おじいちゃんとグミ。

わたしにとって、グミといえば、真っ先に思い浮かぶのは、「果汁グミ」だ。
瑞々しいぶどうやらみかんやら桃やらが全面にパッケージに描かれた、あのおなじみのグミである。
なぜ、わたしにとってグミは、果汁グミなのか、それは四半世紀弱にもさかのぼる昔の記憶を掘り起こす必要がある。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜

母方の祖父母の家は、同じ市内にあり、
よく遊びに行っていた。そしていつも、おじいちゃんが、買い溜めて用意してくれたお菓子を一人一つ、もらえるのがいつものことだった。

帰る頃になると、おじいちゃんは、座っていたいつもの椅子から重い腰をよっこらしょ、とあげる。そして、押し入れの扉をあけ、お菓子が詰め込まれたスーパーの袋を出し、わたしと妹にこう言うのだ。

「好きなん選び。」と。

豆菓子、するめ、お煎餅、酢昆布。
スーパーで選ぶとき、おじいちゃんにとって馴染みのあるものを自然と手にとるのだろうか。

袋から出して並べてみるのだが、
大抵いつも同じようなお菓子たちが並んでいた。

しかし、その日はいつもと違い、異色を放つ、存在があった。

ーそう、「果汁グミ」である。
妹も目をつけないわけがない。

「これにする!!」
ちゃっかりとすぐさま手にとる妹。
「わたしも!」
わたしだってこれがいい、負けないよう妹の手からひったくる。
「ずるい!」
「わたしが先見つけたし!」

揉めだしたわたしたちは、
「そんなしょうもないことで喧嘩せんでええ。」と低い声で一括される。

いつもどちらかというと寡黙なおじいちゃんに
叱られ、最終的には
「まりちゃんは、来年から小学生になるんやから我慢しなさい。お姉ちゃんやろ。」
という、言葉。なんとも理不尽極まりない。
別に好きで「お姉ちゃん」になったわけちゃうし。
むくれつつ、それから手を離す。

その日は、しぶしぶ「果汁グミ」は妹の手に渡ることになった。

そして、次に祖父母に会うとき、わたしは内心ちょっと怯えていた。喧嘩してしまったから、もうおじいちゃんは、あのお菓子袋を用意してくれていないんじゃないかと。

しかし、心配は杞憂だった。
袋からお菓子を並べて、息を飲む。

いつもの豆菓子、するめ、お煎餅、酢昆布、.そして、、、、、果汁グミ!!
しかも今回は、味の違う3つも、だ。

それ以降「果汁グミ」は、ずっとスタメン入りすることになる。

それからもおじいちゃんの「1訪問1お菓子」制度は続いた。
(一度だけ厚かましく「もう1こあかん?」と
聞いてみたものの「あかん」とあえなく一蹴される)
わたしが小学生になっても、中学生になっても
高校生になっても、そして大学生になっても。

なんだかんだと忙しくなり、行く頻度は月1に、2.3か月に1回に、、ある時は半年ぶりに、と減っても相変わらず、お菓子を選ばせてくれるのだった。

姉妹二人そろっていくことも殆どなくなった。 
そんなときは、必ず
「○○(妹の名前)ちゃんの分も選び。」
と言ってくれるのだった。
おじいちゃんにとっては、いくつになってもお菓子一つで喧嘩する姉妹だったのか。

実を言うと、果汁グミがとても好きだったからではなく、目新しかったら飛びついた、という方が正しかった気がする。
歳を重ねてもずっと、存在する果汁グミを見て、

「実は、○○のグミの方が好きやねん。」や
「実は、クッキーの方が好きやねん。」 と
言いかけたことがある。

けど、わたしたちがこのグミがすごく好き、と思ってるおじいちゃんになんだか申し訳ない気がして、言えなかった。

欠かさず、お菓子を用意してくれること、
今思えば、寡黙なおじいちゃんの愛情表現の一つだったのかもしれない。

*〜*〜*〜*〜

もう、家に行ってもお菓子はもらえなくなった。もちろん、あのお菓子が詰まった袋もない。

いつも座っていたあの椅子はなんだか寂しげだ。
そしておじいちゃんには、会うことが、叶わなくなった。


おじいちゃんは、病気で入院し、わたしは社会人になって忙しさに拍車がかかり、、。
でも入院が長かったこともあり、
「ずっとしばらく病院にいる。」
そう信じて疑わなかった、わたしがいた。

久しぶりの対面は、「ありがとう」じゃなく、「全然会いに行かなくて、ごめんなさい」と後悔の思いいっぱいに手を合わせることになる。

直接、「ありがとう。」が言えなかった。
そのときが、わたしにとって初めての、身近な人とのお別れで、悔やんでも悔やみきれない、そんな後悔があるのだと知った。

あれから、数年経った。
果汁グミを見かけるたびに、おじいちゃんを思い出す。
そして、あの時ちゃんと言えなかった、
「ありがとう」を心の中でつぶやく。

そして、記憶とは不思議なもので。

今日書き出すにつれ、ぼんやりしていた記憶の輪郭がどんどんはっきりしてきた。
あのお菓子やあのお菓子もよく袋に入っていたな、とか。
だんだん、「お菓子は?」って自分から催促するようになったっけな、とか。
いつも入ってたお菓子が入っていた袋は、ちょっと茶色がかった色だったな、っていうどうでもいいことまで。


最後に。

届くかわからないけど、明治さん、
果汁グミのパッケージを大きく変えないでいてくれて、ありがとうございます。 
これからもこのパッケージを見かけるたびに、
ちょっとほろ苦い、だけど温かな記憶が甦る気がします。


#エッセイ #お菓子 #グミ #明治
#家族 #毎日連続更新 #15日目


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