寄り道のカツサンドと結婚。
使い古したスニーカーは、上からも下からも嫌と言うほど水を吸い込み、歩くたびにぐじゅぐじゅと鳴いた。
幾度と経験してきても、この感覚は「不愉快」という三文字に集約される。
真っ直ぐお家に帰って晩御飯を作るべきなんだけど、ささやかなもやもやが、寄り道へと誘う。
せめて心に降る雨は晴らしたくて、少し冷えた身を気になっていたカフェに寄せようと思った。
帰宅途中にある、前から気になっていた、
かつサンドのお店。
店に一歩足を踏み入れた瞬間、落ちつける場所だなあ、と感じたのはわたしの愛してやまない作業場所「コメダ珈琲」に内装の色味が似ているからかもしれない。
珈琲とカツサンドのセットを頼み、ホット珈琲が先にきた。白地に金縁の珈琲カップ。
食器が可愛い時点で頼んで正解だったな、と思う。
とうかわたしは、金縁があしらわれた食器に弱い。それだけで、ちょっと心が上を向く。
うん、わたし、ちょろいな。
カツサンドに小さなスムージーも付いてきた。
一口飲んで、なんだか懐かしい味だなと思ったら、あ、あれだ。
実家でたまに母がミキサーで作っていたやつ。りんごと人参とバナナとちょっとの小松菜。
スムージーを口にすると、身体に良いものを取り入れたって、なんとなく安心感がある。
さて、お待ちかねのカツサンド。
口に含んだ瞬間、おや、と思った。
カツサンド、ってパワフルな大味ってイメージを抱いていたのだが、これはなんというか繊細
、という感じ。
お肉も、お皿に乗ってお料理として出てくるステーキみたいに中央がほんのり赤く、柔らかい。
仕込まれたソースも主張し過ぎない味なのに、個性が光っており、お肉の柔らかい甘みと引き立てあっている。
そしてそれを、ほんの僅かな黒胡椒が、後味を引き立てる。
なんとも、絶妙なバランス。
とても美味しい、、もっと味わっていたいなあ、と思うのにあっという間に溶けてしまった。
うーん、さすがカツサンド専門店。
そりゃパン屋さんのカツサンドより2倍近いお値段がするわけだ。
メニューを決める際、さっき「ちょっと多いかも、、、」と思って店員さんに、食べ切れなかったら持って帰れるか聞いていたのだけれど、快い返事をもらえたので、半分に当たる二つをお持ち帰りしようと思う。
・・・帰ってくる、パートナーに。
今日は、仕事が立て込んでいるらしく、とても遅くなるらしい。
正直なところ、わたしの胃のキャパ的にこれを全部食べたとしても、晩御飯も余裕だ。
けれど、彼にも食べて欲しい、と思った。
美味しそうな食べものを前に、このわたしが「待て」が出来ちゃうんだから、愛のなせる技はすごい。
美味しいものがあったら、シェアしたいなあと思うようになったのも結婚してからの変化の一つかもしれない。
結婚した彼と一緒に住み始め、一人暮らしのときのお気楽さを失った代わりに、温かさが増えたなあ。
もぐもぐと、もう一つのかつサンドを頬張りながら、いつか、ちゃんと結婚についてエッセイを書きたいなあ、と幾度目か分からないことをぼんやりと思う。
まとまった時間をとって、ちゃんと向き合って書きたい、と言い訳しているうちに、籍を入れて数ヶ月経ってしまった。
これまで思っていたこと。今の想い。描く未来に向けて。
あまりにもプライベート過ぎる上、恐らく読み返したら、あああ〜とベッドでもんどり打つ様になる、小っ恥ずかしいエッセイになることはもう、目に見えている。
でも、それでも、書きたい。
わたしは、そのときのわたしが思っていることをそのまま書きたい。
これから、もしかすると変わっていってしまう自分や関係性があるのかもしれないけれど、
いつか読み返したとき、ちゃんと今の気持ちに返ってこれるものを、未来のわたしに残したいのだ。
自分だけの個人的な日記へ書き散らしてもいいんだけど、どう表現しよう、、と時間をかけて書いた方が、自分にとってしっくりくる言葉になることの方が多い。
けれど、そんな赤裸々な気持ちがより溢れる文章ゆえに、広くたくさんの人に読んでもらうことは望んでいない。
なので、それを書くときは初めての試み、有料記事になるのだろうと思う。
わたしの文章をお金を払ってまで読みたいと思ってくれる人がいるのだろうか?と甚だ疑問ではあるが、自分のために書くのだから、誰にも読まれなくとも良しとしよう。
とはいえ本当に誰にも読まれなかったら、それはそれでちょっとさみしい気もする。
けれど、もしかしたら「おめでとう」の気持ちを込めて、恐らくは何人かは読んでくれるかもしれないから、ちょっぴり勝手に期待しようかな。
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まだ雨は、降り続いている。
このカツサンド、食べたらなんていうかな。
なんてことを考えていると、さっきより足取りが軽いことに気付く。
さて、大好きな人が帰ってくるお家に帰ろう。