2024年4月自選
#tanka
間違えている正しさを教え合う 融雪槽のある町のなか
曖昧な塗り絵なんだよぼくたちをまっしろだって決めつけないで
また会えるよって言われてまた会おうって返事した日の夢を見た
たぶん春も酔っているから思い出せないよ 好きって言ってもいいよ
雑踏で泣きそうでした 夜は光合成ができないから困る
エンゼルはいませんでした にせものでいいから今夜くらいはいてよ
4月はあまり詠めませんでした(橘にはストックがほぼない)。自選に手こずった。悪い意味で。
春でしたね。私は「橘春」を名乗っていますが、春があまり好きではありません。
なぜかというと、別れと出会いの季節だからです。
T.S.エリオットも「4月は最も残酷な月である」と言っているし、粘膜がやたら敏感に花粉に反応していて困るし、みんなどこかへ行ってしまうし、なんなんだ
なんなんだ!!! うーんなんなんでしょうね ほんとにね〜……
なんなんだついでで言えば、春を「出会いと別れの季節」と表すのも不思議です。
別れ(3月)と出会い(4月)の季節じゃないの?
ちなみに今年の私には大きな別れも出会いもありませんでした。
留年生含む後輩の卒業は大きな別れではあったんだけど、わかっていたことだったからか、衝撃はほとんどなかった。工場の流れ作業みたいな感覚で悲しくなった。出会いは、同じ授業を履修している他学科の人たちだけ。みんなやさしくて温かいから、学部の頃の少人数授業を思い出して懐かしくなります。
??「橘さんっていつもそう! 過去の感情にばかり縋って、未来について考えたことあるんですか!?」
未来について考えられない。タイムマシンがほしい。やり直したい過去があるというよりも、もう一度あの日々を過ごしたい。
先日、しなきゃいけないことはあるけど何もしたくないときに、新品のノートの1ページ目に「やりたいこと」を羅列した。
朝から持ち込み可のカラオケへ行って飲酒しながら歌いたい、とか、アフターヌーンティーを食べたい、とか、ミニシアターへ行きたい、とか、あとなんだったっけな、まあそんな感じのものを70個くらい書いた。
どでかい未来についてはわからないし考えたくもない(考えろよ)ので、いったんはこういうささいなきらめきを作っていこうと思った。
梅雨!!! うおー!!!!(???)
・最近聴いている曲
なし
・最近観た映画
ウェス・アンダーソンの短編4部作の「毒」が面白かった。原作(ロアルド・ダール)も読んでみようかな。「グランド・ブダペスト・ホテル」を、ずっと観よう観ようと思ってまだ観ていなかったんだけど、これから観るのが楽しみになった。色合いが好み。
・最近読んだ本
カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」と「遠い山なみの光」めっちゃ良かった。女主人公を描くのがうますぎる。というか、この人の描く人間が人間すぎて良い。キャラクターと一緒にどきどきしたり寂しくなったりしたい人は「わたしを離さないで」が、ノスタルジーな読後感に浸りたい人は「遠い山なみの光」がおすすめです。
安部公房の「砂の女」もめちゃくちゃ面白かった。大学二年か三年のときに受けたレトリックを学ぶ授業で、安部公房の「不眠症の臭い」という表現が紹介されてから安部公房の比喩のファンで、遅くなったけど読みはじめました。(読書に今更なんてないよ!)「不眠症の臭い」は出てこなかったけど、ありとあらゆる表現が良すぎる。大学の図書館には「安部公房レトリック事典」というものが置いていて、それもときどき読んでいます。
5月はたくさん短歌を詠んでいる(当社比)ので、自選も良い意味で迷うことができると思います。