完成形は600万画素
以前記事の中で取り上げたシャープVN-EZ1は、世界最初の実用的なデジタルカメラと言ってよいカシオQV-10のフォロアーと言うべき機種でした。
それでは、デジタルカメラというジャンルの最初の一台と言QV-10のその後。カシオQVシリーズはどのように発展していき、最終的にどうなったのでしょうか。
埋没していく先行者
初代QV-10の開発コンセプトは「カメラのついたTV」だったと言います。それまでプリントされた「印刷物」だった写真の常識を「ディスプレイで見るもの」に転換させてしまったのがQV-10最大の存在意義だったと言っていいでしょう。
このQV-10に続けとばかりにカシオと同じ家電メーカーやPCメーカーから様々なデジカメが登場します。シャープもそういった家電メーカー系のフォロアーで、カメラが主役なのではなく、TV(ディスプレイ)が主役だというのならTVが一番得意な使い方 - 動画を表示できるカメラにしよう。とその考え方を一歩進めたVN-EZ1を製品化してきました。
このようにカシオと同じ家電メーカーからQV-10のコンセントをより推し進めたモデルが登場する一方で、カメラを本業とするメーカー。ニコンやキャノンなども本腰を入れたデジカメ。ニコンCoolpixシリーズ。キャノンIXY / PowerShotシリーズを開発し、市場に投入しています。
(このデジカメ黎明期のカメラメーカが開発した名機にはオリンパスCAMEDIAシリーズの存在も欠かすことは出来ないと思いますが今回の論旨からちょっと外れてしまうのでまた別の機会を設けて語りたいと思います。)
これらカメラメーカーのデジカメは装備するレンズや画像処理能力に関してはやはり家電メーカーなどには太刀打ちできないものがあり画質にこだわるならやはりカメラメーカーという図式が作られていったと思います。
こうして急速に変化していくデジカメ市場に対して先駆者ためるカシオはどうだったかと言うと1994年のQV-10から7年経過した2001年5月の時点でも初代QV-10とあまり変わり映えのしないQV-2900UXを登場させていたりします。確かに時代に合わせて画素数を200万画素にアップグレードし、8倍と言う高倍率ズームレンズを備えたりしていますが・・・
翌月の2001年6月。カシオは新コンセプトのQV-4000を8月から販売開始すると発表します。QVシリーズの象徴的なものだったスイバルレンズを捨ててキャノン製のレンズに換装。ソニー製のCCDセンサーで画像を生成。スペック的にもキャノンPowerShotG2と酷似したこの機体はある意味敗北宣言的な存在に見えます。
文房具のようなデジカメ
今回紹介するQV-R61はQV-4000から3年後の2004年に発売されたQVシリーズの最終型と言うべき機種です。カシオ製デジカメの主力製品はすでにQVシリーズとは全く異なる新機種。スタイリッシュでアクセサリー的な所有欲を満たしてくれるEXILIMシリーズに移行しており、QVシリーズは前年の2003年にEXILIMシリーズほどスタイリッシュではないものの、安価で電源も入手しやすい単三電池で動く手軽なQV-Rシリーズとして再出発を果たしていました。
この機種は最初に登場したQV-R40。後継のQV-R51。そしてQV-R61と3機種ありますが、外見は3機種ともほぼ同じ。見た目にお金をかけることを潔く捨てています。レンズやCCDユニットもQV-4000と同じく恐らく他社製で徹底的にお金のかかる部分を排して安価にデジカメとしての必要な機能を実現することに徹しています。
このQV-Rシリーズの狙いが最もよく表れているのが背面の操作系ではないでしょうか、カメラメーカーなら絶対に省略するはずがない(と思う)モードセレクタ(P,A,S,Mなどを切り替えられるダイヤル式のセレクタ)が見事なまでに存在しません。おかげで非常にスッキリした操作系になっており、とても使いやすそうに見えます。
同じようにカメラメーカーなら絶対にやらないであろう操作系は露出補正の操作で、普通なら専用のボタンを配置するか、せめて十字キーに割り当てられたりするものだと思うのですが、この機種ではメニュー画面から呼び出す以外の手段はありません。
このQV-Rシリーズの狙いはただ一つ。必要なデジタル画像を撮影者のスキルや労力も含めて最小限で生成できるようにすること。レンズにこだわり、露出補正や絞り、シャッタースピードなどにこだわり、様々な要素を突き詰めて撮るような人には全く向いていない機種と言えるでしょう。
そんな訳でこのQV-Rシリーズの使い心地はまるで文房具。それもステーショナリーなんていうようなお洒落なものではなく、役所の事務机に転がっている数本セットで100円のボールペンのような感覚になります。
実用品に徹していた最後のデジカメ
カメラ好きな人たちからした見向きもされないカメラのように見えるQV-R61ですが、それでも自分は2024年の今でも手に入れて常に携帯するに値すると思えるのは上記のデジタル画像を撮影者のスキルや労力も含めて最小限で生成できる能力を(20年前の技術で)突き詰めていて、それは現在もなお通用する水準にある点にあります。
QV-R61の背面の光学ファインダー隣。いつでも親指で操作できるボタン配置的に最も重要と思われるポジションに赤いカメラのマークが入ったボタンと 緑の三角形の入ったボタンがあります。
この二つのボタンはそれぞれ赤いカメラのマークが入ったボタンが撮影モードで起動するボタンと、 緑の三角形の入ったボタンが再生モードで起動するボタンなのですが、この二つのボタンは電源が入ってなくても起動します。
おかげでこのカメラはポケットに突っ込んで常に持ち歩き、「これを撮りたい」と思った瞬間即座に取り出して撮影ボタンとシャッターボタンの2つのボタン操作だけで撮影できるレスポンスを実現していて、そのレスポンスの高さは辻斬りならぬ辻撮りを可能にするレベルにあります。この携帯性の高さと操作性の高さも含めたレスポンスの高さを20年前に実現していたのは驚くべきことだと思います。
これはこの機種が600万画素という「高画素機ではない」点も利点に働いていると思います。つまり、いささかピントが甘くても気にならない画素数であるという事ですが、こういう点もある意味文房具的です。
こういった、おしゃれでも何でもないけど、実用品として徹底的に突き詰められていてポケットに突っ込んでいつでもどこでも役に立つボールペンのようなコンパクトデジカメは今日ではすっかり見なくなりました。QVシリーズは長年画質的には他社製のモノより遅れをとっていると評価されていましたが最終型QV-R61になって新シリーズEXILIMの画像エンジン。EXILIMエンジンが搭載されて画質的にも必要十分なものを確保しています。
もし今でも道具としてQV-R61を使い続けている方がいましたら、常にポケットに入れて持ち歩き、カメラボタンとシャッターボタンの二つだけで一瞬を切り取る。というこのカメラの本領を発揮しつつ、大事につかっていってほしいものです。