役に立たない野の花ずかん
『宵を待つ』
月の光にだけ愛されて咲く
レモン色の花
太陽を知らず
鳥たちが眠ってしまっても
小さく光る運命の中
朝になれば静かにまぶたをおろす
レモン色の花
明日がなくても
少しくらいは夢を見て
靴音をさがして宵を待つ
誰かのかたちと違っても
私のかたち
月の光にだけ愛されて咲く
宵を待つ花よ
【小待宵草】(コマツヨイグサ)
夕暮れ時に檸檬色の花を咲かせ、朝には赤く染まって萎む。
萎れてもなお消えない恋心のような花。
……………
『ふくらみ』
なんだかわからない
不思議な膨らみ。
ぷっくりと、
春に生まれた小さな、
ほんの小さな膨らみ。
それがあなたとわかるまで
ちょっと時間がかかりました。
なんだかわからない
ぷっくりと、
心の中に生まれた小さな、
ほんの小さな膨らみが
あなただとわかるまで…
赤ほどの情熱も
桃色のような可憐さもない。
ただどこか
遠くの空を眺めるような
少し冷めた眼差しのあざとさに
わかっていながら
いつだって
やられっぱなしだよ。
まったくね。
【長実雛芥子】(ナガミヒナゲシ)
スッと伸びた茎のクールさにクリームがかったオレンジ色が魅力的な花。
花が散った後の、先端に放射状の線があるフタのようなものがついた果実のその姿はなんともいえず怪しげです。
道端やコンクリートやアスファルトの隙間などでも育ち、風にゆられるその花の姿には惹かれるものがありますが、根や葉からは周辺の植物の生育を阻害する成分を含んだ物質が生み出されるため駆除されることも多い花。
……………
『愛にも毒にも』
雨上がり
夜の風に無邪気にゆれる、
ふりして笑う
あなたはうっかりちかづいて
こっそりあげましょう
ひみつの蜜を
私に触れるあなたのやさしさ次第
毒にも愛にもなれるから
【ランタナ】
花の色が変化していくため和名では「七変化」と呼ばれる。
果実は水分を多く含んだ黒い液果で、見た目はベリー系のフルーツのようだが種子は有毒。
鳥には無毒で鳥が食べて種子を運んでゆく。
種を噛み砕く可能性のある動物には有毒となる。
……………
『よるのうた』
ひとつ ふたつ 咲いたとて
夕闇にまぎれて
あのひとが誰かを想う頃
ただ見上げて月を待つ
みっつ よっつ わらい声
星のまねして
ころがる桔梗色の空
やさしい声 流れてとけた
いつつ むっつ 羽の音
たどりついたねどこ
まぶたあげた鳥は聞き耳
すいこまれたひとりごと
ななつ やっつ あのひとが
誰かの背中で眠る頃
ここのつ とお
ひとりあそびのよるのうた
【小手毬】(コデマリ)
小さな花が集まって少し大きな花として咲く。
そのまあるい姿から小手毬のほかに鈴懸(スズカケ)、団子花、雪球花(セキキュウカ)などとも呼ばれる花。
……………
『星』
遠くから
きみがふるのがわかるように
しろくてかわいい手をあげよう
僕の目がもし
見えなくなったとしても
その匂いでわかるから
いつでも
暗闇のなかでも
いちばんかがやくように
星のような名前をあげよう
僕のだいじなひと
かわいいひと
僕のだいじな
だいじなかわいいひと
きみだけは
この星の外からだって
僕はみつけられる
【花韮】(ハナニラ)
白、ブルー、薄紫、ピンクなどがあり、春に花びらが6枚の星形の花を咲かせる。
葉や球根を傷付けるとニラやネギのような匂いがする。
花言葉は悲しい別れ、耐える愛、恨み、卑劣というネガティブな言葉が並ぶ。
繁殖力が強く一度植えると辺り一面に花がひろがるのは、悲しい別れに耐え忍んだ反動で恨みのようにメラメラとひろがるということなのだろうか…
ピンクだけには愛しい人という花言葉がつけられている。
その可憐な姿に似合わず、なかなか激しい愛を持った花のよう。
……………
『地を這って』
小さなハートは地を這って
見上げるのはあなたか空か
小さなハートは赤く染まって
待つのはあなたかどうか
小さなハートはゆくゆく先々
疲れたらひと休み小石の隙間
小さなハートはちりちり潜り
湿度を求めて足先さぐる
私はきっと忘れてしまうけれど
あなたは私を忘れないでしょう
小さなハートは地を這って
見上げるのはあなたか空か
【赤酢漿草】(アカカタバミ)
花言葉は輝く心、あなたとともに、喜び、母の優しさ。
5〜8ミリほどの小さな花は鮮やかな黄色で花びらの付け根が赤い。
葉は赤紫のハート形が3枚で、夜になると傘を畳んだように閉じる。
シュウ酸を含むため金属を磨くと光る。
茎や根は細く切れやすいが繁殖力が強く、一度根付くと絶やすことが困難なため、縁起担ぎとして家紋の図案として多く使われている。