第14回: 混迷続く日本のハラール認証

2017年3月28日掲載

日本ではあまり報道されていませんが、マレーシアでは今、日本のハラールがちょっとした話題になっています。昨年末に訪日したナジブ首相が安部晋三首相に対して「マレーシアを日本のハラール産業のアドバイザーに」とオファーしたのです。今回は、このように世界が熱い視線を向ける日本のハラール事情について、認証という観点から見てみましょう。

管轄不在で野放し状態

本連載ではこれまで「ムスリム(イスラム教徒)対応=ハラール認証=難しい」ではない、と指摘してきましたが、残念ながら今でも認証が唯一の手段であると思い込んでいる方が少なくありません。確かにハラール認証は信頼できる情報伝達手段の一つですが、全てのムスリムがそれを求めているわけではありません。ハラールの環境整備が始まったばかりの日本では、むしろ情報開示とその伝達が重要です。つまり訪日ムスリム客に判断材料を提供することがポイントなのです。但し、これはインバウンドの場合です。

アウトバウンドとなると、話は変わります。ハラールは各国の輸入制度や表示法にも関わることから、厳格なルールが適用され、輸入国が管轄する認証団体が認めた認証でなければ、輸入してもハラール品とは見なされません。これを相互認証システムと呼び、認められている団体は国ごとに異なります。つまり、輸出に際してはどの国内認証が相手国に有効なのかを十分に確認する必要があるのです。

ハラール認証はムスリムであれば誰でも発行できますが、多くの国では国家が管轄しています。非ムスリム国であるシンガポールでは国内法で定める宗教機関が管轄しており、インバウンドとアウトバウンド両面での産業育成に取り組んでいます。翻って日本は「政教分離の原則」を理由に各省庁が積極的な関与を避けているといわれ、管轄がどの省庁であるのかさえ判然としません。その結果、国内に認証団体がいくつあるのかさえ分からないという状態を生み出しており、ナジブ首相のオファーに対する回答も保留されたままです。

国に頼らず動き出した対策の現状は

ハラール認証が混乱する中で始まったインバウンド対応は、今どうなっているのでしょうか。ここでは「ムスリム対応店」としてハラールグルメジャパンに登録されている店舗を見てみましょう。

第14回_図_スクショ

全724店舗のうちハラール認証を取得しているのは149店舗と、全体の約21%を占めています。そのうちの約35%に当たる52店舗は和食類で、40店舗で次点のインド料理とともに他を大きく引き離しています。和食類といっても今は5つのカテゴリーしかないですが、今後はよりバラエティー豊かなハラールの和食が増えることが期待されます。

ここで注意しなければならないのは、ハラール認証店舗といっても、アルコール類を提供している店もあるという点です。例えばある国内のハラール認証機関は店舗を以下のようにステータスを分けています。

3つ星: 全ての食事メニューはハラールで、かつアルコール飲料の提供なし
2つ星: 全ての食事メニューはハラール(アルコール飲料の提供あり)
1つ星: ハラールの食事メニューの提供が可能(ノンハラールのメニューもあり)

これは同機関独自のものですが、情報が欲しい訪日ムスリム客と、できることから始めたいという店舗側の双方のニーズを満たしているといえます。3つ星でなければNGだというムスリム客もいれば、1つ星でも構わないというムスリムもいます。事前に情報を開示・伝達することでトラブル防止につながっているのです。もっとも「アルコールを提供していてハラールといえるのか」という議論もありますが。

認証機関の動きで環境は整備されるか

世界共通の認証は存在せず、国内では認証機関が乱立し、役所はそれを管轄していないーー。それでも訪日ムスリム客は増加の一途で、民間は試行錯誤を重ねています。日本のハラール認証はこれまで輸出品に対する認証をメインにしてきたため、国内の飲食店舗への対応は遅れていました。そうした中、昨年末には統一した日本国内のムスリム対応基準を策定しようとする動きがありました。

これは複数の国内認証機関が共同で独立した団体を設立し、全国の認証機関やモスク(イスラム教礼拝所)と協議して、統一基準を策定し運用しようというものでした。昨年末の発表では、本年4月の団体設立に向けて協議を開始するとのことでしたが、現在でもその動きは具体化していません。協議に参加すると表明していた団体が一転して不参加に転じるなど、ど早くも計画は頓挫しかけており、認証団体の連携の難しさを露呈することとなりました。
 
こうした状況を尻目に、海外勢はますます日本市場への関心を高めています。サウジアラビアの認証機関が日本に進出したり、マレーシアの認証機関が相互認証機関を増やしたり、中国の認証機関が日本への投資を検討していたりといった動きがあります。「ガイアツ」によって日本の環境整備は進むのか、それとも国内認証機関が団結して事態を打開するのか。黎明期から脱しつつある日本のハラール認証は、消費者不在のまま混迷の度を増しています。

本連載では、こうした状況だからこそ、一次情報と独自のデータを基に、環境改善のための提言を続けてまいります。

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2017/03/NNA_SG_170328.pdf

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?