これがぼくさ」
「「やれやれ」」
アリとキリギリスはそういって別れた。
キリギリスはそれからも毎日、そこにいてその日暮らしをしていた。
片手にバイオリンを持ち、優雅な音色を虫たちに聞かせていた。
そして。
震える手で、なんとか一曲を弾き終えたキリギリスは、これが最後の演奏となることを自覚していた。
冬が来る。が、それは関係がない。
食料はない。それも関係がない。
元より短命の自分が冬を越えられるわけがない。
そういう虫なのだ。自分は。
「いい人生だったか?」
「ああ」
見下ろすアリにキリギリスは答えて、絶えた。