第22回: ムスリムフレンドリーな都道府県ランキング
2017年11月28日掲載
11月21日から23日の3日間、東京・浅草でハラールエキスポジャパン2017が開催されました。今年4度目となった日本最大のハラールトレードショーはフードフロアとライフスタイルフロアの2つのフロアで展開され、7ヶ国92社の出展企業と約9,000人の来場者を記録し、過去最大の規模となりました。さまざまなイベントで日本のハラール環境の進展ぶりを見せつけた今年のエキスポでしたが、中でもひときわ注目を浴びたのが「ジャパン・ムスリムトラベル・インデックス(JMTI)という都道府県の格付けでした。今月はこの格付けとランキングについて考察します。
若い世代も「ハラール最新興国」を支持
本連載の第17回と第18回でも取り上げましたが、日本は今、世界で最も「ハラール環境を急速に整備している国」として注目を浴びています。その代表例が、シンガポールのクレセントレーティング社による格付け「グローバル・ムスリム・ラベル・インデックス(GMTI)」です。同社は世界130か国・地域とムスリム(イスラム教徒)客向けのあらゆる旅行施設を格付けしており、直近5年は日本が特に高く評価されています。
また先日同社が発表した最新レポート「ムスリムミレニアル・トラベルインデックス」では、ミレニアル世代のムスリムにとって、日本はマレーシアとシンガポールに次ぐ人気の旅先と評価されました。つまり日本は若いムスリムの間で、非イスラム諸国(OIC)で最も人気があるとみなされたのです。そのポイントは3A(オーセンティック、アフォーダブル、アクセシブル)にあり、「本物」「手頃感」「行きやすさ」が重視されています。こうした点が評価され、若い世代のムスリムは日本を以前の世代よりもぐっと身近に感じているようです。
都道府県を定量的に評価
JMTIは国内のムスリムフレンドリー度をエリア別に格付けするというもので、これは世界初の試みです。評価項目はアクセス性、コミュニケーション力、環境、ムスリムフレンドリーサービスに関する12項目で、それらを定量的に評価し、首位をリーダー、2位から13位をアダプター、それ以下をフォロワーというカテゴリーに分け、全47都道府県をランキング化しています。
首位の東京都は浅草を筆頭にムスリム客へのホスピタリティを高めてきました。特に台東区による研修会の開催、ハラール認証に対する補助金の交付、観光マップの制作、会員制交流サイト(SNS)を通じての発信は、多くのムスリム客の誘致につながっています。もともと訪日客に大人気の観光地でありながらムスリム客対応を観光政策の一環と整理して実行してきたことが、他エリアに先んじて成功している要因だと考えられます。
2位以下は大阪府、北海道、千葉県、愛知県が続いています。いずれも近年ムスリム客対応店舗が増えているエリアであることが知られています。またいずれにも国際空港がある点で、アクセス性が評価されていると考えられます。これらエリアの今後の課題は、滞在時間を増やすことでしょう。東京都に負けない観光資源を開発し、エリア内を周遊させる仕組みが求められます。それには近隣地域との連携が重要であることは、本連載で再三指摘してきた通りです。
そのほかで注目されるのは、惜しくもトップ10には届かなかったものの、アダプターとして位置づけられた奈良県、栃木県、鹿児島県です。いずれも大都市を訪問したムスリム客が次に訪問したい旅先として挙げており、今後のランクアップが期待されます。逆に意外だったのは京都府です。6位というのは世界有数の観光都市・京都にとっては不本意かもかしれません。ホテルの客室稼働率が90%を超え、「京都にホテルが取れない」という状況も影響しているのでしょうか。今後の巻き返しに期待したいところです。
日本版DMOにも影響
JMTIは今後、訪日ムスリム客にとって重要なベンチマークになる可能性を秘めています。クレセントレーティング社は訪日を検討しているムスリム客だけでなく、世界中の都市を訪問地として検討しているムスリムにも支持されているからです。同社の評価・格付け基準は世界共通で、国や機関によって基準が異なるハラール認証とは一線を画しています。従って、同社を支持しているムスリムにとって、その格付けは旅先選びの重要な指標となっているのです。
こうした流れは、ひいては日本版DMO(観光地奨励組織)の運営にも関わってくると考えられます。2015年6月の経済財政諮問会議で日本版DMOが取り上げられて以来、今では全国で157のDMOが登録されています(17年11月現在)。今は国からの補助金等で運営されていますが、日本の財政状況を鑑みると、いつまでもそれに頼るわけにはいきません。DMOの活動が盛んな米国では、例えばフロリダ州オーランドで民間が主導して州政府による観光インフラ整備のための資金を調達しました。これは観光開発地方債と呼ばれるもので、観光業での収益を返済原資にしています。
日本でも近い将来、こうした資金調達と観光インフラ整備が必要になり、JMTIのような定量的なデータが投資家にとってリスク分析のツールになるのではないかと思うのです。各都道府県は、今後ますます自ら稼ぐ力をつけなければなりません。稼げなければ地域は衰退します。衰退した地域には、留学生も旅行者もやっては来ません。JMTIというグローバルスタンダードに都道府県がどう対処接するか、世界が注目しています。
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