
ズボラでも思わず買ってしまった、田中鎌工業さんの松原包丁。
「松原包丁のお店へ、一緒に行ってみますか?」
会社の先輩に誘われた。長崎県波佐見町から大村市へ行ってみることに。まだ車の免許を持たぬわたしには、楽しいおでかけだ。
波佐見町は県内で唯一海に面していない市町村だ。山に囲まれた町を抜けてお隣の川棚町へ。車を走らせていると、だんだん海が見えてきて、「そのぎ茶」が特産品の東彼杵町を通り過ぎて大村市に入る。
いろいろ大村市で遊んで、田中鎌工業さんへ。問い合わせの電話を先輩がしてくれて、そうしたら、いまはお盆休み期間なのだけどお店を開けてくれた。
出迎えてくれた奥さまにお話をうかがう。
それぞれの包丁の違いは? メンテナンスはどのくらいの周期ですれば? 切れ味の違いってどこで決まるの? 研ぐのは大変?
まるで素人な質問をたくさんしたのだけど、にこやかに答えてくださった。
わたしは正直、興味はあるものの買うつもりはなかった。というのも、鋼の包丁は錆びやすいし研ぐのが大変そうだし、ズボラな自分には無理だと思っていたのだ。
だって、濡らさなくても空気中の湿気で錆びたりするんだよ? 研いだこともないし、難しそうだ。
鋼の包丁をちゃんと研いで使う丁寧な生活、憧れはするけれどハードルが高い。
でも、奥さまがすすめてくれた包丁は、そんなわたしでも「買いたい」と思えるものだった。
まず地金がステンレス。これはいまよく使われてる素材だ。錆びにくい。普通に包丁を買ったら、たぶん素材はステンレスだと思う。研ぎもさほどいらないし、手入れが楽なやつ。
このステンレスを土台に、鋼をサンドイッチしている。なので研ぎ出された刃先のみ、真ん中の鋼が出ている状態。
こうすると、包丁全体はステンレスなので錆びにくい。そして鋼の刃先でしっかり切れて、仮に錆びても刃先だけ。
鋼が錆びるんだったら、じゃあもう、ステンレスだけの包丁でいいじゃん、と思う方もいるかもしれない。わたしもそうだった。しかしステンレスだけだと、切れ味が鋼に劣る。
つまりこのステンレス+鋼の包丁は、切れ味もよくてお手入れもしやすい、いいとこ取りな品なのだ。
「理想は数ヶ月に一回研いでほしいですけど、毎日使っても、食材や切り方によって何本かの包丁を使い分けてもらってたら、1年に一度くらい研いでもらったら大丈夫ですよ」
それくらいで済むのか。ズボラなわたしは心惹かれる。しかもお店に持ってきたりレターパックで送ったりすれば、研ぎ代は500円。鋏とかはちょっと刃が2枚あるので値段が変わるそうだけど、年間メンテナンス費用もそうかからない。
「青鋼っていうのが入ってると、普通の鋼よりもさらに切れ味がいいんです」
奥さまが言う。
見ていたのは、小さめの包丁。普段使いもできて果物なんかを切るのに向いてそうなサイズで、4000円代。
買おう。決めた。
すると四代目のご主人が出てきてくださって、包丁に名前を彫ってくれた。とくに別料金もかからなかった。なんてうれしいサービス。
また来たいな、と思えるお店だった。
伝統工芸品で、鋼の包丁。なかなかメンテナンスも含めて難しそうと思っていたけれど、いまの暮らしに合わせて使える道具をつくっている姿勢がかっこよかった。
ラインナップもすてきで、「男の庖丁」として見た目もかっこいい、ちょっと高級な包丁もつくっていて、そんなふうに製品開発をしている田中鎌工業さんがもう、かっこいい。
松原包丁をつくるお店も、時代とともに減り続け、もう現在では3店しかない。県の伝統工芸品なのに。
松原包丁の起源は約500年前に遡る。壇ノ浦の戦いで敗れた平家の刀鍛冶の子孫が大村市の松原に住みついて、刃物をつくりはじめ現在に至る。選び抜かれた材料で、よい切れ味と評判だ。
この「今」の時代にも使いやすい包丁を、もっとみんなに知ってもらえたら。勝手に応援したい。
ひとり暮らしをはじめたときにAmazonで買った文化包丁(よくある普通のオールマイティーな包丁)が切れ味も落ちてるので、もう少ししたら、ちょっとだけ大きな包丁を買い足したい。もちろん、田中鎌工業さんで。
まずは、今日買った包丁を使い込んでみよう。
いいなと思ったら応援しよう!
