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先生が感じる、この10年での運動会の変化と大切なこと。

「列、見て!」
「隊形移動は、すばやく!」
子どもたち全体に指示を飛ばす先生の声が運動場に響いている。

このシーズン、近所の小学校では運動会の練習真っ盛りだ。団体演技のダンスの練習の様子をちらりと見ると、前よりも子どもたちの動きの完成度が上がっている気がする。

…もう10月も半ばだもんな。この三連休中に運動会を開催した学校や来週あたりに開催する予定のところも多いんだろう。

8月中頃から産休に入った身のわたしは、職場である小学校の今年度の運動会には一切関わっていない。思えば、運動会と全く縁がない10月は実に10年ぶりである。わたしも朝礼台に乗って、あんな風に指導していたなあ、と何だか懐かしいような気持ちになる。


運動会は小学校の行事において、最も大きなイベントの1つ。
9回あれば、それぞれの思い出がある。
そしてここ最近、わたしが先生になりたてだった頃から、運動会の形は変わりつつあるように思う。(少なくともわたしの周りでは)

まず、消えていった演目。
最初の数年間は当たり前のように最終学年である6年生の団体演技として「組み立て体操」があった。

「ふざけるな、真剣にやれ!」
「へらへらすんな!」

練習期間中は、中心指導の先生をはじめとして、たくさんの先生の怒号が飛んだ。特に組み立て体操では、何人もで行う技等も多いので、子どもたちがふざけていたり気が緩んでいたりすると、即怪我につながる。
常に厳しい指導をして、学年全体を引き締めることが必要だった。

裸足で行うのが一般的なので、運動場の砂が足の裏に食い込み、
「痛い」
という子どもたちの声も多く聞こえた。
また、ピラミッド等大人数の技だと、下で支える子ほど背中に体重がかかる。ましてや、一番下段で支える子たちは、運動場の砂が膝にささり、見ていてとても痛そうである。

「痛いのは分かるけれど耐えろ!しんどいのはみんな一緒や!」
けれど、中心指導の先生たちはそう一喝するしかなかった。

「怪我をさせてはいけない。」
「どうか成功させてあげたい。」

そんなプレッシャーをびりびりと周りの先生たちから感じた。少しでも大人の数があった方が良い、と6年生の学年担任以外の先生も、空きコマであれば、練習に駆け付けた。 

6年生とはいえ、体格の良い子だと大人であるわたしの身長や体重と同じくらい、もしくはそれ以上である。もし、子どもが落ちてきたら、わたしは支えられるだろうか、そんな不安も抱えながらも高くなっていくピラミッドへ手を伸ばしていた。

しかし、そんな「組み立て体操」の一つの転機は、コロナ禍だった。

ー密を避けた運動会を。密を避けた練習を。

そう上から通達が来る中で、どうしても「密」になってしまう「組み立て体操」は根本から見直されることになった。そして「組み立て体操」だけではなく、入場行進、演技の入退場の仕方、全児童での演目も先生間で幾度も話し合って、一部取りやめたり、形を変えたり様々な工夫が凝らされた。

コロナが収まり、またコロナ前の元の形の運動会に戻ったかといえば、実はそうならなかった。

骨折等、当日参加できなくなるような大怪我が起こる可能性もある組み立て体操。ニュースを見ていると、過去に死亡事故や後遺症の残るような事故の事例も発生している。

最終学年は、組み立て体操でフィナーレを飾る。
ーたとえそんな伝統があったとしても、リスクを背負ってまで、子どもたちに取り組ませなければならないものなのか?

先生たちから、疑問の声が挙がるようになり、危険な技がなくなったり、組み立て体操自体がなくなったりする学校も周りで出てきたのだ。わたしも、その意見に賛成だった。組み立て体操でなくては付かない力、なんてないはずだから。

また、演目だけではなく、運動会の在り方についても変わってきたように思う。

運動会シーズン、残暑厳しい中で練習を重ねることは、子どもたちにとって心身ともに負担が大きい。
その結果、学習に気持ちが向かない子どもたちが増える。不登校傾向の子どもたちも、登校し辛くなることもある。配慮や支援を要する子どもたちも、リズムが崩れて荒れがちになることもある。

従来のやり方だと、運動会の練習時間により、授業時間も多少圧迫される。

これまで通り、子どもたちに無理させてまで、長時間・長期間の練習を行う必要があるのか。
学校全体でどう行うのが、子どもたちにとって1番良いのか。

またもや連日、先生間で話し合いが行われた。その結果、入場行進や児童全員での演目など、コロナ禍でなくしたことや省略されたことがそのまま、引き継がれたものもあった。そして、これまでの運動会の練習時間も見直された。

そういった雰囲気も相まって、運動会は子どもたちへの過剰な心身の負荷をかけてまでやらせるものじゃない、とわたしも考えるようになる。

数年経ち、わたしも学年の中で運動会の中心指導を任されるようになった。
ふと、よぎったのは小学生だった頃の記憶。

運動会の練習では、連帯責任でたくさん叱られて、暑い中何度もやり直しをさせられたっけ。
わたしはちゃんとやっているのにな…というくすぶる不満。
ダンスは嫌いではなかったけれど、あの運動会練習の雰囲気が好きではなく、夏休みが終わって練習が始まると、ほんのり抱いていた憂鬱な気持ち。

