今更のラ・ラ・ランドそして私のディスタンス
夏休みを取って恋人とその親とハワイへ行った。
帰りは私1人だけ先に帰国することになった(病院に監査が入ることになったので全員出勤命令が出たのだ。恨むぜ厚労省)
機内で私は暇を持て余し、普段見ないミュージカル映画を観た。
ラ・ラ・ランド。
だいぶ前に流行った映画である。
そもそもミュージカル映画…というか、ミュージカル自体あまり好きではない。
話の途中で踊り出すから内容がイマイチ入ってきにくいし、演技が『演技』っぽい感じがしてどうもノれない。
そんなちょっと斜に構えたサブカルかぶれの私(あまり解せないことだが、周囲にはサブカル好きとよく言われる。自分の好きなカルチャーがメインカルチャーじゃないの?)が、なんの気無しに観たこの映画に身体の水分を持っていかれるほど泣かされるとは思っても見なかった。
新鮮な感情を残すべく、メモに書き留めた。あとでノートにあげようと思う。機内はWi-Fiが使えないので。
以下は映画のネタバレを含むので、まだこの映画を観ていない流行遅れの人は、ぜひこの画面を早急に閉じてNetflixを開くかJALの飛行機に乗ってラ・ラ・ランドを観てください。
簡単に言えば、ジャズを広め自分の店を持つことが夢の男と、女優を夢見る女の失恋話。
冒頭はハイウェイの渋滞から始まる。
クラクションが鳴り響くなか、突然ドアを開け踊り出す人たち。
ボンネットの上に乗る人、勝手に前のトラックの荷台を開ける人、みんなやりたい放題だ。
早速私のミュージカルアレルギーが発症しそうになった。
同じ病の人に言いたいが、ここは我慢して観てほしい。
そして出会う2人。
まあ、ありがちな「最初は意識もせずむしろ好きではなかったのに次第に惹かれ合う」展開。
結ばれてからがすごかった。
付き合ったばかりの、一緒にいるだけで楽しくて愛が溢れた日々が進む。
愛し合う2人は何でもできるようなパワーに満ちている。
ダンスや歌がよりその高揚感を私に伝えてくる。
久しぶりに胸の高鳴りを思い出した。
しかし夢だけでは生きていけない、現実がこちらを見つめてくる。
お金、生活、人生。
お互い想い合うがゆえのすれ違い。
そして別れ。
どうしてこんなにリアルなんだろうか。
「君は優越感のために不遇の俺を愛した」
男が言う言葉が、彼女ではなく私に向けられた言葉のように刺さって抜けない。
似たようなことを言われたことがあるのだ。
今の恋人に。
私は医療従事者で、世間一般で言われているところの「稼いで」いて「手に職」がある女である。
今の私の恋人はピアニストである。
有名ではないが食い扶持をつないで暮らしている。
彼は映画の男と同じように、夢を追いたいという情熱も、私との未来のために稼ごうとする愛もある。
しかしどうにも上手くいかず、最近は喧嘩ばかりの日々が続いていた。
ハワイでも喧嘩をした(彼の親の前でも喧嘩をしてしまったことは反省)
なかなか成功の糸口が見えず、くすぶっている。
私は映画の彼女より高飛車で傲慢なので、言われた言葉の3倍くらいは言い返したが、別れる未来しかないのかと悩んでいた。
そして物語は終盤へ。
彼女の夢が叶うチャンスが舞い込み、それをあと押しする彼。
彼女にオーディションを受けさせ、結果を待つ。
彼女が「私たちのこれからはどうする?」と彼に聞くと彼は「わからない。けど夢に集中した方がいい。なるようになる」というようなことを言い、そこから5年の月日が流れる。
女優として成功した彼女は、別の男と結婚していた。
ある夜、渋滞のハイウェイを降り、ふらりと立ち寄ったバーで彼に再会する。
そこは彼の店であり、彼もまた彼の夢を叶えていたのだった。
ジャズライブの合間のMCとして壇上に上がった彼は、観衆の中から彼女の姿を見つけ出す。
そして彼はおもむろに、出会った時に弾いていたジャズ、彼女が好きになったと言っていたあの曲を弾く。
周りの世界が遠ざかり、2人が出会った時へと遡る。
そこからは、2人のもう一つあるいはまた別の、想像しうるだけの未来が
音楽とダンスだけで表現されていった。
言葉はいらなかった。
2人は世界を共有していた。
こんなに切ないミュージカルがあるだろうか。
演奏が終わり、彼女は店を後にする。
去り際に振り返り見つめ合う2人。
彼は小さく頷き、映画は幕を閉じた。
機内で1人ばーばー泣いているのを周囲に悟られないようにするのが大変だった。
私はどうしたいのだろう。
彼との未来をどう描きたいのだろうか。
私には、映画の中の2人のように、今ある愛を置き去りにできるほどの夢がない。
いつか私にもそんな夢ができることがあるだろうか。
その時に私はどんなふうに生きているだろうか。
それとも今の彼を愛しているこの気持ちが冷めてしまう日がくるのだろうか。
愛によって結ばれる日がくるのだろうか。
でも、どんな選択をしても、人生が間違っているということはない。
そんな気持ちにさせてくれた。
悩みは尽きないけれど、この映画のおかげで三十路女の心は少し軽くなった。
そんな気がする。
「どうか乾杯を厄介な私たちに
そして乾杯を夢見る愚か者に」
日本まではあと3時間もある。
とりあえず、おかわりの酒をもらって少し寝よう。
道のりはまだまだ長い。