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ありのままがあるところ

⬛『ありのままがあるところ』
  福森 伸(しょうぶ学園施設長)



○読もうと思った理由

・同じ福祉の施設であり“ありのまま”がどのような形で存在しているのか興味があった
・“ありのまま”がある環境がどのようにして作られてきたのかを知り、参考にしたい

○しょうぶ学園

「しょうぶ学園。そこは心が自分でいられる場所。生きるということが誰にとっても意味があり、素晴らしいと気づかされる場所。そこに居る人も、訪ねる人もみんなそう思える場所。」

デザイナーの皆川明氏はこのように施設を紹介している。しょうぶ学園は鹿児島にある知的障がいや精神障がいのある方が集まり、暮らしている複合型の福祉施設だ。

ここで生活している誰もが自分のありのままの姿で過ごしている。アート作品、クラフト、音楽活動などが国内外で高く評価されている。

その理由は「本来の生きる姿」を考え、“ありのまま”とはどういうことかを追求した、著者はじめとする熱い想いを持った職員の姿があるからだ。

当書では、1973年にしょうぶ学園が誕生してからの著者の葛藤や利用者のエピソートが記されている。
中でも私自身が強く印象に残った内容についてレポートしていきたいと思う。

⬛私自身の葛藤

 私は今年度で保育士として4年目を迎える。専門学校で保育の理論や倫理を学び保育園に勤めるようになった。
実際の現場と理論のギャップに苦しみながら保育を続ける中で、“子どもにとっての最善の利益”を求め様々な研修に参加したり、図書から知識を得たりして過ごしている。

良くも悪くも「現場にでたら現場のやり方に慣れていく」と社会にでる前に色々な立場の方から話を聞いていた。

しかし、4年目となる今でも自分の心の中には現代の保育の在り方に違和感や疑問を覚える場面が多々あることに気づいた。マイノリティーである分、違う考えをもつ職員とは上手く連携がとれないことも少なくない。

どのようにしてこの違和感を伝えたら良いのだろうか、このような理論があってこの対応をしたのだという大元の部分を理解してもらおうとし、どうにも変わらない現状に行き詰まりを感じていた。

当書を読み進めていくうちに、著者も同じような局面にたたされることを幾度も経験し、それを幾度も乗り越えてきていることが分かった。


⬛著者の葛藤


「…障がい者へは個性を尊重し、信頼関係を築きながらその人への愛情を注ぐことを美学として広言しているのに、職員に対しては個性を認めようとしていない自分がいた。」


と、私自身もこのような感情に近いものをもっているのではないだろうかと考えさせられた。

ここでは対象が障がい者であるが、私に置き換えると子どもだ。子どもの最善の利益、子どもにとってのみを考えすぎ、働く者としての振る舞いが欠如していたかもしれない。

著者は“自分の考えが間違っているのか、いや、そんなずはない”と葛藤の日々を送った。様々な利用者や職員たちとか関わりながら、だんだんと自分の性質に気づいていく。

「私は周りや他者に気をめぐらし、邪念の中で何かを考えていく人間だと気づかされた。…こちらに相手を寄せたり、自分があちらに行こうとしてみたりしたけど、結局はその人はその人でしかないのだから。」

と、相手に寄せず引かず自分を保つという選択肢を選んだ。

私自身も、どちらかのやり方や考えにせねばならないと勝手に思いこむ節があったが、そうではないのだと気づくことが出来た。その具体的なイメージを以下のように表現している。

「丸くならずに四角くなる」

一見、尖って聞こえ、それでは上手くいかないのではないかと考えるだろう。“四角くなる”とはお互い違う考え方を持ったまま、横並びでいるということだ。

「自分とは違う考えだが、あなたはそう考えるんだね」とお互いの違いを認める。表面上、その場かぎりで無理やり共通点を見つけてなんとか丸く収めようとすることに意義はないと感じる。

もちろん、共有感をもって仕事をすることは大切だが、100%なくてはならないものでもないように思う。元々人それぞれ違う個体であるように、それを認めることで様々な価値観に出会える。すべてのことをどちらかのやり方にしたり、マニュアル化することは出来ない。

いかに職員が動きやすいようにマニュアル化していくのかではなく、この課題に関しては職員のもつパーソナリティから生まれる「優しさ」で共に考えていけると良いのではないだろうか。

繰り返すようだが、人はそれぞれ別々の個体であり違いがあって当然だ。人が人を変えることはできず、自分の考えを押し付ければ相手からの理解は得られない。そうするとお互いにとって苦しくなる。

では、どうすれば良いのか。
私は以下のような考え方を参考にしたい。

⬛考え方の幅を拡張する

すべてを飲み込むことは出来ないが、例えるならせめて両手を180°広げたぐらいの範囲を「それもアリか。」と受け止めていくことを心がけてみる。共感は出来なくとも理解はできるようになるはずだ。自分の考えの幅を広げるだけでまた相手も、理解しようという姿勢になりやすいのではないだろうか。

⬛終わりに…


 現在では、国内外で高く評価されている施設となっているしょうぶ学園も施設長の様々な葛藤や、利用者と過ごすなかでの学びや、紆余曲折を越えてきたことが分かった。

自分は福祉の人間としてまだ第一歩を踏み出したばかりではあるが、先をいく先輩方も同じように苦悩していたこと、同時に幾度も困難を乗り越えてきた事実に勇気を貰えた。

遠くを見据えながらも、今目の前にある課題に一所懸命に取り組んでいきたいと思う。

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