映画「PLAN75」はむしろ若い人の映画
見てきました。カンヌでも評判の倍賞千恵子主演の「PLAN75」。年齢的にも、私の仕事柄も見逃せないかな、と。
75歳以上が自分の生死を選択できる法律が成立した近未来の日本。
突然仕事を失った主人公のミチは、独り暮らし。子どももいない。住む場所も失いそうになり、この制度を利用しようかと思い立つ。というお話。
シワも何もかも晒す渾身の演技の倍賞千恵子。セリフは少なく、仕草や姿で語る名演技にじっと見入ってしまいます。本当にシワがあるのか増やしたのか?筋張った手なんかは本物だろうか。本当はしゃきしゃきしてるのに年寄りめいた歩き方をして、本当は上手な歌を下手に歌うのはどれ程難しいか。改めてすごい女優さんです。
映画のテーマは高齢者、ではなく、命とは、生きるとは何なのかというところ。正解のない問いに、見ている人、一人一人が向き合うところに迫ります。
とはいえ、扱っているのは実際には高齢者なのです。それにしては、老いるということには関してはリアリティーがないかな。そして、高齢者の生活の実態を少しは見てきた私には、いやいや、まだまだ甘い。もっと生々しく、どろどろしてると思って物足りなくも感じるのです。テーマを絞るために簡素化して省いたのでしょうか。でも、日頃老いるということに直面している当事者としては見逃せないポイントです。
老いるということは、喪失の体験です。主人公のミチは、ホテルの清掃の仕事をしていますが、パキパキ動けるいわゆるアクティブシニア。75歳以上で仕事できているのは、めちゃくちゃ元気です。
そして、団地の暮らしはつましいけれど、夫を亡くし、子どももいないけれど、友達はいるし、深刻な病気もなく、認知症の兆しもなく、静かに安定して暮らしている。居場所を失くしそうになっただけ?だけ、というのは失礼かしら?
また、PLAN75に対して必ずしも共感しているわけではないとしても、聞き分けが良すぎやしませんか?もっと、ジタバタしないの?
高齢者って、病や痛み、後悔や悲しみや怒りにさいなまれてはいるけど、逆に若い人と同じように達成感や、ギャル並の喜びや瑞々しい感性もあるのではないでしょうか。あまりに、枯れてないかな?高齢者って、意外に枯れてないように思っている私です。
出色すべきというか、若者向きの映画と思う所以は、磯村勇斗さんと河合優実さんの演じる若い人達です。淡々とPLAN75の業務に関わりながらも心を次第に動かしていく人達。抽象的な、机の上では一つの数字でしかないけれど、出会うことで生きている生の人間、人としての命を扱っていると、知り始めるのです。
しかし、映画としては高齢者を扱い、生きることにここまで肉薄したのは画期的でしょう。監督の早川千恵さんは若干45歳。今、これだけ描けるのなら、これからに期待したいと思います。
そして、とにかく、倍賞千恵子さんに大きな拍手を差し上げたいです。ブラボー!エクセレント!素晴らしい!
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