韓国映画『子猫をお願い』5人の女子高生たちのそれぞれの人生
5人の女子高生がキャピキャピと陽気で楽しさ全開ではしゃいでいる冒頭の数分間。短いシーンながら幸福感に満ちている青春の輝きが素晴らしい。この冒頭の場面の輝きがあるからこそ、その後の彼女たちの人生の閉塞感が効果的に浮き上がってくる。5人の女の子たちが商業高校を卒業して、次第にそれぞれの人生を歩みだし、バラバラになっていく様が描かれる。
最初の高校生の時、みんなの写真を撮るカメラマンだったテヒ演じるペ・ドゥナは、メンバーのつなぎ役であり、連絡係。父親が経営するサウナ店で働いている。ペ・ドゥナが若くて初々しい。雑用係に過ぎないのだがソウルの証券会社に就職したヘジュ( イ・ヨウォン)は、上昇志向が強く、服装や見栄えを良くすることに夢中。一方、ジヨン(オク・チヨン )は、デザインへの才能と興味を持ちながらも就職できず、崩れそうなバラック小屋で祖父母と暮らしている。貧困家庭で、友達からお金を借りるしかないコンプレックスを抱えて寡黙。高校生時代は大の仲良しだったヘジュとジヨンの二人の間に亀裂が生じてくる。その二人の間をテヒが行ったり来たりしながら、それぞれの気持ちに寄り添っていく。双子のジヨン(オク・チヨン)とピリュ(イ・ウンシル)は、両親と祖父母の間に問題を抱えながらも、アクセサリーを路上販売しながらマイペースで二人で暮らしている。
仁川(インチョン)というソウル近郊の地方都市と都会のソウルとの格差、あるいは経済的な格差、家庭環境の違いなど、高校時代は何も考えなくて同じだった彼女たちが、社会に出ることによって、現実の環境の違いの格差に晒されていく。
ソウルでみんなで買い物を楽しんでいた場面で、テヒはナイフを購入する。ジヨンは仕事を紹介してくれたおばさんと、たまたま手にしていた包丁を持ちながら会話をする。やや作為的な演出ではあるが。テヒは最後に家族写真から自分の顔だけナイフで切り抜き、金を持って家出する。ナイフや包丁は、自分の環境から抜け出す道具として描かれる。証券会社でバリバリに働いていたはずのヘジュもまた、新入社員に追い抜かれ、ただの変わらぬ雑用係である現実を突きつけられる。そんな閉塞感いっぱいの女の子たちのなかで、テヨは家族の呪縛を振り切って冒険に旅立つ。バラックの家も老祖父母もすべてを失ったジヨンを誘って。つなぎ役に徹して外の世界を夢見ていただけのテヒが、海外に新たな可能性を求めて冒険に旅立つ場面で終わるのだ。
この映画では、他者としての男は登場しない。美人のヘジュにいいように使われる便利男が出てくるだけだ。恋愛が主なテーマになっていないところが、この映画の魅力だろう。女性は恋愛(男)ばかりを求めているわけではない。ジヨンが拾った子猫は、彼女たち自身の不安な未来だ。それぞれに悩みや葛藤、希望や不安があり、その等身大の女の子たちの姿を描いたところが、多くの人を惹きつけたのだろう。4Kリマスター版で20年の時を経て再公開。
2001年製作/112分/韓国
原題:Take Care of My Cat
配給:JAIHO
日本初公開:2004年6月26日
監督・脚本:チョン・ジェウン
撮影:チェ・ヨンファン
キャスト: ペ・ドゥナ/テヒ、イ・ヨウォン/ヘジュ、オク・チヨン/ジヨン、イ・ウンシル/ピリュ,イ・ウンジュ/ ジオン
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