かちかちの黄昏スイーツ。
そのスイーツの名前は、「佐藤さん」と言う。
正式な名前は、パブロバ、ニュージーランド発祥のスイーツ。
3時間かけてじっくりサクサクと焼き上げたメレンゲをベースにフルーツアイス、生クリームなどで仕上げた新しいスイーツらしい。
以前通りかかった時に気になっていて、ふらっと訪れたカフェ。
入ってみて分かったのだけど、そこはアートカフェ、らしく、白を基調としたお洒落な壁に、アーティストさん二人の作品が何点か展示されていた。
ちなみに伺ったときに、展示されていたのは、自然を軽いタッチで描いた絵たちと、精巧な切り絵たち。
アートを楽しみながら、美味しいものを頂けちゃうなんて、なんだか得した気分だ。
話を不思議な名前のスイーツに戻そう、
ーなぜ「佐藤さん」?
佐藤さん、はご存じの通り日本で一番人口の多い苗字だ。メジャーな佐藤さんにあやかり、このスイーツ認知度が上がって欲しい、有名になって欲しいとの願いが込められているそうだ。
パフェも名物メニューのようで、斜め隣の同年代くらいのカップルや、わたしより少し年代が上だろうと思われる女性も、苺が乗った、目にも鮮やかなパフェをつついている。
華やかなパフェにも惹かれたが、俄然気になった「佐藤さん」を注文することにした。
「佐藤さん」を注文しようとしたが、困ったことがある。
「佐藤さん」だけで、複数いらっしゃるのだ。
大人な佐藤さん、眠りたい佐藤さん、恋する佐藤さん、、、、。
そしてスペシャルティ佐藤さん。
しかも、渡されたメニュー表は、白い紙に教科書体で書かれた黒字の文字だけ。
こちらが、得られる情報は、生クリーム、果物の名前、何アイスかといったそのスイーツに入っているものと、イメージのみ。
何が美味しそうなのか、何を選べば今のわたしの気分にぴったり来るのか、書かれている文字たちを、いつもより丹念に追う。
そしてその中で、特に気になったのが、スペシャリティ佐藤さん、の中の「誰そ彼佐藤さん」。
黄昏ーたそがれ。
日が落ち、暗闇が混じりだす頃、人の顔の見分けがつかなくなり、「誰そ彼?(あなたは誰?)」と言ったことが語源だという。
淡い紫色がベースなのかな。
アイス2種、クリーム、苺、ゼリー、とメレンゲの佐藤さん。
多分、お皿の真ん中にそれらが、きゅっとバランス良く乗せられているのだろう。
お洒落なフレンチやイタリアンのように、カシスやチョコソースなんかがお皿の周りに、散りばめられているのかもしれない。
そんなことを思いながら待っていると、
運ばれてきたのは、黒いお皿に載せられた淡い紫の色の球体一つ!
その球体は、ムース的なもので、ぐるりと覆われている。
モンブランみたいだなあ。
あの中に「佐藤さん」が?
なるほど、覆うことで誰?と正体をぼやかしているのかな、なんて考えてみる。
わくわくしながら、フォークを差し込んだ。
ーコツン。
ところが、そう軽い音がしてフォークははじき返されてしまう。予想だにしなかった、感覚に面食らう。
ムースではなく、それ自体が「佐藤さん」つまりは、メレンゲだったのである。
そしてオペ中のブラックジャックよろしく、慎重かつ豪快にぐるりと、赤道線上に切り開いた。
そして中から、顔を覗かせる、アイスやジュレ!
まるで宝箱を開けたみたいで、なんだかきゅんとする。
甘酸っぱい苺アイスに、大人な味のラベンダーアイス。
さくさくした食感が楽しいカシスメレンゲ。瑞々しい苺。
優しい味のラベンダージュレ。
まったりと優しいホイップ。
そして、アクセントに柚子のジャム。
色んな食感と味が混じり合う、甘くて魅惑的な黄昏、を堪能することができた。
〜*〜*〜*〜*〜*〜*
視覚って、何かを選ぶ判断基準のほとんどだと思う。
服や装飾品、料理。
デザインが好み、好きな色、美味しそう、など
何かを選択するのに、見た目は切っても切り離せない。
今回、「見えないこと」で、いかに自分が普段、視覚を元にして判断していたかをまざまざと、思い知らされた。
しかし見えないことで、想像は膨らむ。
こうだったから、きっとこう。
想像なんて、自分の経験により積み上げられた、ちっぽけなものだ。
目の当たりにすることは、時に想像のはるか上を超えてくる。
そのギャップもまた、面白いんだよなあ、なんて思わされてしまった。
そして、撮った写真を見返してみて改めて今、気づいたことがある。
食べている最中には何気なく口にしていたけれど、この上に乗っている、スライスされた金柑の砂糖づけは、きっと沈みゆく太陽。
ははあ、そういえば黄昏だったもんね。
なんて粋(いき)なんだ!
アートカフェは、アートが飾っているカフェ、じゃなくって、スイーツそのもの含めてアートだった。
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