「買いもの」の可能性 #未来のためにできること
服や鞄など、私は身につけるものを買う瞬間が好きだ。
色は、機能性は、質感は、心惹かれるデザインか。その価格は私の見出す価値に釣り合っているか。そうあらゆる角度から吟味し、いい買いものをしたと思えるものを手に入れたときは、晴れやかな気持ちになる。
しかし、大抵のものは手に入れたその日がときめきのピーク。時間の経過とともに、その気持ちは緩やかに下降してゆく。かつて、心惹かれたものも時間が経つと部屋の片隅に眠る。そしてまた新たなときめきを探しにゆく。「ものを買うこと」はそのくり返しだと長年思っていた。
けれど最近、その概念をひっくり返す鞄に出会った。
使っていた鞄が痛んできたので新しいものを探していて、好きな色が並んでいたから、何気なく初めての店に足を踏み入れた。
使い心地はどうかと、肩にかけてみたりポケットの機能性を確かめたりしていると、にこやかに店員さんが近づいてきた。
「いいお色味ですよね」
から始まり、商品の一押しポイントをつらつらと挙げるお決まりのセールストークが続く。しばらくすると、
「お店の理念はご存知ですか」
と尋ねられた。理念?少し驚いて首を振る。
そのお店は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことを志して展開しているのだという。途上国とひとくくりにされがちな場所で、その国や地域ごとの魅力ある素材に光を当てたものづくりをし、そして良いものをつくるために現地の働く環境を整えること。目の前の鞄はその中でできたものらしい。
私が手にすることで、遠い異国の発展を促し、誰かの笑顔につながる。
そうか、ものを買うということは、物欲を満たすただの消費活動だけではなくて、世界と繋がることでもあるのかと気付いた。
また、補修や手入れのアフターサービスが充実していることも知った。
つまり壊れたり痛んだりしてもすぐに手放すのではなく、長く愛用することを前提としている。
私はそれなりの値段がするものを買う際には、使っている自分の姿や感情を想像してみて、本当に買うかどうかを考える。
そのときふと脳裏に浮かんだのは、10年後もその鞄と共に過ごしている私。買うときに、そんなイメージを描けたのは初めてだった。
これからは、好みかどうかという目に見える価値だけではなく、その背景の取り組みや想いもふまえて選んでいきたい。
「ものを買う」という小さな選択が、望む世界の一助となることを信じて。