【読書メモ】「アウシュヴィッツのタトゥー係」(ヘザー・モリスさん)
「アウシュビッツのタトゥー係」を読んでみた。
事実をもとに書かれたフィクション小説であるが、概ね事実そのままなのではないかな、という印象。ここまで理由もなく自由が奪われ、生命が脅かされ、そして奪われるという事実が、フィクションではなく史実であることに改めて深く考えさせられた。
第二次世界大戦下で、アウシュビッツに収容された主人公が、いち労働者としての肉体労働ではなく、新たに収容されてくる人々のタトゥーを入れる係としての役割を得る。
大部屋で寝泊りするその他大勢の収容者と異なり、このタトゥー係に任命されると個室が与えられ、食事も待遇が異なる。
主人公が7ヶ国語を話し、機転を利かせた対応が出来たことが、このある種の「特権階級」に就くことができた一因であるのは間違いなさそうだ。
このタトゥー係の任務を果たしながら、ある女性と恋に落ちる。同じく収容されている彼女を少しでも守るべく立ち回ることが出来たのもの、彼がこの特殊なポジションにいたためだ。
自分を守るためにも、自分の大切な人を守るためにも、主人公は希望を捨てずに日々、あらゆる困難に向き合い続ける。
毒ガス室に入ってタトゥーの数字を確認する描写、とある件が明るみになってしまい拷問を受けてしまう描写は、思わず目を背けたくなる情景が浮かんだ。
以前、アウシュビッツ収容所ではないが、ダッハウ収容所へ見学に行った経験がある。12月の年の瀬のことだった。自分の持っている中で1番暖かいコートを着用し、手袋をし、マフラーをし、カイロをポケットに入れていた。それでも、寒くて寒くて、震えながら見学をしたのを覚えている。文字通り、「負の遺産」であるという印象とともに、説明し難い「寒さ」を感じ続けた見学であった。
史実として断片的に見聞きしたつもりではいたが、実際に見学をしてみて、心が凍る思いをしたことを、この書籍を読んで再度思い出した。
この小説の中にも描写として出てくるが、お金や宝石などの財産は、没収されてしまったりと、簡単に自分の手から離れてしまう。でも、語学や知識といった「身につけた教養」は、誰にも奪うことが出来ない自分だけの財産だ。
改めて、教養をしっかり身につけようと思った。
今、自分が享受している自由が、どんな歴史の上に成り立っているのかの勉強もしないと。