15年前の「阿田麵店」(台北市赤峰街の老舗)
約15年前、日本で台北の食堂・屋台料理を紹介する本を出版する準備をしていた頃、ある店で食べ物(台湾料理でなくプリン)の写真を撮っていたら、店主に何で写真撮っているのか?と聞かれ、日本で台北の食べ物を紹介する本を出すから!と答えた。すると「うちのなんか紹介する価値はないよ!もっと美味しい店を教えてあげるから、そこを紹介しなさい!」と言って、お勧めの店を三軒紹介してくれた。
その三軒は安西街の「炎仔」と大龍街の「小林麵食店」と赤峰街の「阿田麵店」。「小林麵食店」は既に店を辞めている。コロナの影響を受けたのかもしれない。「阿田麵店」はだいぶ前に店内改装して、昔の渋い面影は全くない。実は麵も非常に美味しかったが、古くて暗くて渋い、というかボロい店内の雰囲気がめちゃくちゃ好きだった。日本の人気ドラマ「深夜食堂」の雰囲気に似ていた。もうあの雰囲気が味わえなくて、非常に残念に思っている。
当時の赤峰街は車のエンジンの解体や修理屋さんばかりが集まった街だった。今は若い人が経営する飲食店やファッションショップなどが連なるおしゃれな観光地に変わっている。
15年前の「阿田麵店」は店内に明かりがほとんどなくて、真っ暗だった。店内中央に大きな木星の古いテーブルがドーンと置いてあり、身知らぬ客同士が並んで食べていた。両脇の壁にも木造のカウンターがあった。とにかく店内が真っ暗なんで、写真がきれいに撮れず、持ち帰えりにして、近所の公園で写真撮ってから食べたこともあった。あの当時何か工夫して、店内の写真もいろいろ撮っておくべきだった。今やあの雰囲気を伝える画像は手元に全くない。
数年前に久しぶりに行ったら、なんか普通の食堂風の空間になっていたし、おじさんじゃなくて、若い男性が麵を作っていた。昔、おじさんがテレビ局の取材を受けているところに偶然遭遇したことがあるが、女性記者が「スープを美味しくする秘訣はなんですか?」とか「麵を美味しく茹でる秘訣はなんですか?」といろいろ質問するのに対して、全て「そんなのわかんないよ!いつも感を頼りに習慣で作っているだけだから!」と答えていた。なんかかっこいいなあと思った。
昔、この店で麺を食べていると、近所に住む常連客らしいお爺さんが入ってきて、台湾人アクセントの日本語で「あぶら!」と一言だけ言って注文していた。店主も「ホォ!(OK!)」と一言返事しただけで油麵(iû-mī)の具なし(かけそばみたいに薬味しか入っていないスープ麵)を作って、お爺さんに渡した。これもすごくかっこいい光景だなあと思い、今でも時々思い出す。
あの当時、お客さんたちは皆んな台湾語で注文していたし、店主のおじさんも殆んど台湾語しか使っていなかった。だから、僕もいつも台湾語で注文していた。中国語を使うとなんか浮いてしまう感じだった。
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