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出産レポ、わたしが思う無痛分娩の1番のメリット。

私は人一倍、痛みに弱い自覚がある。
夫との初めてのクリスマスデートでは転んで小指をぶつけ、しばらくの間「折れたかも…」と半泣きだったし(数時間後、痛みはひいた)
また、腹痛や頭痛なぞあればずっと「痛いよう…」と脳の殆どを痛みに支配され、今していることがほとんど手に付かなくなる。

なので、人生最大の痛みと噂される「出産」という一大イベントにおいても、出来る限りその苦痛を取り除きたいと考えるわたしにとって、「無痛分娩」を選んだのは迷う余地がなかった。

11月2日に、長女を出産したわけだが、出産の振り返りとともにわたしが感じた一番の無痛分娩のメリットを綴ろうと思う。

最初に言及しておきたいのが、「無痛」と名がつくが、決して無痛ではない。
産める段階になるまで、陣痛と闘い続ける間の痛みはなかなか壮絶だし、人によっては麻酔のタイミングにより痛かったり、麻酔があまり効かなかったりする体質の人もいるからだ。


*****

我が子はわたしに似てマイペースなのか、予定日を1週間過ぎても、出産の兆候が見られなかった。
予定日を超過しすぎても、子に様々なリスクが生じてしまうので、入院して薬で陣痛を起こす「誘発分娩」を行うことになった。

しかし、夜から入院する予定の朝、突然痛みはやってきた。とはいえ、軽い生理痛くらいで、日常生活を送るのに支障をきたすほどではなかった。

これが、本陣痛前の前駆陣痛かなあ…今日昼から図書館に本を返却するつもりだったけど、今行っといた方がいいかなあ…なぞ朝食の野菜スープを作りながら呑気に考える余裕があった。

けれど、そうこうしているうちに徐々に増していく痛み。陣痛タイマーで時間間隔を計っていると大体10分おきくらい。
これは前駆陣痛やない。本陣痛や…!

朝、夫を仕事に送り出し、家にはわたし1人。
ここ最近やりとりをしていた、先輩ママである友人2人に、「陣痛きたかも~」なんて送ると、
「食べれるときになにか食べておけ」
「身体を温めると、痛みが和らぐ」
「シャワーは、浴びれるうちに浴びて」
などなどのありがたい助言。

アドバイス通り、入浴剤を入れてお風呂に浸かる。そして病院に持っていく入院バックの中身を再度確認。

乗り越えるには、考えつく限りの物理的準備とメンタルの準備をしておいたつもりだ。

ちなみに心の準備は、Youtubeで助産師さんが挙げている数々の動画や出産レポなる動画を数日間見漁り、出産にまつわる雑誌を3回は読んだ。

また、病院に持っていく少しでも心の平穏を保つために用意した物理的準備は以下の通りである。

・チョコレート
・好きな飲み物
・ゼリー飲料
・アロマオイル
・お気に入りのハンドクリーム
・お気に入りのふわふわハンカチ
・もらったいい匂いのリップクリーム
・ホットアイマスク
・ヘッドマッサージャー
・ノートとペン
・神頼みのお守り
・夫の匂いが染み付いたTシャツ

夫の匂いはなんだか落ち着く。二日くらい着たTシャツを貸してと夫に頼むと猫やん、と笑われた)

ちなみに一般的に持って行った方が良いとされるストロー付きマグや、痛み逃し用テニスボールなどは病院にあると言われたので、用意していない。

夫に早めに帰宅してもらって、夕方から病院へ向かい、早めの入院。

早速、陣痛室なる、産める段階になって分娩台に運ばれるまでしばらくかかりそうな人用の部屋に入れられた。


誘発剤を打つ前に陣痛が来たし、これは今晩生まれるのでは…なんて楽観的に考えていたわたし。

このときはまだ我慢できるくらいの痛みで、むしろ人生初入院わくわく!みたいな気持ち。
病院で出てきた晩御飯を「美味しい〜」と夫に写真付きで送りつけた。
そう、この病院を選んだ理由の一つにご飯の美味しさもある。


