【Les Résistants】またしてもスペシャルな店に出会ってしまう
今宵はLes Résistantsへ。
https://www.lesresistants.fr/
レピュブリック広場にほど近いミシュラン掲載店。
ホームページには、食材の生産者たちに対するリスペクトがぎっしりと書き込まれている。
生産者とグルメな市民をつなぐレストランとある。
食へのこだわりについて、ここまで熱量を込めて発信している店も珍しい。
環境倫理。人間らしさ。季節性。生物多様性。地域性。鮮度。笑顔。伝統。透明性。公正さ。持続可能性。
画一性や効率性へと流されやすい時代に抗するLes Résistants(抵抗者)。
あまりの「正しさ」にやや興ざめしてしまったが、そのこだわりはどうやら大真面目らしい。
オシャレだからなんとなくやっています、ということではなさそうだ。
ただし、その誠実さと情熱が「おいしい」に届いているかどうかは別の話。
半信半疑で訪れる。
地下鉄をレピュブリック駅で降りて北駅のほうへと向かう。
Googlemapが指示するままに脇道に入る。
ふむ。
なんだか思ったよりも楽し気な雰囲気の路地。
日本に比べれば、パリの夜は暗い。
ヨーロッパの他の街からすればこれでも明るいほうなのだろう。
しかしよそ者にとってこの暗さは寂しい。
食事をしにいくのに、うらぶれた路地を進むのは億劫だ。
しかも外は寒い。
どうやらこのエリアは賑わっているようだ。
そんなささいなことが、気持ちを明るくしてくれる。
店に対する期待感が高まる。
店に到着し、席に通される。
客の半分くらいは外国人旅行者のようだ。
ウェス・アンダーソンがデザインしたかのような作り込んだインテリア。
どうかこの創造性が料理にも注がれていますように。
メニューが運ばれてくる。
ひとつひとつの食材に生産者の名前が記されている。
サービス係がやってきて、今宵のメニューを丁寧に説明してくれる。
「お腹いっぱいならメインだけでもいいし、前菜を食べながら考えてもいいですよ」とのこと。
座った瞬間に前菜からデザートまで決めなければいけない店も多いなかで、ずいぶんと柔軟なことを言うもんだ。
「前菜2皿とメイン1皿だと多すぎますか?」と聞いたら「前菜は小さめのポーションだけど、2皿食べるかどうかは人によります」と言われて撃沈。
そりゃそうだけれども。
「人による」という回答は答えになっていない。
この店での一般的な流儀を聞きたいのだけれど「多様性に寛容」な時代だから仕方あるまい。
標準を探るのはあきらめよう。
前菜にはタラのブランダードをとる。
タラとジャガイモをペースト状にしたもの。
運ばれてきた瞬間から、いかにもおいしそうな香りが立っている。
くるくるっと巻かれたピンク色のものは紅生姜かと思いきや紅芯大根。
千枚漬けのように甘酸っぱく味つけされた紅芯大根の香りが、皿の熱に温められてほんのりと立ちのぼってくる。
いい感じ。
白いものがブランダード。
それなりに塩が振ってある。
タラとジャガイモというヨーロッパの人が好きな(そしてわざわざ付け加えておくと、僕があまり好きではない)組み合わせ。
下に敷かれた薄ピンクのペーストはtaramaという明太子のようなもの。
タラから感じる磯の風味、紅芯大根の甘酸っぱさ、クルトンの香ばしさ、添えられたネギの苦味。
全体としてたこ焼きのような味。
明太子入りのたこ焼きだな。
悪く聞こえたかもしれないけれど、素直においしいと思った。
食べても食べても飽きが来ない。
というよりも、吸い込まれるように、もっともっと食べたいと思う。
素材感をしっかり残したそれぞれの具材が、口のなかで調和していく。
味に味が、香りに香りが、うまく乗っていく。
いかにもフレンチらしい構築的な皿だ。
単純においしいというのでもないけれど、おもしろい、考えさせられる、刺激される、そんな料理。
店に対する半信半疑の目盛りが、「信」のほうにぐっと近づく。
前菜としての役割をしっかりと果たしていると思った。
メインは牛肉をとる。
フロマン・デュ・レオンというブルターニュ産の絶滅危惧種の乳牛。
絶滅危惧種が食材になるということは、乳牛としての役割を終えた牛ということなのだろうか。
肉のまあなんと噛み応えのあること。
伝統的に、フランス人は硬い肉を好むと言われる。
親の仇のように硬い硬い肉を嚙み砕きながら食べるのが、彼らにとっては肉を喰らうということなのだろう。
僕のヤワな歯と顎では追いつかない硬さ。
しかし噛めば噛むほど旨味が出てくる。
肉を食べるというのではない、肉をがしがし喰らう喜びを感じる。
付け合わせの人参はほんのり甘くて上品。
かたや、ムース状になった人参は甘くない。
この落差がおもしろいというか、考えさせられる。
立ち止まる。
リンゴと穀物(小麦のような)が下に敷かれている。
さわやかな甘味と酸味。
複数の味、風味、香りが次々と味覚を刺激してくる。
肉自体が単においしいというのではない。
皿として、料理として、滋味があり、親しみ深く、バランスがとれている。
なんだか極上のものが目の前にある、そんな気がしてくる。
勢いでデザートも注文する。
栗と洋梨。
どちらも今がシーズンのようだ。
下地のクッキーの部分がとにかくおいしくて、ペロリと食べてしまった。
調子に乗ってデザートワインにまでたどり着く。
たらんと飲んで夜を閉じる。
食材と調理の隅々にまで神経が行き届いている。
すべての味と風味と食感に店が自信と誇りと責任を持っているのが伝わってくる。
Les Résistants。
心から信頼できる店を見つけてしまった。
またしてもスペシャルな店に出会ってしまった。