第26回: モディストファッション市場

2018年3月27日掲載

今月はモディストファッションについて考察します。モディストファッションとはムスリム(イスラム教徒)も楽しめるファッションで、近年世界では大きなトレンドとして注目されています。モードの最上級である「MODEST」と、謙虚、しとやかさ、覆うという意味の「MODESTY」のダブルミーニングをコンセプトとしたファッションは、ムスリム含むあらゆる消費者をターゲットとしています。本連載では第9回でその概要を紹介しましたが、今月は続きとしてさらに深掘りしたいと思います。

縮む日本、伸びる世界のアパレル市場

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まず繊維・アパレル市場の規模とその推移を見てみましょう。世界市場は堅調に拡大を続けており、中でもムスリムの市場が大きく伸びています。2015年2,430億米ドル(約26兆円)であったムスリム市場の規模は21年には3,680億米ドルに拡大し、中国市場の15年の規模よりも大きくなると予測されています。

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逆に日本市場は縮小傾向にあり、一国の市場規模としてもドイツやインドの後塵を拝するようになりました。日本からの輸出もマイナス傾向で、貿易収支は長らく赤字の状況にあります。繊維産業は安い労賃を求めて生産地を移してきた歴史がありますので、これは避けられない事態であるともいえます。だからこそ、日本企業が海外で生産するアパレル製品であっても、成長市場に売り込んでいく必要があるのです。

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では現在、ムスリム諸国にアパレル製品を売り込んでいる国はどこなのでしょうか。上の図はモディストファションの国別消費額とOIC諸国(イスラム協力機構)への輸出実績(金額ではなく、独自の指数による)を示しています。UAE(アラブ首長国連邦)とシンガポールは再輸出が大半だと考えられますが、世界一の繊維産業国である中国と、イタリアやフランスといったOIC非加盟国もランクインしています。日本はランク外で、この市場では存在感がありません。

躍進するEC、日本勢は新興企業が進出

日本のファッション市場では電子商取引(EC)の存在感が大きくなっていますが、世界のモディストファッション市場もこうした傾向に変わりはありません。モディストファッションを専門に扱うECプラットホーム(自社および他社のブランドを扱うインターネット販売サイト)が多数出現しています。モダニサ(Modanisa)という会社をご存知でしょうか。モディストファション専門のECマーケットプレイスを運営しているトルコ企業です。11年創業の若い企業ながら月間訪問者数は既に1,000万人を超えており、その成長を見込まれて投資ラウンドはシリーズDまで進んでいます。

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日本勢としては16年、日本最大級のファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥディが、マレーシアのファッションバレット(Fashion Vallet)へ資本参画しています。また昨年は、日本のストライプインターナショナル社がインドネシアのボボボボ(bobobobo)の株式を取得しました。創業100年以上が珍しくない日本のファッション業界の中で、1998年創業のスタートトゥディ、94年創業のストライプによる積極的な進出が話題になっています。

もう一社、トランスコスモス社(85年創業)が13年にインドネシアのベリーベンカ(Berrybenka)に出資し、日本からの越境ECを実現させています。同社とスタートトゥディはもともとIT系企業であり、本業のテクノロジーを活用してファッション界へ進出しました。アマゾンジャパンも16年から東京ファッションウィークの冠スポンサーを努めています。日本の伝統的な繊維・アパレル企業とは異なる、これらIT系企業の戦略が興味をそそります。

見ていない大陸にどう上陸するか

モディストファッション市場の動きは速く、海外勢同士の合従連衡も起きています。日本ではほとんど報道されませんでしたが、先月インドネシアのEC企業ヒジャップ(Hijup)がイギリスのホートエラン(Haute Elan)を買収しました。ジャップは、シンガポールやブルネイのモディストファッション市場で名を馳せている企業が多く名を連ねるマレーシア企業グループの一角を成しており、既にコングロマリット(複合企業)化しています。

では、早くも激動しているモディストファッション市場で、日本企業に勝機はあるのでしょうか。私は機能性素材にその活路があると考えています。本連載の第9回でも述べたように、日本の繊維素材は海外で高い評価を得ています。中東諸国の伝統的民族衣装に使われる生地トーブでは7割のシェアを有していますし、ユニクロのツヤと「落ち感」のある素材を使ったコンフォートウエアはアジアでもヒット商品になっています。問題はその素材を活かせるか、どういう服でブランド化させていけるかです。

個人的には、多くの日本企業は「日本産品の輸出」にこだわり、国内と欧米市場を重視しているように感じます。それらが伸びているのであれば問題ありませんが、実態はそうではありません。ハラール食がかつてそうであったように、モディストファッション市場は多くの日本企業がまだよく見ていない大陸であるようです。上陸するにも、その市場をよく知らない者同士で立ち向かうのは賢明ではないでしょう。

その点で海外のECプラットフォームと組むというのは合理的な選択だと思います。これにより販路を獲得できるだけでなく、蓄積されたデータを活用できるのですから、これから本格化するファッションテック(テクノロジーによってファッション業界を改革する動き)の進展にも大いに貢献するでしょう。

先に上陸した者が先行者利益として市場を占有する。モディストファション市場という見えざる巨大大陸の急成長は、デジタルがその勢いを加速させているのかもしれません。

掲載紙面PDF版のダウンロードは以下から。
https://fooddiversity.today/wp-content/uploads/2018/03/NNA_SG_180327.pdf


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