さすがに夜中は眠くなって、うつらうつらしてしまったけれど、強くなってきた定期的な陣痛で起こされるもんだから、これがなかなか辛い。

いっそのこと、起きていて痛みが出るたびに体制を変えて、コントロールする方が楽なのでは?と気付いた。
四つん這い、そしてヨガの猫のポーズのような姿勢を取りつつ、これは赤ちゃんがだんだん生まれようと下に降りてきている痛みなのだ、出産は赤ちゃんとの共同作業!と前向きにとらえながら痛みを逃す。

ちなみにベッドに備え付けのテーブルにて、この時の状態や気持ちなどをつらつらと書き綴ったノートには、
「痛みや困難は闘う、迎え撃つものではなく、受け入れるもの」
という言葉が残っている。
…おお、なんか悟ってんな、わたし

ところが痛みが強くなって、寝不足による疲労がたまってくると、そうは言ってられなくなってきた。妊娠後期から夜に殆ど寝付けず、お昼寝でしのいでいたので、昨夜も2時間ほどしか寝ていない。

相部屋である陣痛室にわたしの他に誰もいないのをいいことに、
「おーがんばろー!」「一緒にがんばろー!」
と声を出すことによって、気を紛らわせる。
部活中の中学生のランニングか…!

そうこうしているうちに長い長い夜が明けた。ヤンキー座りのような姿勢も少し楽なことに気づく。

朝になってしばらくすると、相部屋である陣痛室にもう一人の妊婦さんが入ってきた。
さすがに数分置きのセルフ応援掛け声を聞かせるわけにはいかないので、この技は封じざるを得ない。大きく腹式呼吸をして、耐え忍ぶ。

「痛みは陣痛のために必要な痛み」
「赤ちゃんも全身で頑張っている」
「赤ちゃんと協力することが大事」

出産まで、充分そういったマインドは頭に叩き込んできたつもりだ。
昨日の夜中までは素直にそう思えていたけれど、寝不足による疲れといつまで続くのか分からない痛みにメンタルがやられ始めるのがわかった。

痛みがやってくるたび、恐怖ともう嫌だ…という気持ちになってきた。朝ごはんは何とか口にしたものの、昼ご飯の頃には、食べる気になれず半分くらい残してしまった。

インフルエンザに罹ったときも、コロナに罹ったときも食欲旺盛だったこのわたしが…!

さすがにお腹が空いたので、合間に友人にもらったゼリー飲料をすする。


痛い、と声に出せばさらに痛く感じそうで言葉にするのは避けていたのだけれど、痛いもんは痛い。背中とお尻の真ん中らへんが、がんがん痛い。

「痛いよー!いや、痛くないー!」
とわけのわからないことを呻いていた気がする。恐らくわたしより年下であろう、黒木華似の可愛らしくかつシゴデキな雰囲気を醸し出す助産師さんに、背中をさすってもらう。

わたしより後から来た妊婦さんが分娩室に運ばれていったのが気配でわかった。
黒木華似助産師さんに、何度も「絶対にゴールはありますから。」と励まされる。
そりゃそうでしょうよ…嘘でもいいから「もうすぐです」と言って欲しい。


内診も子宮口を広げるためのバルーンを入れるのも、全部が痛くて、もう気持ちがめげにめげる。

そのうちに5分間隔の陣痛。
子どもみたいに
「陣痛もう嫌だ~。」
と助産師さんにめそめそ訴える。
痛みに弱いわたし、疲れと痛みにより、理性はだいぶ前にどこかに飛んでいったらしい。

ちなみにこのとき、他に前述した入院バックの「心の平穏グッズ」で使用したものは、いい匂いのリップだけだった。
アロマオイル?ヘッドマッサージャー?
そんなもん使う余裕は皆無だった。

ちなみにこのリップ、
めっちゃ深呼吸するから、唇カサカサなんねん」とのことで、出産前に友人にもらったリップ。
確かに、尋常じゃない頻度の腹式呼吸により唇はサハラ砂漠である。
経験者の叡智、ありがたきことこの上なし。

ようやく、夜になり赤ちゃんが少し下りてきたらしく、念願の麻酔を入れてもらえることになった。
背中に管を通す針が少し太いらしく、ちくっと痛いと聞いてはいたが注射の痛みなんてなんのその、全然へっちゃらだった。

