第36回: ヴィーガン・ベジタリアンはライフスタイル

2019年1月16日掲載

英誌エコノミストは昨年末に世界予測レポートの中で、「2019年はヴィーガンの年になる」との見方を示しました。世界経済の不透明感や政治の不安定要素といった全12項目の中で、唯一、食関連として挙げられたのがヴィーガンです。また英国のスーパー、ウェイトローズによると、「英国人の3分の1は肉食をやめたか、減らしている」との調査結果を発表しました。いずれも単なる食習慣としてのヴィーガン、ベジタリアンではなく、それらを取り巻く環境や政治的な動きについて注目しているとのこと。今月はこのヴィーガンとベジタリアンについて考察します。

ヴィーガン・ベジはライフスタイル

ヴィーガン(ビーガン)とは食に対する嗜好の一つで、英国から始まったといわれています。完全菜食で動物由来のものを一切取らないため、「ピュアベジタリアン」とも呼ばれます。一口にベジタリアンといっても卵は摂る人、牛乳と乳製品は取る人、いずれも取る人などさまざまですが、ヴィーガンは肉、魚、卵、牛乳、乳製品、ハチミツは取らず、野菜および植物性由来のものだけを取る人たちを称します。
 
タンパク源としてヴィーガンに人気があるのは豆類で、昨今はユニークな食材が続々と登場しています。代表的なのは大豆が原料のソイミートで、肉のような食感が得られます。米国では09年に創業したビヨンド・ミート社が「肉を超える」というネーミングで注目され、ビル・ゲイツやレオナルド・ディカプリオが投資したことが日本でも話題になりました。
 
マクドナルドも昨年末にスウェーデンとフィンランドで「マックヴィーガン」という、肉や動物由来の食材不使用で、パテは大豆、具材には野菜を使い、ソースに卵を使わない“ハンバーガー”を発売するに至っています。日本産のものとしては、こんにゃくを使った「サシミコンニャク」や「ゼンパスタ」がヘルシー食材として欧州で人気を博しており、農産物の加工が得意な日本企業にとって新たな商機になっています。

欧米客への対応の一つとして
 
インバウンドへの影響はどうでしょうか。本連載ではこれまで「ムスリム(イスラム教徒)客の誘客にはハラールへの理解が必須で、認証だけに頼らない情報開示が重要」と述べていますが、ヴィーガン含むベジタリアン対応についても同様のことが言えます。何を使ってどう調理しているのか。ヴィーガン・ベジタリアン客が食せるかどうかは、自身に判断してもらうのがベストです。それにはまず、ヴィーガン・ベジタリアンへの理解で必須であることは、ムスリム客対応と同じです。

第36回_図_スクショ

このチャートはベジタリアン比率が高い11カ国・地域と、各国・地域からの推定訪日ベジタリアン客数を示しています。17年のこれら11カ国・地域からの訪日客は732万人で、全訪日客(2,869万人)の4分の1を占めています。また訪日したベジタリアン客は推定78万人で、これは数年前の訪日ムスリム客と同じレベルです。つまり、訪日ベジタリアン客は、訪日ムスリム客と同じくらいの数が日本を訪れていると考えられるのです。
 
中でも注目すべきは、台湾とインド以外は欧米諸国からの訪日客が多いという点です。訪日客がアジア諸国に偏りすぎている(17年は86.2%)ため、欧米諸国からの誘客に注力しているインバウンド事業者が近年増えています。その対応の一つとして、ヴィーガン・ベジタリアン対応は有効な一手かもしれません。

包装品、化粧品、ファッションショーまで
 
英国から欧米へと広がる中で、自分はヴィーガンだと公言する有名人が増えています。元米国大統領のビル・クリントン、歌手のマドンナ、F1ドライバーのハミルトン、テニスのヴィーナス・ウィリアムス、そして陸上のカール・ルイスもヴィーガンです。ベジタリアンとして有名なのはポール・マッカートニーで、彼が始めた『ミートフリーマンデー(週に一日は菜食を)』キャンペーンは世界中に広がっています。昨年来日した際に東京都の小池百合子都知事と面談した結果、昨年10月から都庁の職員食堂で毎週月曜日にベジタリアンメニューが提供されるようになりました。

スターバックスはプラスチック製ストローの廃止を進めています。ニューヨーク市は使い捨て発泡スチロール容器を禁止しました。レジ袋は各国で課税・有料化・禁止されるといった措置が進んでいます。そしてロサンゼルスでは来月「ヴィーガン・ファッション・ウィーク」が開催され、クルエルティフリーな(残酷ではない)ファッション、化粧品、そして食品が披露されます。
 
ヴィーガンやベジタリアンを志向するのには、健康への配慮、環境問題、社会問題、動物愛護とさまざまな理由があります。共通しているのは世界的な問題に対する意識という点で、著名人がこうした意識改革をリードしている側面があります。「肉食は家畜を増やし、家畜のために食料や燃料を浪費し、それが環境破壊を進め、動物の権利を軽んじ、そして人間の健康にも悪い。だから私はヴィーガン・ベジタリアンなのだ」という自己定義が進んでいるのです。こうした動きは社会への意識が求められる界のトレンドにも合致しているため、それに基づく食の多様性は今後ますます拡大していくでしょう。

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。
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