SIerのUXデザイナーが2020年に読んでよかった10冊
2020年は、4月にリモートワーク対応、6月に引っ越し、8月に第一子が産まれ、例年とは一味違う読書ライフになりました。ドタバタな2020年でもコツコツと読んだ書籍を振り返ると、仕事に活かせる良書が多かったです。
紹介する10冊は、UXデザイナーに限らず、サービス/プロダクトに携わる人にぜひ読んでほしいものを厳選しました。年末年始のお供にどうぞ。
※本記事はNSSOL Advent Calendar 2020の23日目の記事です。
※本記事は個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。
1. 『オブジェクト指向UIデザイン』
オブジェクト指向UI(OOUI)は、オブジェクト(もの、名詞)を起点としてUIを設計すること。タスク(やること、動詞)を起点としたUIに比べて、画面数が減って作業効率が高まり、また開発効率や拡張性も向上する、いわば「銀の弾丸」的な効果があります。
これを読んでからはソフトウェアの見え方が一変し、使いづらい理由を格段に把握&説明しやすくなりました。OOUIは、単なるUIデザインの書籍ではなく、ソフトウェア開発の哲学であり、ソフトウェア開発に携わるすべての人が身につける教養です。
2. 『プロダクトマネジメント』
機能を作ることばかりに集中してしまい、顧客価値やビジネス価値を生まないプロダクトが出来上がることは数多くあります。その原因の1つはビルドトラップに陥っているから。
ビルドトラップとは、組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして、行き詰まっている状況のことです。別の視点では「間違ったものを正しくつくる」の状態です。
ビルドトラップを避け、顧客価値とビジネス価値を生み出すプロダクトマネジメントの原則は、プロダクトマネージャーに加えてデザイナーやエンジニア、営業などプロダクトチーム全員が意識し、実践することが重要です。
3. 『Clean Agile』
2001年にアジャイルマニフェストが提唱されてから、約20年が経ち、間違った解釈や都合の良い解釈が広まっています。著者はマニフェスト作成者の1人として「アジャイルに関する事実関係を正すこと」を目的に執筆しました。
アジャイルは伝言ゲームのように少しずつ間違って広まり、企業の耳に届く頃には「ソフトウェアを高速に提供するプロセス」に変わっていました。WFを採用していた企業とマネージャーには、聞き心地の良いものでした。
基本を知り、立ち戻り、アジャイルを"不正利用"している人々に騙されないように警鐘を鳴らしている著者の想いがこもった一節を紹介します。
基本を理解しておけば、世の中に蔓延する「不正利用」にだまされることはないはずだ。そして、その基本を同僚や後輩にも伝えてほしい。我々には「次世代の開発者に居場所を用意する責任がある」のだから。
4. 『Pitch』
これまでのスタートアップ関連書籍は、事業立ち上げのプロセスやフレームワークを解説していました。それに対して、投資家の出資を勝ち取ることを目的とし、スタートアップの成長性を伝えることにフォーカスしています。
Pitchはプレゼンテーションとは違い「話を聞く用意のなかった人をも、口説き落とす」「相手の決断を引き出す」のが特徴。これを抽象化すると、Pitchはアイデアを結晶させ、人を動かすメソッドとも言えます。
紙面を埋め尽くすほどの情報を埋めるのはPitchではない。どれだけ埋め尽くしても不確実性は残るし、投資家は核となる価値や決め手を見つけられない。「これさえ実現すれば、人が対価を支払ってでも使ってくれる」そんな風に、可能な限りシンプルに考えるヒントを与えてくれる一冊です。
5. 『アフターデジタル2』
前書 『アフターデジタル』で「行動データ×エクスペリエンス」の唱えました。すると「行動データ」が切り取られ、データの所有自体を財産と勘違いし、データを共有したり、売買したりするサービスが多くなってしまった。
本書では、忘れ去られてしまった「エクスペリエンス」の重要性を説います。そして現在注目されているDXを次のように定義しています。
新たな顧客体験(=UX)を作り、顧客との関係性を築くことがDXであり、UXを議論しないDX、顧客視点で提供価値を捉え直さないDXは、本末転倒である。
新たなUXの提供が目的であり、その手段としてデータ活用が存在する。ある意味で「データ活用」というビルドトラップに陥っていることを気づかせてくれます。DXに携わっている、DXとは何かを知りたい人におすすめです。
6. 『イノベーション・スキルセット』