しばらくして、麻酔が効いてきて痛みから解放された。

モニターで陣痛(お腹の張り)の波は確認でき、お腹が張る感覚はわかるが、痛みは本当に消え失せた。

陣痛促進剤を打ってもらった効果か、わたしの身体はどんどん産む準備が整ってきていた。その間、わたしは何をしていたか。

ー分娩台の上で2時間、爆睡。
痛みがないってつくづく素晴らしい。麻酔、神…。


予期せぬ睡眠ボーナスタイムにより、体力・気力共にすっかりチャージされたわたしは、
「今から産むよ~★」
みたいなノリで、心配してくれていた両親や夫、先程連絡を取っていた友人たちにラインを送る。夫に立ち合い出産をしてもらう予定だったが、分娩前にも面会できる時間を作ってもらえることになった。

昼食、半分食べれず、さらに麻酔を入れたため、晩御飯も食べ損ねてしまい、空腹の極み。

「お刺身と鰻をたらふく食べたい」
(妊娠中控えていた)
夫「一気じゃなく、どっちかずつね」
なんて、やり取りをした。おかえり、食欲。

「じゃあ、頑張ってね~」
と手を振り、夫は一旦分娩室から退出。

夜中の12時半から分娩、スタート。
陣痛の波に合わせていきむ。息を吸って吐いて、その後止めて腹筋に力を入れて、全身の力を込める。顔中の血管、そして耳がかっと熱を持った。
目を閉じると力が逃げるらしいので、目は開けたままおへそのあたりを見る。youtubeや雑誌で予習していたことを冷静に思い出すことができた。

「はい、息、吐いて~、もう一回いくよ~、上手上手。」
ベテラン助産師さんの声。
何かに似てるな、という既視感。
…あ、パーソナルジムだ

以前、ウェディングフォトを撮る前に2か月間だけパーソナルジムに通ったのだけれど、ちょっとあれに似ている。
パーソナルジムの筋トレの穏やかバージョン。

少し暗めのライトに、端には徐々に色が変わるタイプの照明。
トゥートゥートゥーという何かのセンサーの音。モニターから聞こえる赤ちゃんの心音。
そして、助産師さんとわたし、2人きりの分娩室。

お産って、もっとたくさんの医療スタッフに囲まれ声をかけられて、妊婦さんは痛みのあまり叫んでってイメージしていたけれど、静かで穏やかな空間だった。

痛みがほぼない分、呼吸、そして力を入れるタイミング、一回一回集中して行うことができた。そして、お腹の娘ちゃんに心から、
「一緒にがんばろうね」「大好きだよ」「待ってるからね」とエールを送ることもできた。

いきむ合間には、この子がお腹に宿ったときのこと、これまでのことを思い返したり、また、この子のこれからの人生に想いを馳せたりもした。

しばらく、いきんで深く呼吸をし…と穏やかパーソナルトレーニングを繰り返すこと90分間。

最後の最後、少し我が子の心拍が落ちる瞬間があったようで、吸引分娩されることになった。わやわやと部屋に何人か入ってきた医療スタッフ、それから夫。

「そろそろですよ〜、はい力込めて」

ぱちん。
(あ、あそこ、切られたな)
どぅるん。

待ち望んだ我が子は、ついにこの世界にやってきた。いや、引っ張り出された。トイレ掃除のすっぽんのようなものを頭に付けて。


出産だから当たり前なのだけれど、自分の股から、1人の人間がどぅるんっと出てきて掲げられたのは、(ライオンキングのあのシーンイメージ)なかなか面白い光景で、

うはっ、人間が出てきた!笑」
思わず口走ってしまった。
耳元で、
「そりゃあ、ね…」
と言う夫の笑いを含んだ声が聞こえた気がする。

こんな大きな人間が、お腹にいたのかあと思うと、感動より先になんだか笑えてきた。

お腹にほんのりあったかい、生まれたてほやほやの赤ちゃんを乗せられたときは、
「おお…命の重み…」
とさすがにちょっとうるっと来たけれど。

ちなみにその後は、胎盤を出す後産や切ったところを縫われたりする処置が行われたが、麻酔により痛みが一切ないので、無敵状態である。

ちなみに、数週間経った今でも夫には、
「産んだ瞬間、まりさん、『人間出てきた!』って言うてたもんな」
とネタにされている。

折角立ち会い出産をするのだから、滅多なことでは感情を表に出さない夫の感動の涙とか、心からの「ありがとう」とか見聞きしたかったのだけれど、おそらくわたしの「人間出てきた!」発言により、それらを掻き消してしまったものと思われる。惜しいことをした。


