第35回: 遅すぎた移民政策

2018年12月12日掲載

今月8日未明に日本の国会で改正入国管理法が可決、成立しました。野党が審議不十分だと抵抗する中での強行採決でしたが、大幅な規制改革が来年4月から実施されることになります。急増する訪日客の対応に追われる中、日本は労働力としても外国人人財を迎え入れようとしているのです。準備が万全でないのは誰の目に見ても明らかですが、ではどう対応すればよいのでしょうか。今月は外国人人財の受け入れについて考察します。

遅すぎた移民政策

日本で「移民」というと、外国から日本に永住のために移住してくる人というイメージがあります。母国が同じ人たちが集まってコミュニティーをつくり、同じ地区に住んでいても日本人とはあまり交流しない、といったイメージもあるかもしれません。

国際的な移民の正式な定義はありませんが、一般的には「居住国以外の国に1年以上住む人」をいいます(*1)。従って、就労者だけではなく留学生も移民だという整理になりますので、決してマイナスイメージばかりではないはずです。産業界は労働者を、教育界は留学生を求めているのですから、心理的には壁を感じながらも、実態として日本は総じて移民を求めているという状況にあるのです。

第35回_図1_スクショ

海外でも移民は「移民問題」として語られることが多いですが、このチャートから読み取れるのは、特に欧州では移民政策が浸透しているということです。人口の1%前後が移民というと少ないように感じますが、かつて移民だった人たちは今では国民となり、二世三世の世代になっています。移民政策に長い年月を費やしてきた欧州各国にとって、この1%は新たな国民予備軍を受け入れるのによいレベルなのかもしれません。

日本は近年、外国人財を特定分野の労働者として積極的に受け入れてきましたが、数の上ではまだまだ圧倒的に少数です。今回入管法が改正されたからといって、欧州レベルに至るにはこれから何十年もかかると思われます。しかしそれには制度の整備とともに、日本人の理解と心構えが必要であるのは言うまでもありません。そして、移民の必要性は何十年も前から論じられていたにもかかわらず、問題は今だ解決していないのです。

移住者にはおもて「無し」

例えば学校です。急増する外国人児童を受け入れる環境は十分に整備されておらず、学校に通えな子供が増えているのです。中には「日本語を習ってから来てくれ、と追い返された」という事例も報告されています。

なぜ、こういう事態が起こっているのかというと、憲法で定められている「教育を受ける権利」は日本国民に限られているからです。国民ではない外国人児童を公的な学校へ受け入れるか否かは、自治体や学校に委ねられているというのが現状です。学校に通えない外国人児童は約1万人と推計されている(*2)のですから、すでに社会問題になっているといっても過言ではありません。

給食についても各地で試行錯誤が始まっています。昨年に総務省がまとめた報告(*3)によると、給食においては◇弁当の持参を認めている◇豚肉を使わない給食を提供している◇保護者にメニュー情報を開示しているーーなどの例が報告されています。一方で、「外国人のニーズにいちいち対応していてはキリがない」「宗教に対応する前にアレルギー対応を」「理解ではなく押しつけだ」といった意見も出ています。

こうした現状を鑑みると、訪日観光客としては歓迎するが、移住者としては必ずしもそうではないという実態が浮かび上がってきます。

そして選ばれなくなるニッポン

生活環境や人権保護といった問題が山積する中、日本は移民政策にかじを切りました。私は、本来であれば、日本は高度人財から受け入れるべきと考えています。インターナショナルスクール、教会やモスク(イスラム教礼拝所をはじめ)、他国に劣らない住環境と事業環境を整備し、まずは各地でコミュニティーのリーダーとなり得る人財を迎え入れることから始めるのです。さらに国際的専門技能・資格を有する人財を受け入れ、一般労働者はその後のフェーズです。

しかし日本は逆から始めることを決めてしまいました。拙速ともいわれる政策の転換で、昨今は不法滞在、悪質ブローカーの存在、不当雇用といったマイナス面ばかりが報じられ、国民の不安を増大させています。
 
一方で目を海外へ転じれば、人財の争奪戦はよく知られている通りです。優秀な人財を早期に確保しようと教育界も留学生の獲得に注力した結果、確かに留学生は増えていますが、世界的にみれば日本のシェアは大きくありません。日本への留学生は2017年に前年比11%増の約27万人と大きく伸びていますが、欧米諸国にはかなり引き離されています。

第35回_図2_スクショ

日本が、留学する、就労する、居住する国として選ばれるためには、国民がまず日本の置かれた現状を冷静に見つめ、欧州各国の移民政策を謙虚に学ぶべきでしょう。そしてその政策は、何十年にも渡って取り組んできた結果だということを理解すべきです。

これから日本で毎年失われる労働人口は80万人ともいわれています。改正入管法は5年で最大34万人の外国人財を受け入れることを想定していますが、つまり、それでは全く間に合わないのです。留学生を増やし、引き止めることができたとしてもです。

「労働力を呼んだら、来たのは人間だった」と語ったのは、フランスの作家マックス・フリッシュです。彼がこう言ったのは50年以上前だそうですが、日本はまさに今そうした状況にあるといえます。 

奇しくも最近、シンガポールで働くベトナム出身の女性が私に言いました。「日本は大好き。でも日本は遊びに行くところであって、キャリアを積みに行くところではない」 ――。外国人観光客が年3,000万人に達する日本ですが、就労先、移住先としてはもう選ばれなくなり始めているのです。

*1 United Nations Department of Economic and Social Affairs
*2 愛知淑徳大学 小島祥美准教授
*3 宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査-ムスリムを中心として-の結果、総務省

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。
https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2018/12/181226.pdf


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