#88 論理と直感
人生には勝敗はつきものです。
スポーツ、テスト、パートナーの選別と多岐にわたります。人として生まれてきて一生を終えるまでに勝敗に無縁として生きていくことは非常に難しい。
それは、社会は人で構成され、人がそれぞれ十人十色の思想を持ち、何かを叶えようとする動機によって突き動かれ生きているためです。
孫子もいうように(「三十六計逃げるに如かず」)、必要なら無理せず逃げることも時に大事で、勝敗には『勝負する時』と『勝負しない時』があることがわかります。
「三十六計逃げるに如かず」 形成が不利になったときは、あれこれと策を練るよりも逃げるべきときに逃げて身を守る方法もあるということ。臆病やひきょうなために逃げるのではなく、身の安全をはかって、後日の再挙をはかれ、ということを教えたもの。転じて、めんどうなことがおこったときは、逃げるのが得策であるの意。逃げるが勝ち。三十六策走るを上計となす。三十六計。
そして、勝負の勝敗をわける要素は状況により変化しますが、大まかにいえば『論理のちから』と『直感のちから』があるように思えます。
前者は、ゲームでいえばテクニックに分類され、この技を使った後にこの技を使えば相乗効果があり、得点やダメージが増えるなど、状況における最適解を過去の経験や知識から補完し、論理的に効果的な次の手を打つことです。
後者は、あなた自身が無意識に過去の膨大な経験で蓄積させたデータによって、無意識に結論(答え)が導き出され、論理的に説明できない(非論理的)効果的な手を打つことです。
元日本代表監督岡田氏のお言葉を借りれば、
『データなしでは勝てない、データだけでも勝てない』ようです。
前者は論理(ロジック)にあたり、後者はデータ以外の要素(直感)です。
サッカーは100メートル×70メートルのピッチの上で点を取り合う競技です。ピッチ上には11人の選手おり、2チーム合わせて22人が競技に参加します。両チーム1人づつ手を使うことがゆるされるGKがおりゴールを守ります。
おそらくサッカーに興味のない人もこれくらいはわかると思います。
ピッチ上の10人の個性を生かし、組み合わせ相乗効果を生み出し得点に迫るのですが、昨今では選手がどのようにプレイしたかという記録が残りそれを解析することで敵チームのウィークポイントを見つけ出し勝率を上げます。
また、論理的に考えどのようにディフェンスするか行動を調整することで失点の確率は下げることができます。
ならば、試合前に試合の流れやチャンスとピンチの数や、試合結果は高い確率で当てられる気がしますが、そのようにはいきません。
多くの場合、予想通りにいっているにもかかわらず、結果は異なることがしばしばです。そのため、TOTOのようにギャンブルの対象にもなるわけです。
つまり、一定水準まではデータ重視で勝てる。しかし、確率論では勝ちきれないレベルが必ずやってくる。そうして、ほんとうの勝負ははじまる。
地域のコミニティでの大会や、仲間同士の勝負などカジュアルな勝負事はロジックだけで通用しそうですが、しのぎを削って勝敗を競う場においてロジックは必要不可欠ではあるがそれだけでは足りないということでしょう。
将棋のレジェンドでもある羽生善治氏も同じ考えだそうです。
プロ棋士の世界でも、一手目を何を指せばもっとも勝率が上がるのか下がるのか、そうした確率だけを追求していけば、そこそこのレベルまでいく可能性があるそうです。
しかし、ひとつの局面で平均80通りの指せる手があり、そのなかで次の手の候補を3つくらいに絞っても、10手先の局面は3の10乗になり、6万通りになってしまう。
しかも相手のあることなので、論理通りにいかないことがわかります。
お相手の予想を裏切る手、互いの有利性を消す『意表の手』をくり出しあう。すると盤面は幾重にも複雑化していき、正確に先を読むことなど不可能に近くなる。
すると論理的思考は思っている以上にやばやばと限界が来てしまい、理詰めでは勝てないときが必ずきてしまう。
つまり、ほんとうの勝負が始まるのはロジックの限界点からなのです。
堂々巡りのようですが、データやロジックが勝利の必要条件であっても十分条件ではない。
では、ロジックに何を付加すれば勝利を有利にたぐり寄せられるのか、その要素が感覚の世界に属するものならば、どうすれば数値化できない非論理的なちからを味方にできるかが重要になってきます。
元日本代表監督岡田氏のひらめき
岡田氏は2010年のW杯で、大会直前になってシステムの変更や選手の入れ替えを行いました(一般的には、大会直前はチーム全体のプレイ強度を上げるためにシステムや選手の入れ替えは行われない)。
大会前の強化試合で、イングランドやコートジボワールとの強豪国との試合で、いくつかの組み合わせなどを試したそうです。当時、日本代表の中盤には、遠藤、長谷部、阿部を中心に構成されていました。
三選手とも優れた選手ではあったのですが、彼らの誰かを中盤の前列・後列に入れ替えてもチームのシナジー効果は薄く監督は頭を悩ませていました。
そこで、監督は彼ら3人を横一列に並べ試合で試してみました。結果は前よりも良いシナジー効果がでたのですが、何か一つ足りない気がし問題解決までには至らず夜を迎えることになったそうです。
その日の夜、試合のビデオを何度も見直していました。
すると監督の脳裏にふと一つのアイデアが生まれました。
「あれ、彼ら3人に左右のFWを下げて、中盤5人を横一列に並べてみたらどうかなぁ」
サッカーのピッチは横幅が70メートルあるのですが、当時のサッカーの常識ではこれを3人または4人で構成する4レーンと呼ばれる考え方が一般的でした。
これを監督は5人で構成する5レーンを思いつきました。
夜中にコーチを叩き起こし、何度もホワイトボードの磁石でシュミレーションを行い、コーチと『これしかない』と確信に変わったそうです。
翌日の紅白戦で実践したら、案の定、ビシッとはまった。
その後、すぐに対外試合を組んでもらい、ジンバブエ戦が行われて、結果は0-0のドローで、当時マスコミの評価は低かったのですが、監督は大いに手ごたえを感じW杯に臨むことになりました。
そして2010年のW杯はベスト16と大いに優秀な結果を残すことになった。
つづく
参考文献:「勝負哲学 岡田武史 羽生善治」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
こおろぎさん画像を使用させていただきました。
毎週金曜日に1話ずつ記事を書き続けていきますのでよろしくお願いします。
no.88 2021.10.15
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