「生まれてきてくれてありがとう」とか
「やっと会えたね」とかもうちょっといい感じのことを言って、一生に一度かもしれない瞬間を、感動シーンにしたら良かったと思うものの、後の祭りである。


****

「無痛分娩」という方法を選んだとき、わたしは正直、少しでも「痛み」という苦痛を減らしたい、としか思っていなかった。

実際に経験してみて思ったのが、痛みという恐怖をなくすこと1番の目的じゃなくて、我が子に想いを馳せながら産むことができるのが最大の無痛分娩のメリットなんじゃないかということ。


どれだけ我が子のことを想っていたとしても、体力がなくなったり、痛みが強かったりしたら気持ちの余裕がなくなってしまうことを、陣痛中、身を持って知ったから。

また、もう一つのメリットとして、痛みで変なところに力が入ったりしないために、無痛分娩は、自然分娩に比べて産後の回復が早いらしい。
1人しか経験がないので比べようがないが、
確かに産後の身体の回復は思っていたより早いように感じた。

*****

出産するなら、絶対に無痛分娩。
以前からそう強く心に決めていたものの、
母に無痛分娩にすることを告げた際言われた、
「母親になるねんから、出産の痛みくらい我慢したらいいのに。無痛は高いねんからその分子どもに使ってあげたらいいのに。」
という言葉がちくっと刺さった。

確かに「無痛分娩」は、保険外治療なので自然分娩よりも、結構値段が張る。

まさにわたしはお金で、痛みを和らげるという楽さを買おうとしていた。「痛み」も母になるための「試練」なんだろうか。

そのこともあってか、出産前、誰かに「自然分娩?無痛分娩?」と聞かれ、「無痛分娩」と答えるときには、少しばかり後ろめたい気持ちがないわけではなかった。

少し前に、某芸能人がファンが発した「出産が怖いです」というような言葉に「(無痛分娩を)旦那におねだりすれば」と返したことがプチ炎上したのが記憶に残っている人もいるかもしれない。

若い世代では、広く受け入れられている印象の無痛分娩だが、「お腹を痛めて生んだ子」という常套句があるように「母親なら痛みに耐えるべき」といった「痛み信仰」も世間には、やっぱりまだじんわり残っている気がする。

しかし、わたしは出産した1人の母として声を大にして言う。
愛に痛みは関係ない。
あれよりさらに痛ければ、より子に対する愛は深まったかと聞かれれば、全くそんなことはない。

むしろ出産中、より我が子に思いを馳せることができたので、わたしは、無痛分娩を選んで本当に良かった。

もし世間体を気にして、無痛分娩に躊躇する方がいれば、胸を張って選べばいいと思う。

しかし、日本は欧米諸国に比べて、無痛分娩があまり普及していないことも事実だ。

比較的都市部に住んでいるわたしも、無痛分娩を取り扱っている病院を選ぶとなると、選択肢が狭まった。近辺に病院が少ない地域だと、無痛分娩にしたくてもできない方も多いのだろうと思われる。

そして先ほど、ちらりと挙げた高額な価格問題。中には経済的な理由で、無痛分娩を諦める方もいるだろう。

ただでさえ、何かと心身共にトラブルの多い妊娠期間。そして、辛い陣痛。
もちろん無痛分娩にもデメリットが存在するが、妊婦本人が望むならせめて産むときの痛みくらいは、取り除けるならそれに越したことはないと思う。

単純な話ではないにしろ、無痛分娩を望む妊婦さんが地域格差や経済格差によって阻まれることのないよう、国が保険の適用を進めたり、医療体制を整えたりしてくれるといいなあ。


#出産 #出産レポ #無痛分娩


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