身体を動かすことが好きな子どもたちもそうでない子どもたちも、ダンスが得意な子もそうでない子も、楽しんで頑張れる雰囲気にしたい。
苦痛に耐えることだけが、子どもたちの成長につながるとは、思わない。

怒号を飛ばして、学年を引き締めることは辞めよう。
必要以上に厳しい指導は辞めよう。

そう、心に決めて練習を始めた。もちろん、ふざけている子がいたり、良くない雰囲気になりそうな時は厳しい言葉をかけることもあったけれど、前向きな言葉で子どもたちを引っ張ろうと意識して、毎回の指導に取り組んだ。

また一緒に学年を持った先生たちへ「こんな指導がしたいです」と自分の考えを共有したときに、その背中を押してもらえたことも大きかったように思う。

しかし、その考えが大きく揺らいだこともあった。

もうすぐ運動会本番という頃、他の市で働く先生仲間である友人と会ったときのことだ。お互い先生となれば、話題はやっぱり運動会のことになる。
彼女もわたしと同じく学年の中心指導をする立場であり、奇しくも担任する学年も同じであった。

「今年は、何の曲でやったん?」
「手具(ポンポンやバンダナ等身に付けるもの)は何を使ったん?」
「どんな隊形移動にしたん?」

等、運動会トークに花を咲かせるうちに、彼女がリハーサルを朝礼台の上から撮ったダンスの動画を見せてもらうことになった。どの子も、動きのレベルが高く、全体としてもすごく揃っている。

「え、すごすぎる!○年生と思えないクオリティ!」
目を丸くしてそう褒めると、
「うん、やっとここまで来たわ。」
友人は、満足気に笑った。

「運動会練習の時間だけで、この完成度?」
そう尋ねたわたしに、友人は、
「さすがに、それは無理。休み時間、昼休みも、みんなで自主練をしたし、たまに朝練もやったなあ。」
と答えた。

聞くに、かなりの練習時間を要したようだった。また、子どもたち同士での教え合いにもかなり時間を割くなど、運動会の練習を集団作りの一環として、彼女がとても力を入れていたことがうかがえた。

実はわたしもその日、子どもたちに見せるためにiPadで、朝礼台から練習風景を撮影していた。
お世辞にも、うちの子たちはこんなに揃っていない。もちろん上手な子もいるが、みんな同じレベルまで到達したかと聞かれると、そうではなかった。

先程友人が見せてくれたばっちり全員が揃った動画を見た後では、見せるのはなんだか、はばかられた。

わたしの指導、これで良かったんだろうか。

約1ヶ月の運動会の自分の指導に、初めて疑問が頭をもたげる。
もっと、ぴしっと全員が揃った上手な演技の方が、保護者の方たちは感動するんじゃないか。
もっと子どもたちに負荷をかけていた方が、さらに集団として成長させることができたのではないか。

ただ、もう本番直前である。子どもたちを信じてやり切るしかない。本番前最後の練習、子どもたちを前に、

「運動会は見ている人を感動させるためにやるのではないよ。
一人一人がこれまで頑張ってきたことを出し尽くしてね。
自分がやり切れたと思ったら、それがあなたたちの成長。
感動させるためにやるのではないけれど、みんなのそんな姿を見て心動かされる人もいるかもしれないね。みんなでこの曲を踊れるのも最後。楽しんでね。」

そんなことを語った気がする。

迎えた本番。朝礼台の上から見守っていて、子どもたちはいい顔でやり切れたと思った。
しかしやっぱり、先日目にした友人の学年の完璧に動きが揃った動画がよぎり、完成度としては高くないのかもしれない、なんてことも思ってしまった。
見ている保護者はどう思ったんだろう、そんなことも考えた。

しかしそれは、杞憂だった。


「みんな楽しそうで、見ていてなんだかこちらまでうれしくなりました」
「ダンスが楽しかったようで、家でもよく曲をかけて踊っていました」
「笑顔が印象的でした。今年は、運動会の練習が嫌って言い出しませんでした」

後日保護者の方から、連絡帳や手紙でもらったメッセージに目頭が熱くなった。


一人一人が楽しいと思える運動会に。
そして、子どもたち自身が頑張って良かったと思える運動会に。

ちょっとだけ、そんな理想に近づけられたのかもしれない。


職場の小学校の子どもたちも、近所の小学校の子どもたちも、いや全国各地の子どもたちも、「やり切ったな」「楽しかったな」そう心から思える運動会になっているといいなあ。




ちなみに、見返したらわたし3年連続で運動会について書いてた…!笑

運動会で大変なこととでもやっぱり好きだ…!って思いについて↓


運動会のダンス曲を選ぶなら、わたしはこれ!↓


#運動会
#小学校
#先生







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