『俺たちの箱根駅伝』
池井戸潤著『俺たちの箱根駅伝』(上下巻)を読んだ。久しぶりの池井戸潤の作品で、いつも通り一気読み。大学駅伝をテーマにした作品だ。
池井戸潤の作品はかなりの数を読んでいるが、スポーツがメインの作品はそれほど多くはないと思う。現在テレビ放映中のドラマ「花咲舞が黙ってない」は池井戸潤の作品だ。もちろん「半沢直樹」シリーズも彼の作品である。銀行が舞台の作品、また銀行の融資先の企業を描いた作品が多いのは、元銀行員という池井戸潤の経歴から自然なことだろう。
スポーツを描いた作品もいくつかはある。社会人ラグビーチームを描いた『ノーサイド・ゲーム』、同じく会社の野球部が題材の『ルーズヴェルト・ゲーム』、そして今回と同じく駅伝が出てくる『陸王』くらいではないだろうか。社会人スポーツを描いた二作品については、経営戦略に振り回されるチームの様子を描くなど、大きくは会社を描いているといえなくもない。『陸王』は足袋を作る老舗がランニングシューズ作りに挑戦して起死回生をはかる、という中小企業を描いており、そこに駅伝を絡めた作品。
『俺たちの箱根駅伝』はというと、大学駅伝が舞台であるが、特定の大学ではなく、予選敗退大学からの選手の「寄せ集め」、学生連合チームの物語だ。2年連続本戦出場の明誠学院大学は予選で主将青葉隼人の不振により本戦出場を逃す。監督の諸矢は引退を決め、教え子で商社勤務の甲斐を後任に据える。主将青葉は学生連合に選ばれ、その学生連合の監督も新任の甲斐に託される。長らく陸上界から離れていた甲斐の監督就任に異論が噴き出し、雲行きが怪しくなっていく...。
このメインテーマと並行して箱根駅伝を放映する大日テレビの動きが描かれる。箱根駅伝は系列局を含め千人ものスタッフを要する正月のビックプロジェクト。その準備段階からチーフアナウンサーの入院という危機に見舞われる。チーフ・プロデューサーの徳重、チーフ・ディレクターの宮本は編成局長の黒石の現場軽視の注文や数々の難題をかいくぐりながら、駅伝放映を成功させるべく奔走する。
学生連合チームの甲斐監督の手腕により、寄せ集めチームが一つになり、強豪チームに挑んでいく駅伝を一つの軸に、それを放送するテレビ局チームの裏側をもう一つ軸として、交互に読ませていく。二つの軸をうまく描き分けながら、読者を飽きさせずに物語に引き込む筆致は流石に池井戸潤だ。いつもの通り、最後には水戸黄門並みのカタルシスが待っている。