BTC型人材の提唱や『デザイン経営宣言』の中心人物として、有名なTakramの田川欣哉さんの著書。イノベーションにおけるデザインの役割、BTC型人材、デザイン思考に関して、今まで読んだ書籍の中でも最もわかりやすい。
そもそもデザインとは何かについて、ヨーロッパ/シリコンバレーのデザインの違い、I派/We派という視点から、ぼんやりとした輪郭をはっきりしました。そして越境型人材に求められるスキルセットが明確になります。
デザインに加えてテクノロジーやビジネスのスキルをつけたいデザイナー、デザインを事業に取り入れたい経営者やチーム、組織におすすめです。
7. 『CULTURE CODE』
よいチームとは何か、よいチームを支える文化や仕組みは何かを紐解いた一冊。Google、IDEO、Pixar、Navy SEALsなどの多種多様なチームを研究し、共通する3つの文化(=CULTURE CODE)を見出している。
3つの文化とは「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標」。逆にチームを悪影響を与えるのは「性格が悪い」「怠ける」「周りを暗くする」の3つのタイプの個人であることが判明しました。
チーム力は共有されている文化と価値観で決まります。チームを破壊する問題を提起しながら、実際のプラクティスを学べる本書は、チームリーダーやスクラムマスターなど、現場でチームを育てる立場の人におすすめです。
8. 『21 Lessons』
『サピエンス全史──文明の構造と人類の幸福』と『ホモ・デウス──テクノロジーとサピエンスの未来』の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの新著。サピエンス全史では「過去」、ホモ・デウスでは「未来」、今回は「現在」にフォーカスしている。
著者は何かしらの答えではなく、現状理解のきっかけを与えてくれる。そして次の信念のもと「あなた / 私たちはどう生きるのか」を問いかけている。
無知を認め、難しい疑問を提起するのを厭わない勇敢な人々から成る社会のほうが、誰もが単一の答えをまったく疑わずに受け容れなくてはならない社会よりも、たいてい繁栄するばかりか、平和でもある
「宗教」「移民」「テロ」「戦争」「世俗主義」「ポスト・トゥルース」と多岐にわたるテーマは、現代社会の課題を見つめるために必要な教養です。
9. 『哲学の先生と人生の話をしよう』
メルマガの人生相談コーナーをまとめた書籍。國分先生の鋭い観察眼と洞察力から紡ぎ出される考察は、感服に値する。相談者の文章をそのまま受け取るのではなく、背景を読み取っており、そのことを次のように述べている。
書かれていることだけを読んでいてはダメである。人生相談においてはとりわけ、言われていないことこそが重要である。人は本当に大切なことを言わないのであり、それを探り当てなければならない
主張が一貫していないように見えても、視点を変えると一貫する。それが本当に言いたいこと、大事にしていることである。この探り当て方は、プロダクト開発のユーザーリサーチ、日常のコミュニケーションに応用できる。
言われていないことを汲み取るスキルを追体験できる一冊です。
10. 『敵とのコラボレーション』
関係者が互いに賛同できない、好きではない、信頼できない、つまり敵と感じている状況において、あらゆる派閥を一つの部屋に招き入れてコラボレーションし、不可能に思われる未来を創造しうる考え方と行動の指南書です。
従来型コラボレーションは、共通の課題認識と共通のゴールに合意し、必要な行動を全員に強制するものだ。著者が提唱する「ストレッチ・コラボレーション」はコントロールという幻想を捨て去り、合意のないまま、あるいはそれを超えて、一緒に前進する方法を見つけるためのプロセスです。
2020年現在、アメリカでは民主と保守、ソフトウェア開発ではWFとアジャイル、身近にもマネージャーと開発者、と多くの分断が存在します。本書はあらゆる分断を乗り越え、未来への一歩を踏み出す人に読んでほしい一冊。
さいごに、読書に関する名言として、哲学者デカルトの言葉を紹介します。
良き書物を読むことは、過去の最も優れた人達と会話をかわすようなものである。
普段は、仕事で抱えている問題や悩みを思い浮かべながらページをめくり、解決策を探しています。相談に乗ってくれる著者には感謝しかありません。この年末年始は、みなさんも最も優れた人たちと会話してみませんか?
では、良いお年を。
p.s. 2018年にも、おすすめの10冊を紹介してます。こちらもどうぞ。
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